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「あははははッ、でね、そのハゲのオッサンがね、ずっと私の胸ばっかり見てるのよ!」
「は、はぁ。 そんなんですか……」
「早く会社に戻りたいなぁって思ってもなかなか帰してくれなくてねぇー、その後そのオッサン他の従業員に手を出してクビになったらしいの。 あースカッとした」
週末になり先輩に飲みに行こうと言われたので俺は喜んでお供した。 先輩はガブガブとビールを飲んですっかり出来上がってしまった。
何気に距離も近いし嬉しいけど先輩と密着すると緊張してしまう。
それにしても先輩の胸か…… 結構ある方だよな、谷間あるし。
「んんー? 柳瀬君も私の胸を見てるなぁ? エッチ!」
「うあッ、それは話のアレでついつい胸に目が行ってしまいましたが他意はありません!」
「ほんとかなぁ〜? これでも?」
先輩はテーブルから俺の方へ見を乗り出し胸の谷間を強調するように寄せてきた。
「せ、先輩! 大分酔ってますね!?」
「あははッ、そうですかぁ?」
そして1時間後俺と先輩は店を出た。
先輩はもうベロンベロンに寄っていて俺が肩を貸している。 これはこれで嬉しい。
「先輩、大分フラついてますけど大丈夫ですか?」
「ええ〜? これくらいへっちゃらへっちゃら! さーて次はどこで飲もう?」
「え? いや流石にダメですよこれ以上は。 今代行呼ぶんで」
「うん? いやー、ストップ!」
俺が電話を掛けようとした時先輩がパッと俺の携帯を奪い取った。
「帰るんだったら柳瀬君が近くに引っ越してきたんだからそこで少し休んでからにしよー!」
「え!? 俺のとこに来るんですか?」
これは願ってもない! 先輩が俺の部屋に来るなんてどんなに夢見た事か。 それに俺はこんな事もあろうかともし…… もしこんな日が来る事があったら先輩と何かキッカケを掴もうかと思って先輩に料理とか教わりたいな、とか言って家に誘おうとか思っていた。
まぁそんなんで一人暮らしとか見通し甘くない? とか思われそうだけど先輩って料理結構好きって聞いたからな。 今となってはJK達が居るし教えてもらおうにも鉢合わせしちゃいそうだし頓挫したが。
なので今の住処に帰ればJKと一緒の所へ住んでいるとバレてしまう。 そうなったら先輩にロリコンと思われかねない。
今日俺が帰るの遅くなるのはあいつらにも言っているしこの時間だともう寝ているかもしれないから見つからない可能性もある。
だけどせっかく先輩が来たいと言っているのに断るのも悪いし…… もう深夜だし
あいつら寝てるよな? 先輩も酔ってるし。
「じゃあそうしましょうか?」
「流石柳瀬君! 話がわかる! ゴーゴー!」
「お酒飲んじゃったんで15分くらいここから歩きますけど大丈夫ですか?」
「お姉さんに何を言ってるの? 歩けるに決まってるでしょ!」
パッと俺の肩から手を離して直立するが足元が覚束ないので倒れそうになる。
「あら?」
「あ、危ない!」
「はうッ!」
崩れ落ちそうになった先輩をなんとか受け止める事が出来た。 …… 肩と腰に手を回してしまった。
「はぁー……」
「す、すいません。 大丈夫ですか?」
「柳瀬君って意外とガッシリしてるね! なんか可愛い弟みたいに思ってたけど」
ガーン…… 今まで弟みたいに感じてたって事は男として見られてなかったのか。 い、いや、でも今男らしいって言ってもらえたじゃないか。
「肩貸しますから行きましょう?」
「うん」
そして先輩と夜道を歩きアパートの方へ向かう。
「この辺寂しいとこだねぇ、静かでいいかもしんないけどさ」
そういや日向の奴こんなとこでよくぶっ倒れたよな。 俺が拾わなかったらどうなってたんだろ?
「あ、ここです」
「うん? えー、思ってたのと違う。 本当にこんなとこに住んでるの?」
「あはは、はい。 俺も思ってたのと違くて最初はビックリしました」
玄関をそっと開けるとシーンとしている。 やっぱりみんなもう寝てるよな。
「なんか昭和の雰囲気がする、ここってこの作りだと結構周りの人と顔合わせるよね?」
「ええ、まぁ……」
「あ、ちなみにここ壁薄いしみんな寝てると思うので静かにしましょう?」
「あ、そっかぁ。 オッケー!」
もし篠原なんかが起きてきたら明日はずっとネタにされそうだ。 あいつの事だから根掘り葉掘り聞いてきそうだ。
俺の部屋へと先輩を連れて行くと先輩はニコニコと周りを見渡して床に座るとバッグをゴソゴソと漁る。
「じゃじゃーん!」
「そ、それは!?」
なんと先輩はバッグから酒を取り出した。
「アルマニャックでーす!」
「先輩いつも持ち歩いてるんですか?」
「なわけないじゃん、柳瀬君入社してから忙しくてろくに歓迎会も出来なかったでしょ? だから私がしてあげる!」
「先輩……」
わざわざ俺のために…… よし、飲もう! 他の奴らが起きないように出来るだけ密やかに。