008
翌朝、食事をおえて冒険者組合に向かう。昨日と同じ依頼をカウンターで受けていると、周りから視線を受けていることに気づく。初心者が珍しいのかこの格好(今までずっと制服を着ている)が珍しいのか。
ただ好意的な視線ではなく警戒するような感じの視線に感じた。俺が周りを見渡すとすぐに視線をそらされ、そそくさと移動をしている。
気になったが気軽に話せる人もおらず、昨日のガジルやバッカスといったメンバーもいなかったため、そのまま冒険者組合を出てイリナの花を採取するため西門に向かう。
門番に冒険者カードを渡しそのまま門をくぐり昨日とは逆側の林に入っていく。ただ昨日とは違い危険が無いように奥深くはいらないよう気をつけてイリナの花を採取していく。
「今日はこんなもんでいいかなー。今日はちょっと早いけどこれで戻るかな。」
持ってきた袋に採取したイリナの花38輪を入れる。欲張ると昨日の二の舞になりそうだったので、今日はこれくらいにして王都に戻る。
冒険者組合に入ると、一斉に俺を見てすぐに視線をそらす。ただ歓迎されていないような、そんな感じの雰囲気だった。
と、そこへガジル、バッカス、ディアン、グーズの4人を見つけた。
「ガジルさん、昨日はありがとう御座いました。」
ガジルの方に行って昨日の御礼をしておく。するとガジルは少し考えたような顔をする。
「ああ、おめぇか。そうだこの後ちょっとつら貸せよ。おめぇにいっておかねぇとだめな話があるからな。」
「? わかりました。先に精算だけしてきます。」
俺は精算カウンターに並び、精算をしてもらった後待っていたガジルに声を掛ける。
「ガジルさん、精算おわりました。」
「よし、んじゃいくか。飯食いに行くぞ!」
乱暴に肩を腕を置かれそのまま冒険者組合を出て1件の酒場に向かう。中に入ると注文して待っていたバッカス、ディアン、グーズの3人がいた。
「おう、お前もエールでよかったよな。」
「はい。大丈夫です。」
バッカスさんから確認を取られたけどすでに注文してた後だったので、まぁいいかと了承する。
注文の品が来るまでガジルが今日の話をしてくれて盛り上がってきたところでエールが運ばれてきた。
「よーし、今日も飲めることに感謝して乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
口に含むとなんとも言えない苦みが口に残るが嫌な感じはしない。喉が渇いていたこともあり半分も飲んでしまった。
「結構な飲みっぷりだな!」
「ははは、あまり飲んだことはないですけど喉が渇いてたんですよ。」
ちょっと体が熱くなってきたがまだまだ飲めそうだった。つまめる一品物をいくつか注文してまた別の話で盛り上がっていく。
「さて…きょうおめぇを飯に誘ったのは言っておきたいことがあったからだ。」
急に真面目なトーンでガジルが話し出す。というかいきなりそんな真顔になるとマジで怖い。
「なんですかいきなり…。結構真面目な話なんですか?」
ちょっと酔いも入っていたためガジルの怖い顔も今なら平気な感じだ。意識ははっきりとしているが、なんかこう自分の態度が大きくなった感じがする。
ガジルはそんな俺に顔をしかめてから
「真面目な話だからしっかりと聞けよ。…おめぇ鑑定士なんだってな。」
「ああ、はい。そうですよー。」
手をひらひらとさせてうなずく。それを見てガジルはため息をついて店員に水を持ってこいと注文する。
思った以上に俺は酔っているみたいだなーと。他人事のように感じていた。すぐに店員が水をもってきて受け取ったガジルがこちらに水を差し出す。
「ほら、飲め。おめぇがこんなに弱いとは思わなかったからよ。まぁすこしは酔いを覚ませや。」
受け取った水を飲んで少し落ち着く。まだ体は熱いが意識はしっかりとしている。
「ガジルさん、大丈夫ですよー。意識はしっかりとしてますからー。」
ただ話し方が少し間延びした感じになっているのはご愛敬と思って欲しい。ガジルは胡散臭い目をしていたがまたため息をついて、
「よし。じゃあ話すぞ。一度だけだからな。」
「はいはーい。」
こくりこくりと俺はうなずく。
「…おめぇ鑑定士ってどんなイメージだと思う?」
急にそんなことを聞かれた。いや、鑑定士と言われれば相手のステータスを見たり物を鑑定したりとかなり便利な職業じゃないかな。
「鑑定士ってかなり便利ですよね。やっぱり物を鑑定できるのは良いと思いますよー。」
にこにこと俺はそう答える。するとガジルがまたもため息をつく。
「あー…やっぱそういう認識だったか…。」
ガジルは額に手を当て上を向く。
「あのな、この国では鑑定士ってのは『クズで最低な職業』って言われてんだよ。なんでかわかるか?相手のステータスを『勝手にのぞき見するクソ最低な奴』ってな。」
「は…? え、なにそれ。」
ぽわぽわした気分が一気に吹き飛んだ。この国の鑑定士ってそんな感じで言われてるの?!
