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文化祭当日、俺は神崎達の学校へ向かっていた。 なんとなく混むかと思って今日は歩きだ、こういうのもたまにはいい。
………… あれ? 今更気付いたんだが俺が学校に行くといろいろ不味くないか? だって何通りかの嘘付いてるし人によって話が違ってくるぞ。
でも神崎だってその事わかってるよな? 当然篠原も。 日向はめんどくさくなるととんでも発言しそうな気がするから演劇で良かったかもしれない……
日向はともかく神崎と篠原も来て大丈夫そうな反応してたしいいんだよな? 俺がそんな不安を抱えながら歩いていると携帯が鳴った。 神崎達かと思いきや先輩だ!
『柳瀬君今日暇かな?』
『あー、今日は神崎達の学校の文化祭があって……』
『え? 行きたい行きたい! 私も一緒に行っていいかな!?』
『ま、まぁ全然構わないと思います』
『じゃあ少し待っててくれる?』
んん? でもこれって神崎達的には微妙かもしれないけどいい感じに言い訳たつかもしれない…… のか? もっとややこしくならなきゃいいが。
タバコを吸いながら待っていると先輩が小走りしてこっちに近付いてきた。
「おーい! 待った?」
「いえ、じゃあ行きましょうか」
「なんか文化祭とかってワクワクしちゃうよねぇ年甲斐もなく」
俺が高校の頃最後の文化祭は早く帰りたかったなぁ、なぜならその前は彼女が居てやったぜと思ってたら文化祭前には終わってたもんな。
「うわぁー、出店やってるね!」
「なんか想像したより出店っぽいですね」
「莉亜ちゃんと彩奈ちゃんは出店やってるんだっけ?」
「そうらしいですけど見当たりませんね? 篠原が居ればすぐわかりそうなんですが」
あー、場所とか聞くの忘れてたし言われてもなかった。 すると隅っこの方に目立つ髪色が見えた。
「あそこじゃないですか?」
「あ、それっぽいね! 行ってみよう」
店に近づくと篠原はこっちに気付いて笑顔になったかと思ったら?顔になる。 先輩も来るなんて言ってないしな……
「いらっしゃい清っち。 弥生さんも来たんだ」
「ごめんね、お邪魔だったかな?」
「んーん、全然! 弥生さんも来たなら楽しんでって。 私らパンケーキやってるから食べてきなよ?」
「そうすっかな」
良かった、先輩来ても篠原はニッコリ笑って対応してくれた。 そしてテーブル席へと案内される。
「あれ? 確か莉亜の住んでるとこの…… 大家の息子さんの柳瀬さん? でしたっけ?」
「え?」
急に横から話し掛けられた、ええと神崎と一緒に出掛けた時に会った二人組か?
「あ! やっぱりー!」
「あ…… ああ、しばらくぶり」
「柳瀬君のお知り合い?」
「え!? もしかしてこの人彼女さんですか? すっごい美人……」
「だって。 柳瀬君」
「え!? いやぁー、そういう事になるかなぁ」
「へぇー、そういう事になるんだ? 清っち」
目敏く話を聞いてたのか篠原が割り込んできた。
「あ、そっかぁ。 それなら彩奈とも麻里とも知り合いになるんですよねぇ?」
「ま、まぁな」
「大丈夫ですか? 彩奈って露出が激しいっていうかよくよくパンツ見えちゃうし」
コソッと1人が俺に向かってそう言ってきた。 もう十分知ってます……
「あらあら、それじゃあ柳瀬君大変ねぇ」
「ぐ…… せ、先輩」
「大変なのかなぁ清っち」
「はははッ、なんの事かな」
予期せぬ先輩からの口撃と篠原の意地悪そうな笑顔。 お、俺はガキンチョなんかに興奮しませんよ…… いや、今は怪しいかも。
「柳瀬さん来てくれたんですね」
「あ、神崎……」
「莉亜ちゃんこんにちは」
「乙川さんもいらっしゃってくれたんですね! お口に合うかわからないですけど他にもメニューありますから食べていって下さい、麻里は教室で演劇やってるのでそれも是非観ていって下さいね」
そう言って神崎は出店の方へと戻って行った。
「わーお、あの莉亜があんな顔で接するなんて前から思ってたけど莉亜って柳瀬さんの事……」
「とても都合がいいアッシーだって思ってるって言ってたな!」
「え?」
「うふふ、柳瀬君モテモテね。 でもあんまり適当な嘘ついちゃダメよ」
それを更にややこしくしてるのが篠原なんですが…… つーか篠原なんで俺の肩組んで座ってるんだ?
