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「柳瀬君今の子って彼女?」
「え? 違いますよ」
「んー? じゃあそのお弁当らしき物は何?」
チッ! こうなると思った…… 仮に彼女だったらヤバいじゃねぇか未成年だぞ? そもそもそれが公になるのも面倒だ。
「それにしてもかなり若そうな子だったよねぇ。 絶対10代、あのあどけない顔は絶対そう! もしかして学生?」
「ッ!! あ、アレですよ従姉妹! ほら今冬休みでしょう? たまたま帰ってきてるんですって」
「帰って来てるって…… 柳瀬君の引っ越し先に? 普通柳瀬君の家の方に行くよね?」
ぐ…… それは至極当然。
「あいつも将来一人暮らししたいって言ってたので俺の引っ越し先見たいって言って今日来てるんですよ。 それじゃあ!」
ボロが出る前に事務所から退散する。
ふぅ、危ない危ない。 これからはこういう事があったらコンビニで買って食べるからいいって言っておかないとな。
というより先輩が居なくて良かった。 先輩があんな場面を見たら……
「柳瀬君やるじゃん! あーんな可愛い子どこで捕まえたの?」
とか言われて真相に辿り着きそうだからな。 よくよく考えたらいくら酔ってたとはいえこの間よくあそこに先輩を連れてったもんだ、俺も先輩が来るってなってちょっとおかしくなっていたのかもしれない。
はたまた何か間違いでも起こって「柳瀬君って年下好きだったんだねぇ。 てっきりお姉さん系が好きなんだと思ってた」とかなったら目も当てられない……
休憩室に戻っていろいろまたつっこまれると面倒なので車の中で弁当を食べようとするとまだ日向の奴は会社の敷地内に居た。
「あ、清人何してんの?」
「お前こそ何してんだよ? 帰らないのか?」
「うん、ただ単に清人の勤めてる会社ってこんなんなんだって思って見てただけ」
「見ても面白くないと思うけど」
「この前清人と仲良さそうに話してた人は?」
「ん? あー、先輩か? 今日は休みだ」
「ふーん…… 残念?」
「そこそこな」
残念だよ残念に決まってる。 いや、今の状況だったら逆に居なくて幸いだったけど。
「それとありがとな、まさか面倒くさがりなお前が持ってきてくれるとはな」
「…… べ、別にこんなのなんてことないし」
「ちゃんと帰れるか?」
「子供じゃないもん、普通に帰れるし」
なんとも言えない顔をした日向にグイッと背中を押される。 なんだかムスッとした顔が妙に可愛かった。
っていかんいかん、ロリコンみたいじゃん。
日向も帰っていき午後になると更に忙しくなって帰る頃にはクタクタだった。
繁忙期を舐めてたぜ、やってもやっても追い付かないので残業して明日の分と明後日の分、注文が来た分は何割かやっておいた。 これなら明日は幾分か楽だ。
というか残業になったので今日は遅くなると電話したのだがいまだにあいつらと連絡先を交換していなかった。 大家さんに電話して伝えてもらったのだけど何かと不便だし今日帰ったら聞いてみよう。
帰って適当に夕飯を食べようと思ってキッチンに向かうと灯りがついていた。
「あ、清人」
「あれ? なんで居るの?」
「なんでって…… 柳瀬さんを待ってたんじゃないですか。 いちいち何度も用意するのは面倒ですし」
「清っちお疲れ!」
先に食ってればいいのに。 まぁでも少し嬉しいかもしれない……
「そういえば麻里にお弁当持って行ってもらいましたが不都合はなかったですか?」
「私が作ったんだよ今日のお弁当。 美味しかったでしょ?」
「あれ篠原が作ったのか。 ってもう大体わかったけどな」
「えー、清っちったら! 私の事そんなに」
「あー! 違う違う。 毎日のローテでわかるっつの、来たばっかじゃねぇんだから」
不都合か…… あの後もちょくちょく彼女とか聞かれてウザかったくらいだけどな。
「清っち聞いてよ、莉亜ったら私が清っちに届けに行ってあげようか? って聞いたら即却下したんだよ?」
「当たり前です! 彩奈が行ったら柳瀬さんに都合が悪そうじゃないですか? 特にその髪の毛」
「坊主にしたら?」
「黙れガリ勉に根暗! 酷くない? これだよ」
「ははは…… 篠原の髪の毛は目立ちまくりだもんな、日向以上につっこまれそうだ」
「あたしの事で何か言われた?」
「そりゃあ女の子が弁当届けに来るから彼女か?ってしつこかったよ」
「というより私が行こうと思ったんですけどね、まさか麻里に行ってもいいよなんて言われるとは思いませんでした」
神崎がそう言うと日向が神崎の頬をつねった。
「いひゃいいひゃいれす! 何するんですか麻里?!」
そんな2人を他所に篠原が前のめりになって興味津々そうに聞いてきた。
「それで? 清っちはなんて答えたの? まさか麻里を彼女にしちゃった?」
「え? そう言ったの清人?」
「んなわけないだろ! 仕方ないから従姉妹って事にしといたよ」
「従姉妹……」
「なぁーんだ、つまんないの」
「何言ってるんですか! それでいいに決まってるじゃないですか。 私達は未成年なんですよ? 付き合ってるなんて誤解されたら大問題です!」
「お堅いなぁ莉亜は。 そんなの関係なしに付き合ってる人なんてごまんと居るのにねぇ」
「…… 清人は気になる人が会社に居るから彼女なんて言うはずないよ」
「そっか! そういやそうだったね、で? その人と何か進展は?」
「特にない」
「えー、ないの〜?」
この手の話題になるとやっぱり篠原がしつこい……
「彩奈、あなただけですよ? まだご飯残ってるのは。 無駄話してないで早く食べちゃって下さい」
「あー、はいはい。 清っちは今日お片付けしなくていいからね! 残業して疲れてるでしょ?」
「え? いいの?」
「いいっていいって! その代わり何かお菓子買ってきて?」
「図々しいです彩奈。 疲れてるって言っておいてそれですか?」
「まぁいいよ。 他の2人も何か欲しい物あるか?」
なんだかんだで2人も欲しい物があるようで神崎はどうせならみんなで行こうと言い出した。
外に出るとほんの少し雪が降っている。 もう少しでクリスマスに正月、今年は早かったな。




