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はぁー、なんでこんな事になったんだか…… まぁ俺が負けたからだけど。 つうか何故かあの日の告白した時から日向は俺の部屋に入り浸りだ。
「清人これどうする?」
「どうするって移動だろ、とにかく全部移動だ」
ゲームのコードを抜き手持ち無沙汰になったのかクルクルとコードを日向は回していると……
「いたッ!」
「バカ、なんで怪我してる鼻にわざわざぶつけてんだよ? 危なっかしいな、寄越せ」
「ふぁい」
「まだ結構痛いか?」
「大分マシにはなってきた」
思ったより普通に話せている。 だけどこいつはわかってるんだろうか? 申し訳ないけど日向の気持ちにはやっぱり応えられないという事を。
そしてそうなってしまったらこいつらとの関係にも亀裂が入る、当然俺はここには居られずに普通のアパートに越さなければならない。
ここの暮らしは今になれば住めば都になっているのか慣れたのか結構心地よくなっていた。 弁当は作らなくていいし買わなくていいし朝も夜も食事が出る、1月いっぱいまでだが掃除洗濯までやってもらっている。
おまけに美少女3人に囲まれるというのはそういう属性が好きな奴には堪らないだろう、だけどそういう輩は神崎によって最初の俺の時と似たような洗礼を受けると思う。 俺は高校生には手を出そうと思っていないのでそこら辺は本当に思わぬアクシデントだった。
つまり今更普通に一人暮らしするのは大変だし引っ越しも考えると面倒だ。 住むところ変わっただけでほぼ家に居るのと同じじゃないか? 今の状況……
ってバカか俺は! 先輩の事が好きならもうこんな生活とおさらばして本当に一人暮らしして先輩を家にでも誘えばいいじゃないか? それが1番、とは思うんだけどここにも愛着が湧いてきたのは事実だ。 こいつらにも慣れたしな、慣れたとはいえ慣れない状況に今いるが。
俺は一体何をやっているんだ? 何がしたいんだ? 結局どうなりたいんだ? と自問自答していると日向に腕を引っ張られた。
「清人、ん!」
「ん?」
日向を無視して遠い方向を見ているのにムッとしたのかゴロンと寝転ばせられて日向の膝に頭を置かれた。
「考え事?」
「そう、ていうか何これ?」
「清人があたしの膝の上に頭を置いた」
「お前にやられたんだけど?」
神崎か篠原にこんなとこ見られるとまたうるさくなりそうなのですぐに起き上がるとプクーッと日向の頬が膨れた。
「痛い……」
「変な顔するからだ」
「どこ行くの?」
「タバコ吸ってくる」
「ここで吸えば?」
「吸わない奴が居るのに一緒の部屋で吸えるかよ? 外に行ってくる」
「じゃあついてく」
「…………」
灰皿をもって玄関から外に出る。 タバコを吸う隣で日向は寒いのかしゃがんで服を脚に被せた。 そこまでするなら部屋で待ってればいいのに……
日向はしゃがんで目をパチクリさせながら俺の顔を覗き込んでる。 何を考えているんだろうこいつは。
「タバコ美味しい?」
「美味しいってかスウーッとする」
「吸うだけに?」
「お前って最初は面倒くさそうに喋ってたくせに今はどんどん喋るな」
「清人だからだよ」
「なんで俺なの? 学校とかに腐るほど男いるだろ?」
「気付いたら好きになってた。 学校の男子はそんな事なかったのに」
こいつの見た目的にモテるだろうしそれなりにチヤホヤされていたんじゃないのか? 俺以外に優しくしてやる奴なんてごまんと居ると思うけどな。 特段優しくしていたつもりも俺にはなかったし。
「不思議だね」
「ほんと不思議だ」
「清人はあたしの事嫌い?」
「極端な聞き方だな、嫌いなわけないだろ?」
「じゃあ好き?」
「だから極端なんだって。 普通はないのか?」
「ない」
「………… まぁだったら好きって部類なんだろうけど日向が思ってる好きとは違うと思うぞ」
「あたしは清人好き。 本当の意味で」
なんだろう…… めげないな日向って。 こいつにもわかってるはずだ、俺の気持ちが先輩に行ってる事くらい。
「そう言われても俺は困るんだけど?」
「わかってる、でも好き。 彩言ってた、好きって事を相手に伝えて意識させる事って」
「お前にそんなアドバイスしたの?」
「ううん。 清人が来る前にそんな事言ってたの聞いただけ」
そんな時玄関がいきなり開いて俺と日向はビクッとなる。
「2人ともサボってイチャイチャ?」
「なんだ篠原か、タバコ吸いに来ただけだよ」
「ほほーん、そんで麻里も健気についてきたのね、お熱いですなぁ」
「うるせぇわ、お前こそ何してんだよ?」
「気分転換よ、誰かさんが負けたせいで余計な事しなくちゃいけなくなったからね」
「根に持ってるなぁ。 悪かったって」
「こら!! こんなとこでみなさん何をサボっているのですか?」
神崎まで来てしまった……
「休憩だよ休憩! 少し息抜きは必要でしょ? 莉亜、なんかお菓子でも食べない?」
「彩奈はすぐサボるんですから。 でもまぁ休憩は必要ですね、じゃあキッチンに行って何か食べましょうか?」
「こんな時は話がわかるのねぇ、じゃあそうしよう」
「あたし達も行こう清人」
「ああ」
日向はさり気なく俺の腕を自分の身体に押し付けた。 神崎に見られたらうるさいだろうに……




