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「まったく! あれほどはぐれないようにと言っていたじゃないですか」

「居なくなったのは莉亜でしょ?」

「彩奈です! 私トイレに行ってきますと言ったじゃないですか?」

「ありゃー? そうだっけ? 聞こえなかったなぁ」

「あ! トイレって聞いたらトイレ行きたくなってきた」

「あたしも行く」



日向と篠原はトイレへ行ってしまった。 あー、カリカリした神崎と2人になってしまった。 神崎はムスッとしながらパフェを食べている。



「悪かったな、なんかいろいろ」

「そうですよ、堪りません! …… あの方が柳瀬さんが想いを寄せてる人ですか?」

「うん? 想いを寄せてるって…… ああ。 まぁダメだったけどな」

「何故ですか?」

「クリスマスイヴの前の日に先輩を誘ってみたんだけど断られたんだ」

「そうだったのですか。 聞いてはいけなかったような事聞いてしまいました、すみません」

「いや、いいさ。 お前にもひと役買わせちまったし」

「まぁそうですね……」



すると神崎はスプーンを置きパフェをこちらに渡した。



「ん?」

「美味しいですよ? 食べてみて下さい」

「いいの?」

「はい」



ひと口食べてみた。 甘い…… 甘いのが好きな俺でも甘過ぎるくらい甘いけど美味しかった、さすが有名店。



「どうですか?」

「うん、美味しいわ」

「それなら良かったです。 少しは元気出ましたか?」

「え? 落ち込んでると思ってた?」

「よ、よくわかりません私には。 ですが失恋とはなかなかキツいものかと思って…… 」

「お前って結構俺の事考えてくれてんだな」

「なッ! そ、それは!」

「わかってるって。 お前はバカみたいに律儀で余計な事聞いちゃって悪いなって思ってんだろ?」

「いえ…… 私は別に。 柳瀬さんはもう家族みたいに思えて、そんな人が落ち込んで居たら励ましてあげるのは当然ですので……」

「なんかお前って前からそこに拘りあるよな。 なんなんだ?」

「…………」



黙っちまった。 前みたいに「なんであなたにそのような事を問われなくてはいけないのですか?」的な事言われると思ったんだけど。



「言葉通りです…… 今の私にはあなたや麻里、彩奈が家族です」



なんだそりゃ? もしかして家族いないのかこいつ? でも両親居たよな?



「…… なんかよくわかんねぇけど聞かれたくない事俺もお前に聞いちゃったようだし。 言いたくねぇならもういいよ」

「…… すみません」

「謝るなくてもいいけどな。 それにここまで来たんだ、他に行きたい所とかあるか? お前はぐれたりして楽しむ余裕なかったろ?」

「はぐれたのは彩奈です。 映画観たい…… なんて言ったら怒りますか?」

「怒るわけないだろ。 じゃあ何観たいのか選べよ」

「私が選んでいいんですか?」

「当然だ、じゃなきゃお前の要望聞いた意味ないだろ?」

「ろくなお返しも出来てないのに……」

「家族みたいなもんなんだしそういう遠慮やめれば?」

「…… ふふッ、そうでした。 ありがとうございます」



神崎は携帯で上映スケジュールを確認していると日向らが戻って来た。



「んー? 次どうするか決まったの?」

「ああ、次は映画観るって」

「ふぅーん、まぁいいんじゃない。 何観るの?」

「これにします」

「どれどれ…… 野生動物の生態ドキュメンタリー。 ってあんたこんなの観たいの!?」

「だ、ダメですか?」

「あたしはいいと思う」

「えー? 麻里もこういうの好きなの?」

「莉亜の行きたいとこにも行かなきゃね。 それに…… 映画館なら座れるし寝れる」

「あ、そういう事。 まぁしゃあない、そうしよう」



俺も少し疲れていたのでちょうど良かった。 映画が始まりいつの間にか俺は眠りに付いていた。



「起きなよ清っち! 映画終わったよ」

「ん? あ、そうなのか……」

「これ見て見て!」



篠原は俺に携帯の画面を見せる。 そこには日向と俺が頭をくっつけて寝ている姿が……



隣を見ると日向はまだ目を覚ましてない。 俺の頭が外れてバランス崩したかと思えば俺の腕で寝ている。 



「起きないわねこの子」

「というかこんな面白かったのに寝るなんて信じられません」

「ええ〜、まぁ思いの外観れたけど」



そして篠原はなかなか起きない日向の顔を軽く引っ張ったり鼻を押したりしていると……



「うにゃ…… やめて清人。 やっぱりもっと」

「これはやらしい夢を見ているわ」



寝言で俺の名前を出すのはやめてほしい……



「麻里に限ってそんな事はありません! それよりそんな考えに至る彩奈の方がやらしいです」

「あーうん、そうだねぇ」

「んあ…… あれ? 映画は?」

「終わったよ。 あんたと清っちは寝てたけど」

「ふあぁ…… 」



日向はまだ寝呆けているのか欠伸をして俺の腕にまた頭を置いた。



「何寝呆けてんの? ここ家じゃないのに」

「麻里、起きて下さい」

「あ、ごめん…… 起きる」

「俺もなんかよく寝れて良かった」

「そのための映画じゃありません。 まぁ柳瀬さんは運転あるし麻里は人混みで疲れたでしょうけど」

「お腹空いたね。 夕飯どこかで食べよっか? 清っち、私もお金出すよ。 おばあちゃんから貰ったお金あるからさ、映画とか夕飯まで全部出すのさすがにキツいでしょ? はい」



篠原は俺に1万円差し出した。 え? こんなに?



「こんなにいらないよ。 ていうかとっとけよ?」

「んーん、いいのいいの。 私が来たいって言ったんだし少ないかもだけどこれくらいしないと」

「だったら私も!」

「莉亜と麻里はいいよ。 2人ともあんまりお金持ってないでしょ?」

「う……」

「ね? だから使いなって、清っち」

「ああ、じゃあ預かる」

「うん」



こいつのなけなしの1万円を使っちゃうのは悪いし預かるだけで後で返してやろう。 



その後デパート内で夕飯を食べて帰った。 なんか思わぬ出費だったけどボーナスがあって良かった。 そして先輩にも会えたし……


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