寝取られると言ってもそいつら俺と関係ないから
最近話題の勇者に何もかも持っていかれるというモノを書いてみました。
思い付きで書いたので、矛盾したところや変なところがあると思います。
「ごめんねゼファー。私、勇者様と旅に出るの」
目の前に幼馴染の……。何とかとかいう名前の女が、涙を浮かべて俺に何か言っている。
「あ、そう。がんばってね」
そう言って俺は去ろうとしたのだが、何故か腕を掴まれる。
「何?」
俺は心底面倒臭そうにその女を見る。その女は涙を流しながら「ごめんねごめんね」と繰り返す。いや、正直どうでもいいんだけど?
そんな女の肩を、男がそっと抱いて俺に「君にはすまないと思っている。彼女との仲を引き裂く形になって……」と口角を釣り上げている。
なんて卑しい顔をしてやがる。こいつ、これでも勇者らしい。もしかしてと思うが、こいつからしたら幼馴染の女(だという記憶は一応ある)を俺から奪う(勝手に持って行ってくれ)のに愉悦でも感じているのか? 全く大した性癖だ。
「あぁ。幸せにしてやってくれな」
そう言って、俺は去ろうとする。……が、この女、まだ腕を掴んでやがる。離せや……。
「離せ。お前はその勇者……、そいつと旅に出るんだろ? さっさと行けよ」
俺は悔しそうな(演技)顔をして、その場から走って逃げる。
よし、追っかけてこないな。さて、家に帰るか……。
「って、なんでお前等が、俺の家の前にいるんだよ」
俺の家の前には泣く女と、女を肩に抱く勇者がいた。
「早く旅に出ろよ。鬱陶しい」
しまった。つい本音を言ってしまった。
「いや、この家は君の家なのか!?」
「あぁ?」
勇者の話では、俺の妹が勇者の仲間に選ばれているらしい。
妹ねぇ……。確かにいるっちゃいるが、もう数年単位で口もきいてねぇから、お互いどうでもいいんだがな。
「ねぇ。お兄ちゃん」
後ろからあり得ないセリフが聞こえる。お兄ちゃんって誰の事!?
「あぁ?」
「お兄ちゃんごめんね。私行くね」
「どうぞ勝手にいってらっしゃい」
そう言って俺は家に入ろうとする……がまた腕を掴まれた。いい加減にしてくれ。
その後も、俺の近所の若い女全員に同じ茶番を繰り返され、俺の機嫌の悪さは最高潮になる。
夜になってようやく勇者様から解放された俺は、宿屋へと向かった。宿屋の二階の部屋からは勇者が盛っている声がよく聞こえる。
宿屋の主人は俺を見ると哀れそうな、そして可哀想なものを見る目で見てくる。
「おい。前から言っていたが、今日で俺もこの村を出る。俺が今まで住んでいた家は好きに使ってくれ」
「ゼファー君。辛いのも分かるが、どうか自殺だけは考えんでくれ」
こいつは何を言っているんだ? 相手が勇者というだけで簡単に股を開く女がどうなろうが知った事かよ。というより、どうして、この村の連中は、俺があいつらと仲が良かったと思い込んでいるんだ? 殆ど話をした事がねぇよ。
「まぁいい。じゃあな」
俺は宿屋の親父に家のカギを渡し、宿屋を出ようとした。その時、階段からヤリ疲れた顔をした幼馴染の女が降りてくる。
「ゼ、ゼファー!? あんたこんなところで何をやって「うるさい。お前に興味がないから黙ってろ」……ふん。ゆうしゃ「だから黙れ。親父。元気でな」……ど、どこに行くのよ!!」
俺は女が騒ぐのを無視して村を出る。
「さて、約束を守りに行こうかな。俺が愛しているのはこの世であいつだけだからな」
そう呟き、俺は魔王城に向かって歩き出す。
~数年後~
「魔王様。勇者一行が魔王城に進行して来たそうです」
「そうか……。じゃあ、手はず通り、城にいるやつらを全員避難させておけ。この城には俺だけが残る」
「し、しかし!!」
「安心しろ。俺の強さは知っているだろう? 必ず俺もあの場所に行く。そもそも、かわいい嫁さんと娘がいるのに死ぬかよ」
俺は口角を上げつつ部下を逃がす。
ここにいる魔族達は本当に気の良い連中なんだ。こいつらを守る為なら、幼馴染(笑)、妹(他人)、なんざどうでもいい。
「さてと、勇者様は元気かな? 懐かしくて気持ちが昂るぜ」
暫く待つと、魔王の間の門の前で勇者達? が騒いでいる。あいつら何人で旅してんだ?
