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「うおおおーッ!!」
カコン! とピンを弾く音がする。 滝沢は1番のスコアを取る気だ。 ボウリング場に来たけどゲーセンに寄ってくだけだと思っていたのにな。
「こんなに気合入れてボウリングする人初めて見た。 次は柳瀬君の番だよね? 頑張って!」
先輩の笑顔に送り出されて俺もテンションが上がってきた。 滝沢が気合が入りまくっているのとその横で市原も静かに闘志を燃やしているのも篠原の提案のせいだった。
◇◇◇
「ねぇねぇ、せっかくボウリング場に来たんだからボウリングしてみよー?」
「あたしやった事ない」
「私もです」
「あら、じゃあちょうど良かったじゃない? 私も彩奈ちゃんの提案に賛成! ゆいちゃんは?」
「いいですよ! あたしも昔一回だけやった事あるくらいですけどね」
「柳瀬君達はどう?」
「ふふふ、ボウリングにはちょっと自信あるんすよ」
「同じく」
滝沢と市原は不適に微笑む。 はッ! やってもいいけどそんな事で先輩や他の奴らへ出来るとこ見せ付けたって意味はねぇぞ? ガキじゃあるまいし。 あ、ガキ3人ほど居たわ。
「ただやっても面白くないと思うの。 だって麻里とかそんなの興味なさそうだし今もダルそうだし」
「え? あたしだけ?」
「だからスコア高い人にはご褒美あげちゃいまーす!」
「え!? 彩奈ちゃん! ご褒美って何々!?」
滝沢が食い付く。 ガキにご褒美とか言われて興奮し過ぎだろ恥ずかしい奴だ。
「まぁお金出してもらってるから男の人には何かご褒美ないと可哀想でしょ〜?」
そう言ってこちらにウインクする篠原……
一体なんだ…… ッ!! こ、これはもしや先輩から何かあるのでは? おお! でかした篠原! お前にはいつもおちょくられていたけどこんなチャンスをくれるとは! これは頑張らればと奮起していると冷やりとした視線が突き刺さる。
日向…… そうだった、俺に好きと言ってくれた日向にとってはこの提案余計極まりない行為だ。 俺としても日向に嫌な思いをさせたくないという一方で先輩に何かしてもらいたいという希望もある。 何が正解なんだ!?
「んー、ご褒美ねぇ。 彩奈ちゃん何するつもりかしら? ねぇ柳瀬君」
「うえッ!? は、はい、そうですね」
「柳瀬君はこういうの得意なの?」
「いやぁー、どうでしょう? そんなにやった事もないですし滝沢達は自信満々ですけど」
「それにもし女の子達が1番スコア高かったらどうするつもりなのかしら?」
「さぁ? なんかそこら辺曖昧ですよね、適当な篠原らしいというか」
そんなこんなでボウリングが始まった。
「ん? 日向どうした?」
「重い…… こんなの持って投げれない」
「お前重いの選んでるからだろ? ヒョロいんだからもっと軽いの選べよ…… つってもお前や神崎って何気に篠原より少し身長低いだけだからそれなりに」
「見くびらないでね清人、あたしこう見えても運動全般苦手なの」
お、おう、寧ろそうなんじゃないかと思っての発言だったのだけどなんでマウント取るようにドヤッたんだ今?
日向は先輩と如月に目をやる。 先輩はともかく如月は別になんとも思ってないんだけどな。
気を取り直して日向に軽めのボールを選んで渡した。
「これならなんとか。 彩は余計な事言うしあたしやった事ないのに」
「まぁ俺もそんなに上手くないと思うから、久し振りだし。 あ、4人ずつに分かれてやるんだな」
「ならあたし清人とやる」
「だーめ! 麻里は私と一緒だよぉ!」
篠原がいきなり俺達の前に現れた。
「そんなのあたし聞いてない」
「あんたらがイチャイチャしてるうちに決まったの。 私と麻里とええと…… 市なんとかイッチーでいいや、それとゆっぴね!」
「なんでお前もうあだ名付けてんだよ。 市原と如月はそっちか」
てことは先輩と一緒! 顔を緩めると日向のヘイトが半端ないので心でガッツポーズをとる。
「むぅー、清人喜んでない?」
「い、いやまったく…… 」
悪い日向、だけど仕事以外じゃ滅多に先輩とこういう機会がなかったんだ。 なんだかんだで予定が合わなかったし。
「ほうら、帰ったら清っちにいっぱい甘えればいいじゃん? 私ら邪魔しないからさ」
「もとあと言えば彩が余計な事言わなきゃ!」
「あーはいはい! 後でキスしてあげるから」
「彩のなんかいらないもん」
うらめしそうな顔をした日向を篠原は引きずっていった。
「柳瀬君一緒だね。 私下手くそかもしれないけどよろしくね」
「あはは、チームプレイなわけじゃないので気楽にやりましょう」
「あら、それは?」
「ああ、一応みんなの分のジュース買ってきました。 好きなの選んで下さい」
「柳瀬さんマジ気が気が効くっすね! あざーす!」
「柳瀬さんありがとうございます」
そうしてボウリングが始まり下心丸見えな滝沢はストライクを取ると雄叫びを上げていた、恥ずかしい……
「次は莉亜ちゃんね、頑張って」
「は、はい!」
「お前緊張し過ぎだろ」
ガチガチな神崎はガーター連発していた。 そしてまたガーター……
「神崎少しリラックスしろよ?」
ポンと何気なく神崎の肩に触れると……
「うひゃあッ!!」
「うわッ!」
「な、何するんですか!?」
「何って…… 落ち着かせようと」
「逆にビックリしました! あなたは、あ…………」
神崎は周りの視線を感じたのか急に冷静になったようだ。 あんな変な声出したら流石な…… ていうか俺もなんか恥ずかしい。
「ぷぷぷッ! あんな感じで莉亜は突発的に声をあげるからみんな驚かないでねぇー」
「彩奈、またしても私を……」
「ほらな、だから落ち着けって」
「はぁー、もういいです」
頭が冷えたのか2投目、神崎はピンを全部倒した。
「わぁ! 見て下さい柳瀬さん、全部倒しました、ストライクです!」
「スペアな。 ほら、落ち着いてやれば出来たろ?」
「莉亜ちゃんおめでと! 俺も続くぜ!」
「はい! 全部倒れると楽しいですねぇ! ふふッ」
ピタッと神崎の手が俺に触れた。
「あ…………」
何を思ったのか神崎は椅子の背もたれに頭突きした。 マジで痛い子になったのか?




