18
週末の土曜日俺は先日の仕事の忙しさにグッタリしていてベッドでゴロゴロしていた。
忙しかったけど先輩に会えるからなんて事ないぜ! だけど昨日は先輩は注文と伝票作りに忙しくてなかなか時間が合わなかったので少しガッカリだった。
はぁ〜、今日はずっと寝てやろう。 なんて思っているとドアがノックされる。
「ちょっといいですか?」
神崎か。 珍しいなと思ってドアを開けると手に何か握って非常に申し訳なさそうな顔をしている神崎の姿があった。
「なんだよ?」
「あ…… いえ。 や、やっぱりいいです!」
「は? 呼んどいてそれかよ? 待てよ」
去ろうとした神崎の肩を掴んで引き止めると神崎はキッと睨んで振り返る。
あ…… やべッ、また叫ばれたらたまったもんじゃねぇ。 そう思ってサッと手を離した。
「…………」
いや、だからって黙られても困る。 お前は日向か?
「なんかあったから俺に声掛けたんだろ? じゃなきゃお前が俺に声掛ける事ないもんな?」
「なんですかそれ? それだと私が柳瀬さんを利用しているみたいに聞こえて人聞きが悪いじゃないですか」
「ああ、言い方悪かったよ。 それで?」
「言った手前で非常に申し上げ難いのですが……」
神崎は手を開いて持っていた物を俺に見せた。 それは潰れた眼鏡だった。
「これは?」
「眼鏡です」
「見ればわかる」
「…… 私目が悪いんです。 普段はコンタクトしていますが部屋では眼鏡を掛けています。 落ち着くんです、ですが昨日コンタクトを外した拍子に眼鏡を落として拾おうとしたら踏んでしまって。 そ、その……」
「要するに俺に新しい眼鏡を買ってくれないかと?」
「そ、そんな事言ってません!!」
ええ? じゃあどうしてほしんだよこいつは? トンチでも掛けようとしてんのか?
「じゃあ俺にこの潰れた眼鏡を見せて自分の残念な気持ちを共有したいとか?」
「な…… そんな趣味はありません! 何故あなたとそんな思いを共有しなくてはいけないのですか?」
「つまり買って欲しいんだろ?」
「だから言ってるじゃないですか! それだと私はあなたが働いていてお金があるから出来ればこんな事で頼りたくないけどどうか助けて下さいと言って利用しているみたいで嫌なんです!!」
えー? ぶっちゃけ本音だろそれ。 面倒くせぇよこいつ……
「つまり買って欲しいんだけど俺から金貰うのせびってるみたいで神崎的には嫌なんだって事か? むちゃくちゃだぞ」
「言っててわけがわからなくなってきました…… はぁ、何しに来たんでしょう私」
「そんなに俺に頼むのが嫌なくせにないと困るから俺に言いに来たんだろ? つーかだったら親に頼めばいいだろ?」
「………… こんな事で親に頼りたくありません」
「はぁ? なんだそれ?」
「もういいです、私がバカでした」
そう言って神崎は部屋に戻ろうとしたがなんか釈然としないので引き止めた。
「これ以上なんです?」
「ほんっとお前は面倒だな日向とは違う意味で」
「なんですかそれ? 私はただ……」
「買ってやるよ」
「え?」
「眼鏡くらい買ってやるって言ってんだよ。 給料も入ったばかりだし」
「いえ…… でもそれは柳瀬さんの安い給料じゃ悪いですし」
こいつこの件でバカにしてんのか?
「安くて悪かったなぁ」
「あ…… そ、そういうつもりでは」
「だったら買いに行くぞ。 さっさと準備しろよ」
「…… はい」
神崎が部屋に戻ると俺の部屋の隣のドアが開いて日向が顔を出した。
「会話丸聞こえ……」
「神崎って普段からあんな感じなの?」
「勉強が出来る馬鹿だから。 それよりあたしが面倒だって?」
日向は頬を膨らませてジトッとこちらを見た。 あ…… そこも聞いてたのね。
「ははは…… 言葉の綾だ」
「どうだか……」
プイッと日向がそっぽを向いた。
「悪かったって」
「ドライブ……」
「え?」
「後でドライブ連れてってくれたら許す」
「わかったよ、ドライブでもなんでも」
「うん…… 」
ドライブ好きだなこいつ……
「お、お待たせしました。 あッ、麻里今日お昼ご飯私の当番なんですがごめんなさい、ちょっと用事が出来てしまって」
「うん、わかってる。 カップラーメンあるからそれ食べる」
「わ、わかってるのですか? すみません。 彩奈にも伝えといて下さい」
「彩ならさっき出掛けたからお昼までに帰ってくるかわからないし大丈夫」
「わかりました、なるべく早く帰ってくるのであとはよろしくお願いします。 もし何かあったら言うんですよ?」
「子供じゃないし…… 行ってらっしゃい」
日向に見送られて俺と神崎は眼鏡を買いに行くのだった。