静かに門が開いて行く。もたもたしているから、俺が開けてやった。
「魔王!! 覚悟しろ!! お前の悪事もここまでだ!!」
相変わらず偽善者のような顔だ。勇者の周りには七人の女。その中には幼馴染(だった記憶はある)女と、金を持っていた親父に、金目当てで近付いた後妻の娘、いわゆる妹と呼ばれるビッチもいる。他に、綺麗どころを集めてハーレムパーティを組んでいるようだ。お盛んなものだ。
「で? お前等は、一体何しに来たんだ?」
「お前を倒すためだ!!?」
「ほぅ。ここ数年は魔王軍がお前ら何とかって国を襲う事はなかった筈だが? 何故、襲わなかったと聞かれれば、襲う価値がないからかな?」
「何ぃ!?」
「色ボケを勇者において、勇者の肩書に股を開くだけのアホ女のパーティなんざ、簡単に消せるから放っておいただけさ」
俺の暴言にパーティの女が一人俺に斬りかかる。
おっせぇ……。
マジか?
おいおい、まだ俺の所に来ねぇのか?
欠伸が出る。
「魔王覚悟!!」
俺は女の剣を指一本で受け止める。
「おい? 何の冗談だ? それが本気と言わんよな? まぁ、いいわ。死んどけ」
俺が剣を薙ぎ払うと女は壁に激突して、そのまま息絶える。
「き、キサマ!! なんて非道な事を!?」
「はぁ?」
俺は玉座から立ち上がる。
「お前らだって、ここに来るまで罪もない魔族を斬って来ただろ? それと何の違いがあるんだ?」
「ちょっと待って!? 貴方……ゼファー君!?」
「あぁ? あぁ……。隣の家にいた色ボケか。お前も勇者パーティにいたんだな」
「何故、貴方が魔王に!? まさか私達を勇者様に奪われたから……」
なんだ、その気色悪い推測は。
「違うわ。元々、魔王をやっていたのが俺の女だっただけの話だ。今は妻だがな」
俺の話に幼馴染の女が発狂する。
「そんな筈ないわ!! 貴方は私の婚約者だった筈!?」
「寝言は寝て言えボケェ。もう、これ以上の話は不必要だろ?」
俺は勇者の首を斬り飛ばす。
「マジかよ。牽制のつもりだったのに、お前が一番最初に死ぬなよ」
勇者は何が起きたかわからぬまま絶命する。女どもはその光景に発狂しだすが、まぁ……生かしておいても魔族の害になるだけだからな……。
~数日後~
「陛下!! 勇者様達が……!?」
「何があった!?」
俺は勇者の首を、王の目の前に吊るしてやる。
「ひぃいいいいいい!!!」
王の股間に染みが出来る。
女共の死体は王の間から、よく見える場所に放置する。
「ななななな!!!!! お前は何者だ!! 勇者殿を殺したのはお前か!?」
お? 俺に気付いたか。
「そうだよ。俺だよ。ついでに勇者パーティも全滅させておいたぜ。お前等も、魔族を散々殺してきたから、いいじゃねぇか」
「き、キサマら魔族と人間様を一緒にするな!!」
「あっそ。まぁいいさ。つまり、まだ続けるんだな?」
王は俺を憎しみを込めた目で睨みつける。
「そうか……。なら仕方が無いな。お前には、ここで死んでもらう。民には罪はないからな。殺しはせんさ。罪なのは……。異世界から、勇者を召喚したお前だからな」
王は何かを言おうとしていたが、俺の振るった剣で首が飛んでいく。
「さて、後は任せるぞ。宰相……」
「あぁ……」
「これで長年続いた、魔族と人間の下らない争いも終わるだろ」
「あぁ。感謝するよ。魔王ゼファー殿」
宰相の安堵した顔を見た俺は、愛する家族の元まで帰る事にした。
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他にも「クジ引きで選ばれた勇者」 https://ncode.syosetu.com/n2043en/を連載しています。