20
最近すっかりと寒くなってきた。 世間ではもうクリスマスが近付いてきた。
そして昨日冬休みになったようで神崎達はみんな休みだ、学生ってこういう時は羨ましい…… 先輩は有給使ってていないしなぁ。
顔を洗おうと思って部屋から出るとパジャマで寝癖頭の神崎も部屋から出て来た。
「あ、おはよう」
「おはようございます。 ……ああッ!!」
何故か俺を見て顔面蒼白になる神崎。 え? なんだ? ズボンは履いてるぞ俺……
「い、いやぁあああッ!!」
「な、なんだよ!?」
いきなり叫び出しやがった…… それやめてくれないか? 近所迷惑だし何より俺が真っ先に疑われるから。
「もぉー! うるさい莉亜!」
「ほんと睡眠妨害…… 」
他の2人は眠そうな顔をして部屋から出てきた。
「みなさん朝ですよ!」
「そんなのわかるって。 ボケてんの?」
「違いますよ! これは完璧に寝坊です!」
「いーじゃん休みなんだし」
「柳瀬さんは仕事があります! なのに朝の支度私達してません! …… 寝坊しましたから」
「別にそんなの気にしなくていいぞ?」
俺にわざわざ起床時間合わせなくてもいいのになぁ。
「そういうわけにも行きません! 居る時は出来るだけみんなで食べましょう!」
「…… そうだね清人1人じゃ可哀想だもんね」
「ええー、まだ寝てようよぉ。 清っちもいいって言ってるんだしたまにはいいじゃん莉亜の家族ごっこはさぁ」
「ッ!!…………」
なんか空気が少し重くなった気がする……
「彩ダメだよ」
「…… あーもう! わかったわかりました! ごめんね莉亜」
わしゃわしゃと篠原が神崎の寝癖頭を撫でるとハッとして神崎は我にかえった。
「ではみなさんキッチンへ行きましょう、もう時間がないのでインスタントですがよろしいでしょうか?」
「ああ、最初からそのつもりだったから問題ないよ」
神崎と篠原がキッチンへと行って俺も続こうかと思ったら背中を誰かに小突かれたと思って振り返ると日向だった。
「ん? どうした?」
「清人…… 忘れてる 」
日向は眉間にしわを寄せて頬を膨らませて怒ってるアピールをしている……
忘れてるって何を忘れてたっけ?
「ああ、この前お前が食べたいって言ってたお菓子買い忘れた事?」
「それもそうだけど違う」
「あ! お菓子で思い出した! キッチンの冷蔵庫にあったシュークリームってお前のだったか?!」
「あれ食べたの清人だったの? とっておいたのに…… でもそれも違う」
あれ? 違ったか? てか墓穴掘っちまった…… あれ日向のシュークリームだったのかと思ってたら日向の顔が更に歪む。 ブーブー言いたげな日向の顔を見てハッとした。
「ド…… ドライブ?」
「やっぱり忘れてた」
「悪い日向。 思い出した、後でちゃんとするから」
「ほんと? ならいいけど。 清人仕事忙しそうだし」
だからストレートに言ってくれよと毎度思う。 忘れてた俺も悪いけど。
そして朝食を摂り会社に行って繁忙期という事もありあっという間に午前中が終わる。
「いやー、注文数半端ないなぁ」
「ほんとですねぇ、毎年こんな感じなんですか?」
「そうそう、でも今年は去年よりも忙しいけどな」
休憩室で会社の人とそんな会話をしていて弁当でも食べるかなと思って思い出した。 今日は神崎達が寝坊したからないんだった。
神崎は「3人分作るのも4人分作るのも大して変わりません」と越して来た時いろいろあってからあいつらにそこまでお世話になっていた。
今日はコンビニかどっかで買って来ようかな……
「ん? お前今日は弁当ないのか?」
「そうですね」
「いつも見ててお前の弁当美味そうだよな。 お前があんなの作ってるなんてイメージないんだけどな。 でもたまにとんでもなく不味そうなのあるけど創作料理とかしてんのか?」
「ははは、そんな時もありますよ……」
とんでもなく不味そうなのは日向の弁当だけどな。 先輩に料理レクチャーされてなんて最早夢のまた夢だ、あそこじゃあ無理だよな…… というか先輩も居ないしやる気出ないよなぁ。
「そういえば乙川先輩っていつまで休むんですかね?」
「ん? 明後日には出社するぞ? なんだ寂しいのか?」
「あはは、来てくれないと忙しいので」
そんな事を話していると休憩室に事務員が入ってきた。
「柳瀬君にお客さんみたいだけど」
「え? 俺に客ですか?」
「そう、なんかボーッとした子だったけどかなり可愛い子だったわよ? 彼女さん?」
「ええ!?」
ボーッとしてるけど可愛いって…… まさか日向!? 何しに来たんだ? と思って急いで事務所の待合室に行く。
やっぱりだ! 一体どうしたんだ?
「日向……」
「あ…… 清人。 これ」
「え?」
日向は俺に弁当箱を差し出した。 まさか持って来てくれたのか?
「莉亜がね、清人に持って行ってって」
「わざわざいいのに……」
「…… ごめん。 来ちゃ嫌だった?」
日向はシュンとしてしまった。 あ…… せっかく持って来てくれたのに冷たかったよな、マズい。
「嫌なわけないだろ? ありがとな」
ポンポンと手を日向の頭に乗せて言うと日向は俯き俺の手を掴んだ。 げ…… 逆効果だったか?
「日向?」
「子供扱いされてるみたい…… でも¥§;‰¢……」
「え? え?」
「ううん。 なんでもない、ふへへ」
俺を向いてクスッと笑った。 どうやら機嫌直してくれたみたい? けど会社に来るなんて思ってもみなかった……




