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うう…… 頭が痛い。 なんか久し振りに飲んだからか2日酔いになってしまった。 あの後代行を呼んで先輩を帰らせてそのまま寝てしまったんだっけ?
日差しを感じて起き上がると気持ち悪くなってきた。 と、トイレ……
トイレをガチャッと半分ほど開けると日向の顔があった。 しかもパンツまで下げてる…… 普段表情に変化がない日向が少しギョッとした顔でこちらを見た、そして俺はすかさずドアをそっと閉めた。
大丈夫、顔しか見てない。 安心しろ日向。 ていうよりなんで鍵を締めてないんだ? トイレの時すら面倒くさいのか?
俺は現実から目を背け冷静に考える…… 場合じゃねぇ!! またかよ!?
そうしている間にトイレのドアが開き日向がドアから半分顔を出す。
「ち、違うぞ? 一度あった事だから二度目もある…… じゃなくてッ、顔しか見えなかったぞ!?」
「莉亜だったら殺されてたね」
なんで俺がまた言い訳をせにゃいかんのか? と考えていると途端に吐き気が襲いかかり蹲る。 そうだ、吐きそうだったんだ。
「人のトイレ覗いて吐き気…… 酷い」
「ち、違ッ…… うっぷ……」
もうそんなの気にしてられないのでトイレに駆け込みリバースする。 はぁ〜、死にそうだ……
「大丈夫? 水飲む?」
「うう…… ああ」
「待ってて」
日向はコップに水を汲んで持ってきた。 あられもない姿を見られてしまったというのに日向は寛大だ。
「ありがとう。 うあー、頭いてぇ」
「どうしたんです?」
「2日酔いみたい」
後ろから神崎が俺達を見て訪ねてきた。
え? なんで日向がそんな事…… って隣だしいくら声をセーブしても日向には聞こえてたのかもしれないな。
「いいですか麻里、こんな大人にはなってはいけません。 自分の分を弁えずに飲み過ぎるからそうなるんです」
「そうなの?」
「そうです。 こんな風になりたくなかったら日頃の行いをキチンと見つめ直すんです」
「ひでぇ言い様だな。 まぁ飲み過ぎたのはそうかもしんないけど」
「はぁー、朝ご飯食べれます? 2日酔いにはしじみのお味噌汁が良いって聞きましたけど……」
「そんなんあるの?」
「大家さんに聞いてみますか。 あったら作るので飲みますよね?」
「え? ああ、うん。 ありがとな」
神崎が行くと日向が無表情で俺をボーッと見ている。 ダメな大人の例の俺を見下してるのか?
「昨日はあの人と飲んでたの?」
「え?」
「前に会社で清人が楽しそうにお喋りしてた人」
「ああ、よくわかったな」
「だって清人の顔あの時楽しそうだったから。 壁越しに聞こえた声も楽しそう」
そうか? 表情に出てたか。 でも先輩と居るのに楽しそうじゃない顔なんてしてたら逆におかしいだろ。 てか1週間くらいしかこいつらと一緒に居ないけど日向って随分喋るようになったな。 まぁ慣れるとこんなもんなのか……
「おーおー、朝からシケ込んでんじゃん。 大人の朝って感じ? うん? 清っち酒臭ッ!」
「はぁ、風呂でも入ってくるかなぁ」
「しじみありました。 今から作りますね」
「んー? 清っちに作るの? あらぁ〜」
「な、なんですか?」
「随分とお優しくなった事で」
「なッ!? だ、だからこれからは私も柳瀬さんをただ邪険にするのではなくてですね!」
「あー、はいはい! わかったわかった、良かったね清っち」
「清人お風呂入るって」
「わかりました、ではその間に作っておきますね」
なんなんだよまったく…… JKに介抱されて情けないな俺。
風呂に入ると少しスッキリした気分になってきた。
「あ、もう出来てますよ。 どうぞ」
「ありがとう、いただきます」
そんな時神崎の視線が俺の視線とぶつかる。
「なんだ?」
「あ、いえ。 あなたって料理出来ないくせによく一人暮らしとかしようと思いましたね? 見通し甘くないですか?」
「ゲホゴホッ」
「大丈夫ですか?」
ははは…… まさか先輩ではなく神崎につっこまれるとは。 そこは先輩に対する俺の打算だったがこいつら居るしな。
「まぁ料理とかは一人暮らしやってるうちに覚えようとか思ってたよ(先輩に習ってな)」
「まぁそれが出来るならアリでしょうけど」
「でもお前ら居るし。 その辺大丈夫で担当あるなら俺はそれで貢献しようってな、買い出しでもなんでも言ってくれよ」
それから昼になるとすっかりと具合も良くなっていた。
「すっかり良くなったみたいですね?」
「ん? ああ、頭痛いのも吹っ飛んだ」
「昨夜はお楽しみだったようで? 清っち羽目外しすぎて変な事とかしてなかったぁ?」
「ふ、不潔です! そんな事!」
「清人は何もしてないよ。 ただお酒飲んでお話してただけ」
「なぁんだ? そうなの? つまんないなぁ」
「つまんないってなんですか? 仮にも私達が居るところで変な事でもされたらたまりません! それこそ柳瀬さんは悪影響しか及ぼさないので出禁です!」
「うわぁ…… 相変わらず莉亜って堅物ねぇ」
つーか日向の奴しっかり聞いてんじゃねぇか……
その後みんな部屋に戻って食器を洗っていると誰か戻ってきた。
「なんだよ日向」
「お酒抜けて良かったね」
「ん? ああ」
「…………」
え? それだけ言いに来たの?
すると日向は俺の隣に来て食器洗いを手伝い出す。 んん?
「な、なんだ?」
こちらをチラッと見ると食器に目を落とした。 わ、わかんねぇ…… 何がしたいんだこいつは?
「今日天気いいね」
「え? 曇ってるけど?」
「雨は降ってない」
「降ってないと天気がいいのか?」
「外には出れるし……」
「まぁ…… それはそうだけど」
だからなんなんだよ? と思うと日向は乾いた食器を棚に少し強めにガチャンと置いた。
もっと食器は棚に優しくおけよ、割れるだろ? ん? 棚…… あ!
「そういえば日向も棚欲しいって言ってたよな」
そう言うと日向はガバッと俺に振り向いた。 それを思い出させたかったのね…… ストレートに言えよ。
「…… そういえばそうだった」
「じゃあこれ終わったら買いに行くか?」
「うん」