「ああ。確かに鑑定士ってのは有能だと思うわ。だけどな、それを認識してるのはお偉方とランクの高い人間だけでほとんどのやつは、そういう評価になってんな。」
「おぅ…マジか…。って、もしかして今日冒険者組合でやたらと視線が痛かったのは…。」
「ああ、多分そのせいだな。どこから漏れたか知らんけどな、鑑定士って分かっただけでもハブられたりするからな。特に女性からの視線は厳しいぞ。『鑑定士=変態』って言うくらいだからな。」
俺はそれを聞いてかなりへこんだ。だってそうだろ?鑑定持ってたら相手のステータス見て、自分より強いか弱いか判断したり、能力調べたりとかなり有効に使える能力じゃん。
もってるだけで変態呼ばわりとか初めて聞くわ!
「あー鑑定を使うな、って事じゃないからな。一応言っとくと。ただ周りからの視線は厳しいぞ、ということとあまり鑑定士ということは言わない方が良いぞ…といいたかったがそれはもう無理かもしれんな。西部支部の冒険者組合のほとんどが知ってるかもしれん。今日朝からずっとその話で持ちきりだったからな。『あの変態に気をつけろ』ってな。」
「……………。」
へこむわー。めちゃくちゃへこむわー。そんなこと言われてたのかよ。一気にテンションダウンだよ!
うわーこれからどうしよう。っていってもイリナの花の採取しか今はできないしなー。
「それで、だ。おめぇが良かったら一時的に俺らのパーティに入るか?」
「へ?」
これからどうしようかと考えていたところにガジルが救いの手を伸ばしてくれていた。
「いいんですか?」
「ああ、これでも俺はランクDだからな。鑑定士ってやつが有能なのはわかってるわ。ま、おめぇ自身は鍛えないといけねぇけどな。」
ガジル、バッカス、ディアン、グーズの顔を順に見ていくがパーティについては歓迎しているようだった。
おお…そんな話を聞いた後だからかかなり嬉しく感じる。
「ただしまだおめぇは弱いから荷物持ちになるけどな!」
少し落ちをつけられて、ギャハハハとガジルが笑う。
「ランクの低いヤツの仕事だからそれは我慢しろ。…俺もそうやってきたからな。」
と、ディアンがいう。
「わかりました。明日からよろしくお願いします。」
「ああ、明日からよろしくな。」
俺はガジル達のパーティに入ることになった。
その後は宴会を楽しみ気づけば結構な時間になっていた。
「そろそろ宿に戻ります。これ、いくらになるんですか?」
覚えていないが結構飲み食いした気がする。正直持っている金額で大丈夫が不安なくらいだ。
「あー、今日はいいぞ。おめぇの歓迎会ってことでな。」
ガジルがそういうと、「きいてねぇ!」とバッカスが大声で言う。グーズも「ガジルが半分払えよ」という始末。
「あはは、明日からよろしくお願いします。」
「おう、お前の鑑定便りししてるぞ。」
とディアンが俺の肩をポンとたたく。
「明日、冒険者組合で朝2つの鐘までにこいよ!」
「わかりました!」
流れるがままだったが、明日からパーティを組んでの仕事か。正直不安しかないけど楽しみでもあったりする。
そんなことを考えながら宿に戻った。