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上空から見る景色は、やはり綺麗だ。
それに、何処で何が起こっているかも一目瞭然。
道路に立っている警備隊を発見した俺は、彼らが囲む円形の中心を目指した。
足元で、誰かが俺を指差している。
だが残念ながら、今は体に纏う暴風の所為で、声が聞き取れなかった。
そんな彼らの纏う服も、暴風に棚引いていた。
こうまで広範囲の風を操るとは……。
300年前の超兵器、フィセント・メイル……やはり恐ろしいもんだ。
これでもまだサブコンデンサーはなくなってるし、その他諸々ガタが来てる状態らしい。
完全体のメイルは、どれ程のパワーになるのか、俺にはとても想像がつかなかった。
その時。
「あれは……?」
通行規制がされ、ほぼ無人となっていた道路に、よろよろと歩く人影が一つ。
人影へと視線をやったことを感知したメイルが、拡大映像を視界の中央に映し出してくれる。
所々腐りかけた身体、切り落とされた左腕。
間違いない、イブキちゃんを狙う魔人だ。
「あいつか……」
俺は体に纏う風の流れを止め、下方を歩く人影へ急降下を始める。
同時に、メイルドライバーが中央の分割線から上下に割れた。
充電完了! 必殺技もいつでも撃てる!
今回は速攻で決めさせてもらう!!
「はああああああああああああ!!」
左腕のウェポンラックに魔断剣を形成し、俺はそれを抜き取る。
剣に風を纏わせ、自由落下と共に上段から振り下ろした。
「ガアアアアアアアアア!」
ゾンビ魔人は、俺の一撃を悟って、それを寸での所で躱した。
だが、風の刃までは躱せない!
「アア、ガアアアアアアアアアアア!」
ゾンビ魔人の右耳が、風の刃に切り落とされる。
「警備隊が集まってくると嫌なんでな。
悪いが、今日のヒーローごっこはおしまいだ!」
俺は、展開したメイルドライバーの外装を、右手で元に戻す。
<Finally Drive>と、無機質な電子音声が、ゾンビ魔人への死刑宣告をした。
同時に、魔断剣が竜巻を纏い始める。
そして俺は、竜巻ごと、魔断剣を上段から振り下ろした。
竜巻が剣から離れ、地面を滑って行く。ゾンビ魔人の方へ。
魔人は咄嗟に逃げようとするが、それは叶わなかった。
横幅人一人分、高さ20メートル程の竜巻が、ゾンビ魔人を絡め取り、上空へと持ち上げていく。
……あ、必殺技名考えてなかった……。
まあいいか! 実際に見てから考えた方が良さそうだ。
空中で竜巻に拘束され、身動きが取れないゾンビ魔人。
俺から5メートルほど離れた位置にいる奴に対し、俺はその場から動かず、ゆっくりと剣を振り下ろした。
それを合図とするように、竜巻の中から現れた無数の風刃が、ゾンビ魔人をバラバラに解体していく。
「が、ガガガガガガッガアッガガッガ!!!!!」
竜巻が収まった時、無惨にもゾンビ魔人の身体は、辺り一面に散らばっていた。
「呪うんだな……俺に出会った運命を……!!」
同時に、俺の身体を纏っていた鎧も、風になって消えて行った。
その時「あそこだ!」といった声が、建物角の向こうから聞こえてくる。
……警備隊がきやがったか。必殺技を撃っちまった俺に、顔を隠す鎧はない。
見つかったらやばいが、そろそろライムが来てくれる頃だろう。
「こっちよ! 掴まって!!」
その時、俺の後方から、ライムの声が聞こえた。
空飛ぶ車に乗ったライムが、ヘルメットで顔を隠し、俺を迎えに来たんだ。
空飛ぶ車と行っても、この世界じゃ普通に売っているものだ。
素性を隠すために、ナンバープレートなどに軽く細工がしてあるが、それ以外には手を加えていない。
だが一つ厄介なのは、空を飛べると言っても、交通ルールは存在することだ。
何処でも自由に飛んでいいわけではない。
その所為で、毎度毎度警備隊から追われる羽目になる。
まあ、公の繋がりがない以上は、仕方ないのだろうが。
後部座席のドアを開き、道路を走ってくるライムの車。
それが俺の真横を通り過ぎ技た時に、俺はそいつに乗り込んだ。
「乗ったぞ!」
「OK!」
するとライムは、車を急上昇させた。
しばらく、警備隊の追跡を受けることになった。
だが、ある程度の距離を逃げていたら、彼らはパタリと追ってこなくなった。
恐らく、俺達と繋がりのある警備隊のトップが、追跡中止を指示してくれたのだろう。
追跡が止んだのを確認してから、俺達は遠回りに遠回りを重ねて、自宅へと帰った。
俺が家に戻ると、ライムは「買い忘れたものがある」といって、そそくさと何処かへ行ってしまった。
メモにある物はちゃんと買ってあったはずだが……。
家に残されたのは、俺とイブキちゃんだけ。
イブキちゃんも、今日であったような奴と二人きりにされた所為か、どこか落ち着かない様子だった。
「そう言えば、イブキちゃんはこれからどうするんだ? どっかに泊まるのか?」
あまりにそわそわしているので、俺が話を切り出してみる。
イブキちゃんはビクッと過剰に反応した。そこまで驚かなくてもいいだろ。
「えっと、ここでお世話になろうかなって……。ライムさんもいいって言ってくれました」
「へぇ~」
……ん? ここで?
ベッドだって二つしかないし、とても3人入るスペースなんてないぞ?
「3人住むには少し狭いんじゃないか?
どっかでホテル借りるって言えば、資金位ならライムが出してくれるだろ?」
「えっと、そうじゃないんです」
イブキちゃんはモゴモゴ何かを呟きながら、顔を真っ赤にして顔を伏せる。
……俺、なんか変なこと言ったか?
なんとフォローしていいのか、考えていると、イブキちゃんが意を決したような表情で顔を上げた。
「あ、あの!!」
「な、なに?」
「私、昔から決めていたんです……!
私の技を見切れた男性を、私の旦那様にしようって……!」
え? なんで恋愛相談始まってんの!?
この子の技はさっき身をもって体験したけど、あんなの見切れる奴なんているのか?
俺だって、フィセント・メイルのサポートなかったらまったく反応できないレベルだぞ!?
「あ、ああ。それで?」
「だから……その……。わ、私と……」
旦那様を探すのを手伝えとでも言うのか?
まあ、この世界の知り合いなんて、ライムと他2名ほどだ。
見分を広めるついでにはいいかもしれないが……。
イブキちゃんは、グッと顎を引いて目を瞑る。
そして、全てを吐き出すかのような勢いで叫んだ。
「結婚を前提に! お付き合いしてください!!」
……え? 誰が? 俺が……?
「は、はあああああああああああああああああ!?」
この時、俺のヒーローごっこに、ヒロインが現れた。
同時に、ヒーローごっこが、ごっこじゃなくなったのも、この時からだったのかもしれない。
第2話完結です。
第3話をお楽しみに!!