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「柳瀬君柳瀬君、お化け屋敷あるよ。 寄ってみない?」
「先輩そういうの好きなんですか?」
「うーん、好きっていうか高校生が頑張って怖い格好して脅かそうとしてるのが見たい…… みたいな?」
「ああ、でもさっきの低クオリティな劇を見た後だといまいち期待が持てないような」
「あれはあれで面白かったけどなぁ、ふふッ」
そんな感じで先輩がお化け屋敷の方を見ていると受付の生徒らしき子に声を掛けられる。
「そこのカップルさんお化け屋敷ご入場ですか?」
「ん? カップル……」
そう言われて先輩と顔を見合わせる。
「カップルだって! 柳瀬君。 なんか恥ずかしいね」
「で、ですね! ませたガキですね!」
「あはは、そう言う柳瀬君も結構古風な感性だよ、おじいちゃんみたい」
ぬあああッ…… 篠原の友達にも言われたぞそれ!!
「あのー……」
「あ、入る入る! ほら柳瀬君」
先輩に引っ張られて教室に入った。
へぇー、日向達のクラスとは違ってまだマシだなぁ。 あ、お化け待機してるわ。 やっぱ高校生だな、見てて和むけど。
「わあッ!!」
「わあーッ! 出たよ出たよ柳瀬君!」
「…………」
脅かしてるつもりなのに先輩喜んじゃってるし。
「あ、あれ!? 引っ込んじゃった。 追い掛けられるとか思ってたのに」
「教室の中じゃ無理ですよ。 ほら、あそこにもお化け待機してますから脅かされますよ」
「もぉー、それじゃあ雰囲気ないなぁ」
先輩こそお化け出てはしゃいでるから雰囲気も何も…… でもそんな先輩可愛いからいいか。
「あれ? もう終わっちゃった」
「狭い教室でやるとこんなもんですよねぇ。 でも文化祭って感じがしていいですね」
「そうだね、私も昔お化け屋敷やってさ。 つい懐かしくてね」
「あれ? 柳瀬さんじゃないですか」
「ん? …… あ!」
小島だ。 人の家で恋愛劇場展開してたあの小島…… それはどうでもいいか。
「来てたんですね、日向見に来たんですか?」
「まぁそんなとこだ」
「あら、この子とも知り合いなの?」
「柳瀬さんそちらの方は……」
「私のカレでーす!」
「へ!? ちょッ? 先輩??」
「こうした方がすんなり行っていいでしょ? 柳瀬君複雑そうな嘘付いてるし」
「あ、いやまぁ……」
そうだな、この方がいいかもしれない。 というか先輩を俺の彼女だと言ってみたかったし。
「そうだよ、俺の彼女の弥生さんだ」
「思ってたんですけどめちゃくちゃ美人ですよね!」
「そんな言われると恥ずかしいけどありがとね」
あはッ、なんかすげぇ鼻が高くなってしまう。
「日向にも教えてやらなきゃ」
「え?」
「あいつ柳瀬さんにも彼女とかなんとか言ってたような気がするんで!」
「おおお、おい!」
「行っちゃったね」
「ま、マズい、これは大目玉だ、どうしましょう?」
「知りません!」
先輩はプイッとそっぽを向いた。 あれ?
「柳瀬君がモテるのはわかってたけど今は私の彼氏だって事になってるんだからいいじゃない? それに! 私だって麻里ちゃんと柳瀬君があんな事したらいくらなんでも少しは思うところあるんだからね! 少しは反省しなさい」
「う……」
先輩は俺の鼻の頭に人差し指を当ててグイッと押した。
調子に乗りすぎた…… 先輩を怒らせてしまったようだ。
「先輩! あの…… 先輩?」
俺が顔を合わせようとしても俺と顔を合わせようとしてくれない、こんなの初めてだ。 オロオロと廊下であたふたしていると先輩の肩が震え出した。
「あはははッ、ごめんね。 ついからかいたくなっちゃった、でも柳瀬君ズルいなって気持ちはあるんだからね!」
そう言って手を差し出される。
「手繋いで? そしたら許す」
「は、はい!」
先輩と手を繋ぐとニッコリと微笑まれた。
「一頻り私が鬱憤を晴らしたら柳瀬君と一緒に麻里ちゃんに怒られてあげるからさ、ね? 柳瀬君」
「ありがとうこざ…… います?」
え? 鬱憤って言わなかったか?
「じゃあデートしちゃおっか! 仲良いとこ見せつけちゃお!」
「み、見せつけるとは……」
日向だけに怒られるだけじゃ済まない気がする……
「ほらほら、学校を練り歩いて行こう! こんな機会文化祭とかじゃなきゃないしね!」
仕方ない、腹を括ろう。 俺は先輩の行くとこならどこでも付いて行きます! と意気込んでみるも劇が終わったのか日向にバッタリと会ってしまう。 もう言わずもがな。 だよなー、いつものいただきましたー……
その後神崎と篠原にも見られた。 神崎はともかく帰った後が怖い。
そんなこんなで神崎達にとって最後の文化祭も終わりこのまま俺の事以外は比較的平和に過ぎていくんだなと思っていた時、事が動いたのはそれからしばらく過ぎた頃だった。
いや、マジ勘弁して欲しいんだけど……




