14-5
「久しぶりね、ライム、サラ、マナ……それに、姉さん」
「マナも、フロイアも、この場にいるの……?」
明らかに状況についてこれていないライム。
俺は、そんな彼女の拘束を解いた。
今のライムは完全に戦意を失っている、これ以上の拘束は無意味だ。
「それじゃあ、みんなが倒れたのも、お前がやったってことか?」
ライムの言葉はいったん置いといて、俺は一つの疑問を投げかけた。
それに対して、メイサは短く「ええ」と答える。
「ってことは、お前は『眠れる森』の側ってことだ」
「眠れる森……?
どういうこと!?」
ライムは声を荒げる。
だが、その問いに答えようとする者はいない。
今、一からこの状況を説明するのは骨が折れるからだ。
「答えてソウタ!!」
『ライライは黙ってて。
ソウタ、ずらかるよ!!
今のメイさんはキミに勝てる相手じゃない!』
俺は魔女メイサの右腕に装着されている端末に、視線を縫い付けられた。
あれはおそらく、メイルドライバー。
ただでさえ身体能力の高い魔女が、メイルを纏ったらどうなるのか……俺でなくても想像はつくだろう。
「そんなもん、見たらわかるよ。
マフルの街が、俺達の敵ってことも」
「ソウタ……何を言ってるの……?
マフルの街が敵!?
そんなこと――」
『有り得るのですよ、魔女様。
キサラギ殿は、我々と道を違えた。
我々の救済を拒んだ』
プロフェッサーの言葉に、困惑する者が二人。
一人はノイン、もう一人はライムだ。
防衛隊員達が次々と倒れる中、何故ノインが立っていられるのか……ディア・メイルのお陰か?
「プロフェッサー、仰っている意味がわかりません……?」
ノインももはやマナとの戦闘を止め、グーンから聞こえるプロフェッサーの声に、疑問を呈していた。
だが、それに対するプロフェッサーの回答は、あまりにも冷たいものだった。
『アイシバー殿、わかる必要はありません。
救済を拒むものは――始末します』
<Awakening>
聞いたことがある電子音声が、何処からともなく音を発する。
これは、デザイア・チューナーのものか。
でも、俺のものじゃ……?
そして、メイサの近くに現れるもう一つの端末。
間違いない、あれは――。
「デザイア・チューナー……!?」
メイサのデザイア・チューナーは、彼女の右腕のメイルドライバーに装着される。
その後、彼女はデザイア・チューナーのスロットに、藍色のエレメントコンバータを装着した。
「――憐装」
<Angelic Drive>
まず俺の目に入ったのは、眩い光。
俺達の周囲には、突如として嵐のような風が吹き荒れ始めた。
メイサの美しい髪が棚引き、眩い光は形を変えていく。
――金色の鎧に。
鎧を纏い、四枚の翼を携え、上下に伸びる湾曲した二本の刃によって構成された弓を持つ……騎士。
その姿は、まさに武装した「天使」だ。
あれが、魔女メイサの鎧……!
『ソウタ、メイさんを足止めして!!
間違っても勝とうなんて考えないでよ!!
マナ、ノインとライライをお願い!!』
勝とうだなんて思うな?
最初から勝つことなんざ考えてない。
ただ、救済を受けないから始末するなんて、その考え方がムカつく。
ただそれだけだ。
「言われなくたって考えやしないさ。
ただな、ぶっ飛ばす!!!!」
<Awakening>
「――赫装!!」
<Bloody Drive>
一瞬のうちに、俺の身体の周りを走る無数の稲妻。
赫いそれらは形を変え、黒い鎧を俺の体表に形成した。
金色のメイサに対して、黒い俺。
あっちが天使だとしたら、俺は悪魔か何かだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
プロフェッサーの言う「救済」が天使の成すことなら、俺は悪魔にでもなんでもなってやる!!
俺は赫い翼を全開に開き、フローラの上からメイサの目の前に、一気に接近した。
抜剣と共に左から一撃を見舞う。
だが、音速を超えたその一撃すら、メイサは軽々と受け止めた。
刹那――鋭利な、それでいて重い痛みが、俺の腹部を圧迫した。
同時に感じる急激な加速感。
ドォン!!
気付けば俺は、道路脇の建物に体を叩きつけられていた。
腹には、湾曲した剣。
そいつが、建物の壁と俺の腹を縫い付けるように突き立てられている。
今、何が!?
