15-2
夢でも見ているようだった。
目の前で死んだイブキが、今もこうして生きている。
イブキの額の銃創も、血だまりも綺麗に消えた。
先程の出来事は、本当に夢だったんじゃないか?
だが、イブキの体温が、夢ではないよと俺を嗤うようで……。
「……大丈夫なのか……? イブキ……」
俺の腕の中で、イブキは笑みを浮かべた。
今までと何も変わらない、可憐な笑みを。
「ええ。今もこうして、生きています」
何も変わらない?
そんなはずはない。
イブキは一度死んだんだ、変わらないわけがない。
俺は、イブキを恐れているのか……?
死してなお、変わらないイブキを。
「イブキ、死なないからって、無茶しすぎ」
額に汗を浮かべて、サラマディエは深いため息を吐いた。
「死なない……イブキが……?」
ライムは俺達を見て、ポツリと呟く。
俺達がサラマディエに攫われた時、イブキは奴に何かをされていた。
その結果がこれということか?
フローラの走行音だけが響く社内の中で、ライムがゆっくりと口を開く。
「ねえサラ、そろそろ教えて。
イブキちゃんとソウタに何をしたの?
街に何が起こっているの?」
「教えたいのは山々なんだけど、信じてくれる?」
「どうせ信じたくなるような話ではないんでしょ?」
サラマディエは「まあね」と小さく笑いった。
確かに信じたくなる話ではない。
300年前から支えてきたマフルの街が、敵だなんて。
「じゃあ端的に教えてあげる。
私達が今戦はなくてはならないのは、マフルの街……の皮をかぶった――」
不意に、敵から補足されたことを告げるサイレンが、車内に響き渡る。
「――眠れる森だよ」
耳障りの悪いサイレンが、これから訪れる戦いを、俺達に告げたんだ。