「はい、あーん」
「げッ…… お前マジかよ? 他の奴ら見てるんだけど?」
「大丈夫大丈夫、こういうサービスだから!」
ほんとかよ!? それにしてはなんかヒソヒソと周りから聞こえるけど……
「柳瀬君私もしてあげる。 口開けて?」
ぐぐぐ…… 先輩まで。 観念して口を開けると両方突っ込まれた、気不味い。 さっさと食って日向のとこ行こう。
校内へ入り日向の教室へ行くと演劇の最中だった。 えーと、日向ってヒロインだから結構出てるはずだよな? つうか教室で演劇って……
「あ! 麻里ちゃんだよ、ドレス着てる」
「あ、本当だ」
日向の奴綺麗だな、引きつった顔してるけど。 どんな演技するんだろう? なんの劇だ? 太った王子様風の奴と居るけど……
「オ〜!! スパルタンXテリヤキマヨドーレ!」
「ロミオ? あなたは本当にロミオなの?(棒読み)」
わけのわからない事を言っている王子様は日向の手をギュッと握った。 そんな王子様に日向は青い顔をしてドン引きしている。 なんだこれ…… ?
「ロミオ、あなたはまるでベイブのよう……」
「ブヒーーッ!」
「この野郎!!」
「お前ふざけんなッ!」
ひでぇ…… なんてクオリティが低いんだ、篠原がやらないはずだ。 日向だけで保たせてるようなもんだこれ。 それに王子様が日向の手を握った瞬間他の男子生徒からヤジが飛んでるし。
「なんか…… 思ったのと違うね」
先輩も苦笑いだ。
「でも麻里ちゃんは凄く綺麗だねぇ、お化粧もしていつもと違うね、結婚式の時とかあんな感じなのかなぁ」
先輩が日向を見つめてそう言った。 でも本当に綺麗だな日向の奴、わけのわからん演劇は置いといて。 そんな時俺と日向は目が合った。 あ、見つかったと思った時……
「清人」
「は?」
「え?」
「誰?」
日向はあろう事か演劇の最中に俺の名前を口に出してしまい他に見ていた奴が日向の視線に合わせて俺を見た。
「わぁ…… 柳瀬君ファイト」
な、何が? てか劇やってる奴らも日向のせいで若干パニくってないか?!
そんな中日向は俺の方へ来て腕を掴むと舞台に連れて行った。
おい! マジかよ!?
「ロ、ロミオ……」
日向もなんかテンパってる。 舞台に連れてきてそれはないだろ〜!
「なにこれ?」
「アドリブ?」
「つーか誰?」
ほらなー! アドリブじゃなくてアクシデントだっての! 日向は耐えられなくなったのか俺に抱き付いた。 ここで!? い、いや! これはこれで締めになるかもしれないと思い俺も日向を抱きしめた。
「え? あ! は、早く幕を降して!」
「へ? ああ!」
良かった、察してくれた。 なんだったんだこの茶番は…… 幕が降りたので俺は教室から出ると日向も出て来た。
「清人ぉ……」
「日向やってくれたな、まったく」
「ごめん、清人が居たからつい」
「ついってなぁ。 マジで冷や汗止まんなかったぞ?」
「でも締めっぽく締めれて良かったと思うよ? 内容は頭に入ってこなかったけどね」
先輩も教室から出てきた。
「あ……」
「先輩も来てみたいってさ」
「それにしても柳瀬君お疲れ様、サプライズだったねぇ」
「はは…… マジでビックリでした」
「麻里ちゃんもお疲れ様! 可愛いな、本当にお姫様みたい!」
「お姫様…… うあッ」
先輩にギュ〜ッと抱きしめられるとお姫様と言われたのが恥ずかしかったのか日向は顔を赤くしていた。




