15-1
イブキが……死んだ……!?
そんなはずはない、そんなはずはないんだ!
何かの間違いだ、そうに違いない。
でも、確かに先ほどの矢は、イブキの頭を貫いた。
ぬめりと足元に滴った赤い液体、倒れ伏したイブキの体。
俺はその光景に、何もすることができなかった。
ただ、立ち尽くすだけ……。
それは、俺だけじゃない。
フロイアもサラマディエも、マナもノインも、ライムさえも、呆然とその光景を眺めていた。
俺の脳は、この現状を認識しようとしない。
しかし、体は……俺の目は、イブキの姿をしっかりと捉えていた。
そして――声にならない声が、俺の体から漏れ出した。
「イブキ……イブキ!?」
体が血まみれになることなんて構わない、俺はイブキへと這いより、彼女の上体を起こした。
それに連鎖するように、ライムも震えた声を上げる。
「イブキ……ちゃん……!?」
俺達が何度呼び掛けても、イブキの目は開かない。
開くはずがないんだ……わかっている。
だが――。
「……だんな……さま……」
イブキの口が――ゆっくりと開いた。
脳を貫かれたというのに……。
「イブキ……!!?」
俺は言葉を失った。
喋れるはずがないからだ、今のイブキが……。
「……わたしは……だい……じょうぶ……」
「大丈夫なわけあるか!?」
こうしている間にも、イブキの心臓の鼓動に合わせて、彼女の傷口から血液が漏れ出している。
これを止める方法は……いや、止めても助からない。
「こりゃ、ちょっとまずいかもね」
そんなイブキを見て、サラマディエはポロリと漏らした。
ちょっとまずい?
どう見てもちょっとじゃないだろうが!!
「マナ、バーズシングのドライバーを」
サラマディエがそれを言い終わるより少し早く、マナはバーズシングのドライバーをイブキに持たせた。
そして、ドライバーに魔力を流し込んでいく。
まさか、メイルの救命モードを起動しようってのか?
でも、イブキはメイルを纏えないはずじゃ……?
<Starting>
しかし、メイルは何の問題もなく始動した。
どういうことだ……!?
同時に、イブキの体が淡い光を放ち始める。
床にぶちまけられていた血液は光の粒となって、イブキの体に吸収されていく。
「なんだ……!?
何が起こって!?」
そして、イブキはその瞳を――ゆっくりと開いた。
「肉体を『亜物質』によって構成された人間……いや、肉体を持たない人間。
それが今のイブキだよ」
目を伏せ、サラマディエは平坦な声色で告げる。
肉体を……持たない人間……!?
「だから……私は大丈夫です……旦那様……」
俺の頬に添えられる、イブキの小さな手。
肉体を持たないなんて嘘のように、その手は、温かかった――。