「カハッ……!?」
メイサが立っている位置は、先程から変わらない。
それどころか、体勢を変えた様子すらない。
すると、俺の腹に突き立てられていた剣が、光の粒となって消えて行った。
メイルが瞬時に傷口を塞ぎ、出血を押える。
それでも、猛烈な脱力感が俺を襲った。
視界の隅にいるメイサの手元に、再度出現する剣。
弓にも見えるその剣を手に、メイサは弓を引くようなポーズを取った。
同時に、メイサの手元に出現した「光の矢」……!?
「さ、せ、る、かぁぁあああああああああ!!!!」
俺は腹部の激痛を耐え、メイサへと一直線に加速する。
魔断剣を顕現させ、そいつを抜剣、メイサへと振りかぶった。
奴はそれに対応する様子はない、この一撃、入ったか……!?
だが――。
ガキィン!!
と言う金属音と共に、魔断剣が俺の手からすっぽ抜けた。
「何!?」
そうか、奴が使っているのは運動エネルギーのコンバータ。
剣が触れた瞬間、反発するエネルギーを与えられたらこうなるのは当たり前だ。
俺は、メイサを止めることは叶わず、奴が光の矢を放つのを許してしまった。
射出されてから、無数の矢に分裂。
フローラに、まるで雨のように襲い掛かる。
「イブキ!!」
フローラにはどうやら、魔力障壁が搭載されているようだ。
無惨にも障壁は貫通されているが、フローラ本体に届くころには、矢のエネルギーの殆どは失われている。
これなら、逃げ切れるか……?
ライムとノインを上に乗せ、フローラは急発進する。
よかった、矢によるダメージは少ないようだ。
『こっちは大丈夫!
街の外に出るよ!!
壁をぶち破って!!!!』
「街の外!?」
やるしかないか……。
俺はメイサの動向に注意をしつつ、先陣を切った。
現在地は元々壁沿いの町、街の外に出るのは容易い。
何故かメイサもあれ以上の追撃はしてこない、チャンスは今か!
俺はフローラに並走しつつ、壁の一点を見つめた。
「はああああああああ!!!」
<Finally Drive>
そして俺は……俺が世話になってきた街の壁を――ぶち破った。
フローラは壁に開いた大穴を抜け、街の外へと躍り出た。
『ソウタ、ナイス!!』
だが、今ので必殺技を使ってしまった。
もうメイルも長く持たない。
『乗って!!』
それを察したサラマディエは、フローラの後部ハッチを解放した。
俺は鎧が消え去る前に、後部ハッチからフローラに乗り込んだ。
ほぼ同時に、俺の鎧が赫い稲妻と化して消えて行った。
あれから、一切の追撃をしてこないメイサ。
……なんとかなったか……?
メイサの追撃を警戒しているのか、すぐさまハッチが閉じられた。
撒いた……のか?
「これでわかったでしょ、眠れる森は健在。
しかも、とんでもない奴らってことが」
俺に問いかけるサラマディエ。
実際彼女の言う通りだ。
救済を受けないものは始末するなんて、まともなやり口じゃない。
「あれが、世界の救済を騙る連中……か……」
「騙ってるかどうかは、私達が決める事じゃないよ。
勝った方が、真実になる」
そうだよな……俺達はマフルに喧嘩を売ったんだ。
勝たなくちゃならないんだ。
……俺のヒーローごっこが、いつの間にか本物の戦いになっちまった。
「そっか……勝たなくちゃ――」
「旦那様!!!!」
その時、不意にイブキが俺の身体を突き飛ばした。
――イブキ、何を!?
それとほぼ同時に、一本の光の矢が、フローラのハッチを突き破って、車内に侵入してきた。
そいつは、イブキの頭を貫いて――。
ぶちまけられる赤い液体。
倒れるイブキの身体。
フローラのど真ん中に、真っ赤な水溜りが……それはみるみるうちに面積を広げ、俺の足元にまで届いた。
「…………イブキ………………?」
呼び掛けても動かない、イブキの身体。
赤い水溜りの中に倒れて……彼女は、今、頭を……貫かれた……?
どうして……何が起きて……。
「イブキ…………!?」
俺の身体を突き破って、声にならない声が漏れだした。
エピローグを更新予定です!




