006
翌朝、朝食をとった俺は早速冒険者組合西武支部に向かった。
冒険者組合の建物に着くと結構な人が建物の中に入っていく。俺も急いで建物の中に入った。
そこそこ広いフロアに大勢の人がごった返して、依頼の精算をしていたり、収集品を買い取ってもらったり、依頼を受けていたり…とカウンターには大勢の人が並んでいた。
俺は依頼が貼られているボードに向かい手頃な依頼が無いか確認してみる。
ボードの前にもかなりの人がいたがランク事に依頼が貼られており、一番最下位のGランクには人はまばらだったため大して無理はせずボードの前に立つことができた。
「んー…どんな依頼があるんだろう。」
依頼を確認すると、ほとんどが採取依頼になっている。その中でも多いのが…
【「イリナの花」の採取 根っこを含め1束(10輪)から納品可 1束600リーン】
【「イリナの花」の採取 花のみ1束(10輪)から納品可 1束300リーン】
8割方がイリナの花の採取だった。他は「マフナの花」という花の採取になっていた。ただ金額が安く、今泊まっている宿で維持しようとするとイリナの花の根っこを含めた採取を毎日5束集めないといけない。
現実的にそれは無理だと考えている。そりゃ採取したら花なんて次生えてくるまで時間がかかるだろうし、取り尽くしてしまうと今後イリナの花が咲かなく可能性もある。
「早くランクを上げて別の依頼をするか、東部支部に行くべきか…。」
ボード前で色々と考えていると1組の冒険者に声を掛けられた。
「お?お前見ねぇ顔だが新人か?」
「はい、昨日登録して今日から依頼を受けようと思っています。」
声を掛けてきたのはガラの悪そうな男性達だった。俺は少し警戒しながらボードに貼っていたイリナの花の採取の依頼を取った。
「とりあえず今の自分にできそうな、この採取をやってみます。では…。」
そのまま立ち去ろうとしたところに、ガラの悪い男に肩を捕まれた。
「はっ、そんな安い依頼受けるより俺たちと一緒に来いよ。最初だから荷物持ちだけどな!」
ギャハハハ、と下品に笑う。捕まれた肩を振りほどくとやんわりと断りの言葉を言った。
「申し訳ないのですが、初めてなもので少しずつ実績を積んでいきたいんです。」
俺は逃げるようにその場を後にして依頼を受けるためカウンターに並ぶ。男達は追ってこなかったがこちらを見る目は睨む様だった。
(やべぇー。これは気をつけないと危ないかもしれない…。よくある新人いびりってやつかもな。)
冷や汗を掻きながら順番を待った。待っている間男達に何かされないかドキドキしていたがそういうことも無く、10分ほどで自分の番になった。
カウンターで依頼の用紙とギルドカードを手渡す。依頼内容はギルドカードに記録できるそうで、ランクGは同時に3つまで受けることが可能らしい。
「はい。依頼を受け付けました。期限は特にありませんので持ってきていただいた分報酬と致します。」
ギルドカードを受け取り、建物からでて早速採取に向かうため西門に向かった。
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ギルドカードを見せると問題なく外に出ることができた。王都に入るときにもらった木札は西門の人に返却しておいた。
西門からでてすぐに林の中に入る。門番の人にイリナの花の場所を聞いてみるとそこら中に生えているとのこと。ただし、草食の魔物も好んで食べるため門付近には生えておらず林の中に入っていく必要はあるということ。
日の高いうちは凶暴な魔物も出ることがないそうなので、もし魔物に出会ったとしても走って逃げれるという話だ。
林に入って暫くすると黄色の花を見つけた。鑑定をしてみるとこれがイリナの花だった。リュックから西門に向かう前に買ったナイフを取り出して根っこからまとめて掘り出す。 根っこについて土を払って袋に入れてリュックにしまう。
周りを見ると黄色の花が咲いていたためこの場所で採取をするため次の花に向かった。
気づけばすでに日は高く昇っておりお昼を過ぎたくらいと感じる。どうやら夢中になりすぎていたようで33輪ほど採取できた。
「おおー、思った以上に取れたなー。」
最初は雑草を根っこから取るような作業かと思っていたけど、花の周りの土をえぐるように掘り起こして根っこまで綺麗に取り出して根っこの土を払う。という作業を繰り返していたけど中腰の作業だったため結構疲れていた。そのためちょっとやりきった感を出してにんまりとする。
「あともうちょっと頑張れば5束に届きそうだし最低でも後7輪は採取しときたい。」
そう思って、イリナの花が咲いていそうな所を探しさらに進んでいった。
「ふーこんなもんかな。」
リュックの中には6束分60輪のイリナの花が入っている。花を見つけるのに少し時間がかかったが予想以上に多く採取できていた。
「さて帰るか…。」
と、立ち上がり周りを見渡す。
「あれ、どっちから来たっけ。」
目印になるような物を置いてきたわけではなかったので自分がどっちからやってきたのか全く分からなかった。
「やべ…これ結構やばいかも。」
高く登っていた太陽ももう沈み始めているせいか先ほどに比べて心なしか暗くなっている気がする。
かといってこんな場所でじっとしていれば魔物に襲われる可能性もある。
「と、とにかく街道まででよう。そこまででればなんとか。」
振り返り移動をしようとしたところで、グルルルル…と獣の声がした。
周りを見渡すと野犬と思わしき魔物が3匹茂みの中から現れた。大型犬くらい有りそうな大きめの犬(魔物)だった。
「ひっ!…ってかこれ死ぬかも…!」
背中を見せないように少しずつ後ずさりするが、魔物達も少しずつじりじりと近づいてくる。今にも飛びかかってきそうだ。
恐怖に負けて背中を見せたら間違いなく飛びかかってくるんだろうけど、今この状態も飛びかかってくるまで時間の問題のように思えた。
ゆっくりと後ろに下がっていくが、魔物の方が距離を詰めるスピードの方が早かった。
どうするか、リュックを投げつけて逃げるか。いや追いつかれるかもしれない。助けは…こんな所に誰もいないだろう。大型犬くらいある大きさだし力もあるだろうし…
色々と頭に考えがよぎるがどうやったら逃げれるか思いつかない。これが普通の犬くらいだったらなんとかなったかもしれないのに。
気づけば魔物達はかなり近くまで接近していた。今にも飛びかかろうという状態だ。
もうだめだ!と思ったところで、颯爽と一人の男が間に入って一番近くにいた魔物を剣で横薙ぎ首をはねる。
「おい!大丈夫か!」
助けてくれた人は、朝冒険者組合で絡んできた男だった。