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「明けましておめでとー!」
「おめでとうは夜中に言ったし…… まだ6時なんだけど? お前ずっと起きてたのか?」
「え? 当たり前じゃん、寧ろ清っち部屋に戻った後寝てたの?」
「そうだけど? もしかして全員起きてた?」
今日から新年なんだけど…… 新年早々の朝から篠原の顔を拝むとは。
「あー、麻里は寝たかも。 莉亜は多分勉強かな」
「ふぅん。 てかなんで俺の部屋に来てるわけ?」
「やだなぁー、清っち忘れたの? 1月いっぱいまで清っちの部屋の掃除とかその他いろいろやってあげるって前に言ったでしょ? 今日は私ってわけ!」
「あー、確かに。 そういや昨日は日向が来たんだった」
「ふふーん、麻里と何かいい事した?」
バカかこいつ? そんな事するわけないだろが。
「お前そんなんだから他の奴らに軽いとか思われるんだぞ? 人の交友関係とかにケチ付けたくないけどさ」
「だね…… 反省する。 でも清っちは私の事そんなんじゃないって思ってくれてるんでしょ? 嬉しいなぁ」
やっぱこいつ話聞いてたのか。 はぁ……
「本当に反省してるのか?」
「そんな顔しない! この前だって私あいつら来るとか聞いてなかったんだし完璧嵌められたんだっつーの。 モテちゃうのも困るんだからね!」
そう言って篠原は俺の部屋をウロウロしている。
「何やってんだ?」
「ん、別に。 麻里ったら結構やり残ししてるかと思ったら綺麗に掃除したじゃない。 私する事ないやって思ってさ、毎日とかやったら清っちの部屋に何も残らなそう、ここまでくると麻里ったらマジみたいね」
「何が? でもお役御免出来て良かったじゃねぇか」
「あはッ! そうだね、ここにゆっくりと居られるって事だしね」
「はぁ!?」
篠原は俺のベッドの上に腰掛ける。
「なんでここに居るんだよ? 自分の部屋に戻ればいいだろ?」
「うふふッ、私がここに居るって言ってるんだから戻る必要ないでしょ」
「なんのために?」
「ハグしてあげる、こっち来て?」
篠原は両手を広げて飛び込んでこいと言わんばかりだ。
「意味わかんねぇ。 俺はお前とハグなんかしたくねぇし」
「んん? おっかしぃなぁ。 私にそんな事言われて喜ばない人あんまり居ないと思うけどなぁ」
「じゃあ俺がそのあんまり居ない人って事でいいだろ」
「ガーンッ! 清っち…… 女の子に恥かかせたね…… ううッ、ひぐッ…………」
「お、おい? 何も泣くほどか?」
顔を落として肩を震わして泣いている篠原に近付くと篠原にガバッと抱き付かれた。
「んふッ、来てくれたね!」
「お前嘘泣きしてやがったな!?」
「嘘じゃないよ、清っちに私なんか眼中にないみたいな事言われたら傷付くよ? 私の事嫌い?」
「はぁ? 嫌いとかそういうのじゃねぇだろ?」
「照れてる? 顔真っ赤」
「いいからどけよ!」
「あん!」
こういうタイミングの悪い時に誰かが入ってくるのはいつものパターンなのですぐさま篠原から離れた。
「突き飛ばすって酷いなぁ。 仮に弥生さんだったら喜んで抱き締めたのかな?」
「ああ? 先輩がそんな事……」
「弥生さん…… ううん。 やっぱいいや、でも目的達成」
「目的?」
「清っちカッコよかったら。 私なりのお礼、自己満足」
すると俺の部屋のドアが開いた。 日向みたいな寝癖頭でとても眠そうな神崎が入って来た。
「もうー、朝からうるさいです。 原因は彩奈ですね」
「莉亜寝坊!」
「寝坊って…… いくらなんでも元旦の朝はお休みです。 柳瀬さんもせっかく寝てたでしょうに」
「清っちの部屋掃除もあるのよ」
「ああ、そうでしたね。 ですが何もこんな朝早くからやる事ありません」
「うん、そうだね! でももう済んだし。 あ、それと清っちの洗濯物もあったんだっけ? やっとくね」
「麻里もまだ寝てるでしょうから静かにして下さいね?」
「はいはい」
神崎はチラッと俺を見て自分の髪の毛を手で押さえた。
「な、なんてみっともない格好で来たんでしょう……」
「え?」
そう言って足早に去って行った。
「あらら。 どうしちゃったんだろね」
「知るかよ、それより用が済んだなら出てけよ」
「邪険にするぅー!」
「俺はまだ眠いんだよ、お前も一眠りしろよ」
こいつは今この時点で寝たら夕方まで起きなそうだしな、静かになる。
「じゃあ清っちの部屋で寝ようかな?」
「ふざけんな、自分の部屋で寝ろ」
「ちぇッ、はーい」
朝っぱらから篠原のせいでまた寝ようと思ってもなかなか寝付けなくなってしまった。




