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「柳瀬さん入っていいですか?」
「神崎か? いいよ」
「失礼します」
珍しく神崎が俺の部屋を訪ねてきた。
「なんだお前? まだ起きてたのか?」
「え? ええ、中間テストまで1ヶ月を切っているので一応勉強をと思いましてそのついでに……」
神崎は廊下に何やら置いていたのかしゃがんで何かを持ち上げたと思ったらトレーだった。 飲み物にお菓子?
「どうぞ」
「ああ、わざわざありがとう」
「いえ、柳瀬さんも最近は遅くまで仕事をしているようですし身体を壊さないで下さい。 あんまり無理して頑張り過ぎるのもよくないと教えてくれたのは柳瀬さんなんですし」
神崎はそう言うが頑張るどころか何もしてないんだよな、一日中そこら辺ウロウロして時間を潰しているだけだし。
「なんだか最近柳瀬さん仕事が忙しいせいか元気がないような気がします。 何か職場でトラブルでも?」
「まぁ仕事してるといろいろあるさ」
「あの…… 良かったら…… 私で良かったら相談に乗りますよ?」
「え?」
「えっとッ…… 柳瀬さんもそうしてくれたように私でも良かったらお力になれる…… と思います」
神崎…… そう言ってくれるのはありがたいがお前にこそ1番相談に乗れないんだよ。
「ありがとな。 じゃあもうダメだと思ったら相談に乗ってもらおうかな」
「ダメですよ、もうダメだと思い詰める前に相談して下さい。 私みたいになりますよ?」
「はははッ、そうだな」
「私真剣に言ってるんですよ?」
「ああ。 わかってる、ありがとな。 でも大丈夫だよ。 神崎見てたら少し元気になってきたよ」
「本当ですか?」
「本当だ」
「はぁ…… ならお伺いして良かったです。 あ! どうぞお菓子食べて下さい、柳瀬さんにとみんなで作ったクッキーですよ」
バカだなこいつら…… 俺忙しくもなんともないってのに。
こいつらの作ったクッキーを見ているとなんだか無性に泣きたくなってきた。
俺かなり追い込まれてるな。
「柳瀬さん?」
「ん? ああ、俺みたいなのにみんなでこんなの作ってくれるなんて嬉しいなって思ってさ。 今更なんだけどジーンときた」
「本当に今更ですよ。 そういえば柳瀬さんの部屋の廊下に置いてた500円玉貯金いっぱいになりましたよ! 凄いです」
「あー、もう貯まったのか。 お前らも入れてくれてたんだろ? 意外と早く貯まったな」
もし全部500円入ってたら10万いってるはずだ、すげぇな。
「みんなで貯めたようなもんだからお前らで山分けしていいよ」
「え? 柳瀬さんも入れてたじゃないですか? 私達だけとはいきません! というよりこれの使い道とか考えていましたか?」
「実は貯まるとは思ってなかったから考えてなかったな」
「初志貫徹! 柳瀬さんが貯める気なくても置いた以上私は貯める気でした。 なら前から思ってた事があります」
「ん? なんだ?」
「このお金で私達3人と遊園地に行ってもらえませんか?」
遊園地…… そういえば前に今度は俺と自分達で行きたいって言ってたよなこいつ。
「そうだな、その使い道いいかもしれない」
「本当ですか!? やったぁ!」
金銭的に行ける余裕なんてなかったんだ、いつか行きたいって言ってたしな神崎は。 だからそれを叶えるためにも忘れた頃に貯まったこの貯金箱を有効活用しよう。
「麻里と彩奈にも言っておきますね!」
「ああ」
神崎は俺が頷くと急いで部屋を出て行き2人の部屋へ行った。
思い出作りだな。 この先再就職も厳しそうだしいい機会だ。
「清人連れてってくれるってほんと?」
「ん? そうだよ。 前回日向いけなかったしな。 ごめんな」
「うん、だからちゃんとあたしをもてなして?」
「わかったよ」
そして次の日神崎達と遊園地に向かった。
「今日はどっかの馬の骨と恋人ごっこじゃないから思いっきり楽しめるね!」
「馬の骨って……」
「今日はこの前の分を含めて清っち独り占めにしようかなぁ」
「ダメ、莉亜も彩もこの前行ったからあたしが独り占めにする」
「まあまあ、みんな仲良くして下さい。 麻里なんか珍しくお化粧して凄く可愛いですね」
「これで黒い着物着たら地獄少女にしか見えないのにね!」
「いっぺん死んでみる?」
「あはは、似てる似てる!」
物真似して言ってるんじゃないと思うぞ?
「着いたぞ」
「じゃあ行こ清人」
「ちょっとちょっとぉ! あんたら2人の世界に入んないでくれる?」
「いいじゃないですか麻里は前回来れなかったんですし。 彩奈は私と手を繋ぎましょう」
「うげぇ…… 莉亜と手繋ぐなんて。 繋ぐ前にちゃんと手拭いてよね?」
「失礼な! 私はこの中で1番清潔です!」
「おいおい、お前らもこんな所で喧嘩するなよ? ただでさえ目立つんだから」
3人連れて来るとやっぱりうるさいなぁ。 でもこんなところに来ていると俺が今自分がピンチな状況だってのも少し紛れていい気分転換にはなった。




