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「柳瀬さんはフォークリフトの免許もあるんですね?」
「はい、ですので入社の暁には……」
◇◇◇
多分ここも結局ダメだろうな。
俺は今面接をしてもらった会社を後にする。 それにして受かったら受かったでどうしようかな? 神崎達に先輩が居る会社をなんで辞めたのかって絶対つっこまれるんだから。
まぁいらない心配だけどなそれは。 就職難な世の中だけど俺の難易度は今エクストリーム状態だ。
さて、今日はあらかた回ったし後は車待機だな。 ここまでしていると俺の面接先がなくなりそうだ。 ハロワの人もまたこいつかと思ってるだろうよ、いいさ、もう嘲ろ笑えって感じだけど。
ガソリン代がもったいないけどただ待って時間潰しするのもなんかあれだな、ちょっとドライブしよう。
そう思い車を発進させようとすると携帯が鳴る。 先輩からだ、今仕事中だよな?
『柳瀬君今どこ?』
『え? 今ですか? ハロワから出るとこです』
『そっかそっか! じゃあ私も行くね、待ってて!』
『先輩!?』
切れてしまった…… 先輩仕事中だよな? 配達にでも行くのかな? 俺居なくなったしな。
先輩が来るとなると急にソワソワし出す。 今の俺の情けない有様を見たら先輩どう思うだろうと仕事を辞めてからずっと思ってる。 ちょくちょく会ってくれるんだけど仕事終わった後なので今日は特別だ。
働いてない俺を先輩が好きでいてくれるのだろうか? と思ってしまう。
「柳瀬君」
コンコンとドアを叩く音が聞こえ横を向くと先輩が立っていた。
「あ、いつの間に?」
「さっきの間に。 柳瀬君気付かないんだもん、入っていい?」
「はい、どうぞ」
「お邪魔します」
「先輩こんな時間にどうして?」
「早引きしちゃった。 たまにはいいでしょ? 柳瀬君居ないと調子出ないし」
「そんなんでいいんですか? て言っても俺も仕事見つからなくてまだ無職してます」
「それってやっぱり……」
「はい…… 行く先々で。 でもまぁ影響及んでないとこもあるかもしれないし。 ここじゃないどこかでかもしれないですけど」
「もしかしてどこか引っ越そうとか?」
「…… どうでしょう? お金がまだ残ってる今のうちになら可能ですけど」
それにはここから居なくなるってことだ。 今住んでいる所も先輩や神崎、日向、篠原ともさよならしなきゃいけない。
かと言ってどこかに行ったとしても俺が働ける見込みなんてない。 神崎製薬はどこでも見掛ける、そんな所から俺はどうやって…… 国外追放みたいなもんか? 今の現状。
「会社ではどうです? もう俺の事なんてすっかりですよね? あんまり聞く気がしなかったんですけど……」
「それがね、実は柳瀬君辞めたって事になってないみたいなんだよね。 ただの長期休暇みたいな? あの時柳瀬君も大々的に辞めますなんて言わなかったでしょう?」
「あはは、そうでした。 かなり動揺しちゃっててそれどころじゃなかったですし…… まぁそうやって俺が居た事なんて忘れて自然消滅って流れでしょうね」
「もう柳瀬君ったら。 そりゃあネガティブにもなるよね、私も柳瀬君の事が気になってしょうがないけど1番辛いのは柳瀬君だもんね…… あ、そうだ! 暇してるなら私の車に乗って?」
「え?」
「私やる事ないからさ、ドライブに付き合って?」
先輩…… 俺に気を遣って。 申し訳ないけどありがたいのでお言葉に甘えよう。
「どこ行きたい?」
「先輩が連れてってくれるならどこでも」
「うふふ、じゃあ前に行った海にでも行ってみようか?」
「そんな遠くまでいいんですか?」
「うん」
そして先輩と海まで車でドライブだ、なんか会社に入りたての頃を思い出すなぁ。
「柳瀬君、私は柳瀬君の事情わかってるから頼ってくれていいんだよ?」
「…… 先輩に迷惑が掛かるし」
「迷惑なんて思わないよ。 それに頼ってくれないとなんか寂しいじゃない」
「ありがとうございます。 でももうこしている時点で頼ってるかもしれません」
「ん? そっか、それならいいかな。 柳瀬君お昼食べた?」
「いえ、まだでした。 面接が結構早い時間でしたし動いてないので腹減ってなくて。 先輩は?」
「私もまだだよ、なら海に着いたら一緒に食べようか? お弁当あるし。 柳瀬君は?」
「俺はまだ仕事に行ってると思われてるので神崎達が用意してくれて。 なんだか働いてないのに凄く申し訳ないですけど」
「でも言っちゃったら莉亜ちゃんショック受けちゃうしね。 仕方ないよ、それにしても柳瀬君は贅沢だなぁ、私もそのうち柳瀬君の家にお邪魔して作ってあげようかな?」
それは凄く嬉しい、荒れそうだけど……
でもやっぱり先輩と居るとドキドキするけど落ち着くなぁ、言ってる事矛盾してるわ。
海に着くと先輩と少し歩いてちょうど良さそうなところに腰を下ろした。
「柳瀬君と2人きりで海でお弁当なんてね、ふふッ」
「俺も少し変な感じです」
「わぁ、柳瀬君のお弁当誰が作ったの?」
「ええと、今日は篠原ですね」
「彩奈ちゃんああ見えてって言うのは失礼だけどスペック高いよねぇ」
「まぁそうですよね、あいつその気になればなんでも出来ちゃうっぽいんで」
「器用なんだねぇ。 あ、お弁当交換しない? せっかくだから」
「え?」
…… 先輩の手料理食べれるし。 ここは篠原ごめんなと思って交換する。
「見てわかるけどちゃんと手作りだね、美味しい!」
「先輩の弁当も美味しいですよ」
「あー、それは毎回柳瀬君に作ってるつもりだからかなぁ? なんちゃって」
「…………」
「柳瀬君?」
「先輩、俺の事好き…… ですか?」
「うん、当たり前じゃん?」
「俺みたいな先がないような奴なのにですか?」
事情をわかってて先輩はここまで優しくしてくれるから俺は溜まってた思いが溢れてきたのかもしれない。
「先輩、こんな金も稼げない俺に付き合っていても時間の無駄ですよ」
「柳瀬君……」
「おかしいですよね、俺みたいな甲斐性なしに……」
頭を撫でられていた。 そして先輩は「そんな事ないよ」と優しく言ってくれた。
「私がそうしたいからしてるんだよ? だから時間の無駄なんて思ってないし柳瀬君とこういう風にしてる時間は私にとって何より大事だよ? 弱音だってもっと吐いていいんだよ? 寧ろここまで頑張ってた柳瀬君は凄いよ、辛かったよね?」
「先輩……」
いつの間にか涙が出ていた、こんな俺の事ここまで思ってくれてるなんて。
「支える…… ううん、支えさせて? それくらいしてもいいでしょ、ね?」
先輩は俺の頭をギュッと抱きしめて俺が泣き止むまでそうしてくれていた。




