122
うおおおおッ…… いくら弱気になってたとはしても先輩に泣き付いてしまった。 後になって考えたら恥ずかしい。
恥ずかしかったけど先輩が凄く優しくしてくれて嬉しかったな。
「清人、変な顔してる」
「え?」
「なんか最近隠し事してる気がする」
「してるわけないだろ? てか出来ないだろ? どんだけお前と一緒に居ると思ってるんだよ?」
だが心の中では気取られた事にかなり騒ついている。
残業とかってのが怪しかったか? これからは定時の時間に帰った方がいいか?
「してたら?」
「ん?」
「それでもしてたらどうするの?」
「あ、いや……」
日向はジッと俺を覗き込んでそう言う。 してるので思わず目を逸らしてしまった。
「ふぅん」
「何がふぅんなんだよ?」
「やっぱ何かありそうだなって思って」
「俺の事信用出来ない?」
「そんなわけじゃないけど」
すまん日向、信用出来なくて当然だよな。 隠し事は本当にあるわけだし…… 信用出来ない? とかズルい事ばっか言ってるわ俺。
「…………」
「まだ疑ってるのか?」
「別に」
その次の日俺はいつものように仕事(行くフリ)をして家から出て行った。
さて…… 今日もハロワに行くか! 無駄だと思うけど何もしないとマジで時間が長く感じるからな。
コンビニの中で少し時間を潰し車に戻ろうとするとサッと隠れるような人影が見えたような気がした。 だけど気のせいだろうとスルーする。
そしてハロワに行ってひと通り次の面接をする仕事を探す。
この際バイトでもいいかな? でもバイトですらガードされてたりして……
と思いながら今日は良さそうなというか毎回行っているようなもんなので見たのばっかりだ。
ふと元居た会社が気になってみて通ってみる事にした。 そして会社の目の前を通り掛かる寸前俺の車の目の前に人が飛び出して来た。
「やっべぇ!!!」
急ブレーキを踏んで車を横に逸らす。
轢いてないよな? 轢いてないよな!? と思って急いでドアを開けて確認するとそこには大きく息を切らした日向がへたり込んでいた。
「日向!?」
「ハァハァッ…… き、清人」
「バカ! 普通目の前に飛び出すかよ!! 轢くところだったぞ、お前何やってんだ!?」
「…………」
つい大声をだしてしまった、会社の近くだというのに。 俺はその場にへたっている日向を車に乗せて急いでその場を去る。
「おい」
「…………」
日向は胸に手を当て呼吸を整えていた。 どこをどう来たのか知らないが日向は汗を滲ませていた。
とりあえずコンビニへ行き車を停める。
こいつ学校はどうしたんだ? 3人で一緒に出て行ったよな? それがなんで日向だけここに居るんだ? 神崎と篠原は日向が居なくてどうしてんだ?
「日向、どういう事か説明しろよ」
「それは清人の方じゃない?」
日向は俺をキッと睨んでそう言った。
「俺は…… 外回りしていただけだよ、だから会社の方へ戻ってきただろ?」
「会社に行く前にコンビニに行ってたよね?」
「え?」
「あたし追い掛けたもん、凄く走った」
まさかあの人影は日向? マジか? こっちは車だぞ、そんな体力がよく日向に…… って関心してる場合じゃねぇ、何かいい言い訳を。
「あんなにコンビニ居たら普通遅刻してるよね?」
「それは…… 朝一から配達があってさ、だからどっか寄りながらとか融通は効くんだ」
「…… じゃあなんで仕事中なのにあたしの事乗せてここに来たの? 仕事は大丈夫なの?」
う…… そりゃごもっとも。
「だ、大丈夫だからこんなところに来てるんだろ? 融通が効くって言ったじゃないか」
「うーん……」
あ、納得しかけてる、疎そうな日向で良かった、これが篠原だったらバレてたかもしれない。 だが待てよ? これで本当の事言ったら日向はやっぱ嘘ついてたんじゃんとかなるんじゃ? それでいいのか? いやでも……
「あたし……」
「ん?」
「あたしは忘れ物したから莉亜と彩には学校行っててって言って…… でも途中で清人の車見つけたら顔見たくなって追い掛けて」
「え? それで学校は?」
「莉亜と彩には具合悪くなったって言った」
「そんなん通じるのかよ?」
「うん」
まぁ俺の言ってる事も何故か通じちゃったみたいだし。
「…… じゃあ俺も早退するよ」
「いいの? 仕事なのに」
「ああ、たまにはな」
あー、何言ってんだ俺は…… そうじゃないだろ。
「じゃあ今日はずっと清人と一緒?」
「そうだな」
そう言うと日向は俺の胸に顔をグリグリと押し付けて足をバタバタさせていた、しょうがない奴だな、俺もだけど。
「やった。 じゃあ帰ろう、最近清人遅いから今日は家にずっと居て?」
「そうしようか。 …… これからは早く帰れるようにするよ」
言わなくてよかったのかな? と思ったけどもうタイミングを逃していたと言い聞かせた。




