後日談:幸せな日々 中編
王宮へ戻ったオフィーリアはメルヴィンに横抱きにされたまま寝室へと運ばれ、ベッドへ寝かされたのだった。侍女達によって外出用のドレスやヘアースタイルをくつろいだものへ変えられる。
オフィーリアがベッドに落ち着いた頃、メルヴィンによって手配された年配の侍医がやってきた。
オフィーリアの横に控えていたメルヴィンが侍医に問うた。
「オフィーリアは大丈夫か?」
「陛下、落ち着きなされ。まだ、オフィーリア様の診察もさせていただいてないのに……いつも冷静な陛下のこんな姿を拝見するとは……」
メルヴィンと旧知の侍医は笑いたくなるのを必死で堪えていた。
「無駄話は要らん。早くオフィーリアを診てくれ」
「はい、承知いたしました。陛下は部屋の外へ」
メルヴィンは首を振る。
「オフィーリアの側にいたいのだ」
侍医が呆れ返ったように言う。
「それでは、オフィーリア様が診察を受けにくいかと」
「陛下、私、食欲がないだけなので、少し疲れが出ただけだと思います。心配いらないかと……」
オフィーリアと侍医から言われて、少しメルヴィンは考えているようだった。そして、しぶしぶ納得したような表情を見せる。
「わかった。部屋の外で待とう。診察が終わり次第知らせてくれ」
「承知いたしました」
侍医がメルヴィンに礼をした。そして、メルヴィンと彼の側近は部屋を出ていったのだった。
部屋に残ったのは、オフィーリアと侍医と侍女だけ。侍医はオフィーリアを診察し、質問したのだった。
「オフィーリア様、いつ頃から食欲がないのですかな?」
「今日の朝までは普通でした。昼食を取る前ぐらいから、ムカムカして食欲がわかなかったのです」
「このようなこと、今までもありましたか?」
「いいえ、初めてです」
「初めてですか……失礼ですが、月の物が最後に来たのはいつ頃ですが?」
「月の物……この所なかったかしら、ねぇ」
オフィーリアは確認する様に侍女の方を向いた。
「オフィーリア様の月の物は3ヶ月ほど前にあったきりです」
「そうですか。お体に異常がみられませんので、恐らくご懐妊かと思われます」
「懐妊?」
ビックリしたオフィーリアは目を見開いたまま固まった。そして、嬉しそうに微笑んで、お腹をさすった。
「陛下とのお子……嬉しい」
その様子を見た侍医は侍女に命ずる。
「陛下をお呼びして」
「承知いたしました」
侍女が部屋の外に出たかと思うと、メルヴィンが急ぎ足で部屋の中に入ってきた。
「先生、オフィーリアの具合は?」
メルヴィンは慌てたように聞いたのだった。それを聞いた侍医はニッコリとしたのだった。
「陛下、オフィーリア様はご懐妊かと思われます」
「懐妊??」
メルヴィンの固まった様子に侍医は補足するかのように言った。
「はい、お子様がお出来になっておられます」
「私とオフィーリアのか?」
オフィーリアが側によって来たメルヴィンの手を自分のお腹へあてた。
「はい、陛下」
ベッドの上からメルヴィンを見上げて、オフィーリアが微笑んだ。
メルヴィンはオフィーリアに嬉しそうに微笑み返した。
「フィー、ありがとう」
と言い終わるや否や、メルヴィンはオフィーリアの唇にそっと口づける。周りに人がいるのを思い出したオフィーリアは恥ずかしくてメルヴィンの胸を叩く。
「陛下、人前です」
「すまない。嬉しくてつい」
侍女は仕事のプロとして、見て見ぬふり。侍医は二人を見てニヤニヤ。
「おい、にやつくな、先生」
「お二人の仲睦まじい様子に国民として幸せを感じまして……」
「そこは、スルーしろ」
「陛下が幸せそうで何よりです」
「まあ、幸せだな」
メルヴィンが珍しく顔を赤くして照れる。思わず見られたくなくて、顔を背けた。照れるメルヴィンを微笑ましくみるオフィーリアと侍医と侍女。
侍医はニヤニヤしながら言う。
「私が親子二代、取り上げさせていただきます」
恥ずかしそうにメルヴィンは侍医に顔を向けた。
「頼んだぞ、先生」
「承知いたしました」
オフィーリアも話しかける。
「先生、よろしくお願いいたします」
「はい、元気なお子さまを生めるようサポートさせて頂きます」