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「やっぱり柳瀬君だ」
「先輩……」
どうしてこんな所に? 先輩と前に来たコースを辿るとそこには先輩が居た。 なんて偶然…… 先輩は1人か?
「柳瀬君偶然だねこんな所で」
「本当そうですね」
「あら、そっちの方は?」
「あ、ああ。 こいつは……」
一緒に住んでいる女子高生です、次第に仲良くなって今日はこいつらとここまで出掛けに来ました。 なんて言えるはずがない。 どうしたもんか。
篠原を見ればキョトンとした顔をしているが俺を向いてニヤッと笑った。 嫌な予感……
「私清にぃの従姉妹で篠原彩奈と言います」
篠原は先輩に向かってペコリとお辞儀した。 やっちゃったよこいつ…… 清にぃの設定復活させやがった。 先輩に嘘をつかやくちゃいけなくなるなんて。 俺もこいつらと住んでるって事は隠してるけど。
「私は乙川弥生よ。 それにしてもビックリ! 柳瀬君の従姉妹って凄く美人でモデルさんかと思っちゃった」
「いえいえ、ただの女子高生です」
女子高生は言わなくていい!
「ええとそっちの子も従姉妹さんかな?」
「ああ、こっちは……」
先輩はポカーンとしている日向に目を向けた。 そして篠原は日向に向かって話を合わせろと目配せした。
「ひ…… 篠原麻里です」
「私の妹なんです」
日向は篠原家になってしまった。 こうなったら頼むからボロ出すなよ。
「わぁ、こっちも可愛い! 美人姉妹なんだねぇ」
「ど、どうも……」
先輩は日向を見てにっこり笑ったかと思ったらうーんと唸る。 まさかバレたか?
「会社で噂になってたのってこの子? 柳瀬君にお弁当届けに来たって」
「あー、そんな事もありましたね。 はい。 ひ…… 麻里の事ですよ」
「麻里……」
そう言った途端日向は俺の服を掴んだ。 設定貫き通してくれよな、俺だって誤魔化すので大変なんだ。
「ん〜? 麻里ちゃんは柳瀬君の事好きみたいねぇ。 いいお兄ちゃんなのかな?」
「す…… 普通です……」
「んふふ。 あ、じゃあ柳瀬君も今は実家に帰ってるのかな?」
「ええまぁ。 それより先輩はお一人ですか?」
「ううん、今日は家族と来てるのよ」
「そうなんですか」
先輩はどうやらデートじゃないらしい。
「そういえば弥生さんって清にぃの彼女なんですか?」
「え?」
こ、この野郎…… 何聞いてんだよ!?
「ふふッ、どうかしらね? でも柳瀬君はとってもいい子よ」
「へぇ〜、でも清にぃは確かに優しくて私も大好きです」
篠原は俺の腕に抱きついて先輩に見せ付けた。
うう…… これは全て茶番なんです先輩。
「やっと見つけましたぁ〜! あれほどはぐれないようにと言ったのに!」
半ベソをかきながら神崎が現れた。 マズい、こいつはこの茶番を知らない。
「私だけ1人とか私が迷子みたいじゃないですか! 彩奈のバカ!」
「あちゃー、こんな時に来ちゃったよ……」
「その子も柳瀬君の従姉妹? 私は柳瀬君の同じ会社の乙川弥生よ」
「へ? 従姉妹? 同じ会社の…… 申し遅れました、私はか、ひゃあんッ!?」
「あははッ、この子も私の妹なんです、莉亜っていいます。 少し虚言癖と妄想癖がある可哀想な子なんですよ! ね? 麻里」
「え? あ、うん」
「な、何を!? あひゃあッ!」
何か言おうとする度に篠原と日向が阻止する…… 成り行きとはいえとても残念な設定を盛られた神崎に少し同情した。
「あはは、しっかりしてそうに見えるけどそうなんだね」
「はい、今だってみんなとはぐれて迷子になってて探してる最中だったんです」
「そ、それは…… もがッ!」
「莉亜見て見て。 これ清人に取ってもらったの」
「ふえ? そうなんですか?」
「そうなんだ? 清人お兄ちゃん優しいねぇ」
先輩までその話題に食い付いてしまった。
「お兄ちゃん?」
神崎が?という顔を浮かべるが脇腹を日向に突かれ篠原によって上手く話題がそらされる。
すまん神崎、許してくれ。 後で好きな物たらふく食わせてやるから。 恨むならそんな設定を作った篠原を恨んでくれ……
「あ、そろそろ私戻らなきゃ。 じゃあね柳瀬君」
「あ! はい。 先輩良いお年を」
「ん、ありがと。 柳瀬君達もね」
先輩は去って行った。 こんな状況じゃなければもう少し……
「うぅッ…… なんですか? なんなんですか!? 彩奈は突然居なくなるし私が虚言癖と妄想癖持ちってどういう事ですか!」
「ごめんな神崎。 あの人は俺の先輩で篠原が面白がって従姉妹っていきなり言うもんだからさ。 お詫びに好きな物なんでも食べさせてやるから」
「子供じゃないんですから!」
「あれー? でもここに話題のスイーツ店あったよね? 莉亜は食べないの?」
「うッ…… 仕方ありませんね。 ただし! 彩奈は後でお説教です!」
「ええ? 麻里は?」
「麻里はあなたが巻き込んだだけでしょう?」
「ちぇーッ」
はぁ、篠原のお陰でハラハラした。




