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夏休みが明けて少し経った頃だった。



「これまたスッキリした顔だな神崎」

「はい、後は目標に向かって突き進むのみなのでやる事がハッキリ見えて気分爽快です」

「そうか、頑張れよ。 俺にも何か出来る事があったら言ってくれ」



そしてまた少し経った頃……



「どういう事ですか?」

「どういう事も何も柳瀬君には今日限りで辞めてもらう」

「意味がわかりません! 俺何かしましたか!?」



わけがわからない。 会社に行ったら社長室に呼び出されてクビを宣告される。



「それはこっちのセリフだ、お前何をした? 先日神崎製薬の代表取締役からウチに圧力をかけられたんだぞ?! お前を辞めさせないと潰すと!」

「神崎製薬って…… 」



そう聞いて神崎の父さんが頭を過ぎる。



俺を辞めさせないとこの会社を潰すだって? そんな法外な事…… いや、でもあいつならやりかねない。 なんで? あの時の事を根に持って?



まさか…… 神崎の進路の事か? なんでだよ!? あいつはもう神崎の事を見放したんじゃなかったのか?



「とにかくそういうわけだ。 お前をウチに置いとくわけにはいかん」

「そんなッ!」

「悪いとは思ってる…… だが俺だって神崎製薬には逆らえない、すまん」



俺は目の前が真っ暗になり社長室から力なく出た。



そんな…… これから先一体どうしたら。 



本当に俺はクビになったのか? 現実を受け入れられないまま俺は現場に戻った。



「柳瀬君、一体なんだったの?」

「柳瀬先輩、社長からなんて?」



先輩と如月は俺に視線を向ける。



どうしよう、クビにされたって言うか? いや、そんなのすぐにでもわかる事なんだけど。



「俺…… 今日限りでクビらしいです」

「ええ!? どうして?」

「柳瀬先輩がクビ……?」

「柳瀬君何も悪い事してないじゃない! 私社長に言ってくる!」

「あ、あたしも!」

「ダメです、ダメなんです……」

「柳瀬君?」

「なんでですか? 言ってみなきゃわからないじゃないですか?」

「関わらない方がいいかもしれません」



もしそのせいで先輩や如月にまで飛び火してしまったらたまらない。 何より先輩達を巻き込めない。 けど俺と先輩とのキッカケはこの職場からなんだと思うとその会社にクビを宣告されたのは先輩との関係も否定されたみたいに感じてしまい無性に悲しくなった。



「関わらないでって言わないで? 関わるに決まってるでしょ、もし逆だったら柳瀬君はそうしないの?」

「…… いえ」

「でしょう? 私社長に言ってくるわ!」

「あたしも行きます! 柳瀬先輩はあたしの先輩なんですから」

「如月まで…… ありがとう」

「それとこうなった経緯とか心当たりあったりする?」

「………… 実は」



俺は先輩に話した、そして先輩と如月は話を聞くと社長室に向かった。 だがいくら先輩や如月が訴えても俺のクビは取り下げられる事はなかった。



「柳瀬君ごめんなさい、なんとかしたかったんだけど…… 」

「柳瀬先輩ごめん」

「2人が謝る事なんてないですよ。 寧ろ俺なんかのためにありがとうです」

「柳瀬君…… こうなったら私も辞める!」

「ええ!? だ、ダメですよそれは」

「だって…… 柳瀬君だけ辞めちゃうなんて。 いくら神崎製薬が絡んでるからって柳瀬君を追い出す様な会社なんて」

「だとしても先輩まで辞める必要ないですよ、ほら! 何も働くとこなんてここだけなんて事ないですし……」

「でも……」



先輩…… そこまで俺のためにしてくれるなんて嬉しい、嬉しいけどそれはダメだ。 それに神崎の父さんが絡んでるなら俺の就職先はことごとくマークされていそうだ。 



「すみません、でも神崎製薬が関わってるなら何かあって先輩達にとばっちりが行くのはごめんなんです」

「柳瀬君……」



とりあえず今日で俺はこの職場からおさらばしなければならない、簡単な引き継ぎを如月にして後は先輩に如月をよろしくと伝えた。



「柳瀬先輩!」

「ん?」

「あたし柳瀬先輩が先輩で良かったです、沢山叱られたけど柳瀬先輩の元で仕事が出来て本当に良かったです」

「ありがとな、ちゃんとやるんだぞ? 先輩にあんまり迷惑掛けるなよ」

「ううッ……」



泣きそうになる如月を宥め先輩に如月の事をよろしくお願いしますと言った。



「柳瀬君連絡するから! なんでも相談に乗るしこれからだって…… 私は君の先輩だし私の好きな人だから、支えるから……」

「先輩……」



ギュッと先輩に抱きしめられた。 俺はも先輩を抱きしめる、ダメだ泣きそうだ。



仕事が終わりゆっくりと考えたくて帰る気もしなかった。 神崎に今日は夕飯はいらはいと伝えてコンビニに寄り車の中でボーッとしていると携帯電話が鳴った。



非通知……



俺はもしやと思って電話に出るた。



『もしもし……』

『やぁ柳瀬君。 私だ、莉亜の父親の神崎辰巳だ。 どうだい、仕事は順調かな?』



やはり…… こいつ、どの口で言いやがる。



『俺の職場に圧力をかけておいて順調? だったら順調にクビになったよ、あんたのお陰でな』

『そうかそれは気の毒に。 だがそれは君が莉亜に余計な事を吹き込んで娘の将来を台無しにしたせいでもあるんだ』

『将来? 台無し? あんた今まであいつにろくに父親らしい事もしてこなかったくせによくそんな事言えるな?』

『それはあの子に見込みがないと思っていたからだ。 だが成績が伸び始め見直してはいたんだ、君のお陰というのもあったのかもしれないな。 だが君はそんな娘を間違った道に導こうとしていた張本人だ、君にはそれ相応の罰を与えなければな。 だがチャンスをやろう』

『どこまでも勝手な事言いやがって。 あんた娘に一切協力しないんじゃなかったのか? 言ってる事おかしいんだよ! それにチャンス?』

『協力はしないが矯正してやるのは親の役目だろう? チャンスというのは莉亜に考え直させる事だ。 私は生憎忙しいのでな、それに君が間違わせたんだ、責任を持って莉亜を正しい道に戻してやるのが君の責任だろう?』



こいつどこまでもクソ野郎だ、忙しい? 忙しいで神崎の将来の軌道修正も俺任せか? 



その後帰ったが23時過ぎになってしまった。 そっと玄関を開けると篠原がちょうど風呂上りなようで廊下に居た。



「あ、おかえり! 清っち帰って来たよ」

「柳瀬さんおかえりなさい」

「遅いよ清人。 残業?」

「…… そうだよ、ただいま」



クビにされたなんて言えないので嘘をついてしまった。


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