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14-4

「わかったわかった。

 話すだけ話したら、投降するよ。

 それじゃダメ?」


 半ば諦め気味に、サラマディエは言う。

 その言葉には、ため息が混じっていた。

 だが、ライム「ダメ」と短く告げるのみ。


「そう。

 それじゃあソウタ、ライライたちを黙らせて」


「……黙らせればいいんだな?」


 こいつらを静かにさせれば、眠れる森の化けの皮が剥がれる?

 よくわからないが、ここはサラマディエに従うしかなさそうだ。


「んじゃあ、メイルの始動、頼んでいいか?」


「え、自分で出来るようになったんじゃないの!?」


「ライム達相手に殺意は向けられないからな」


 またもため息を吐きつつ、俺に掌を向けるサラマディエ。

 すると――。


「あっち!?!?!??!!?」


 猛烈な温度の熱風が、俺の体を襲った。

 フローラの車内が、一瞬にして灼熱地獄と化す。

 だがそこは軍用車両、見る見るうちに車内温度が下げられていく。

 そして――。


<Starting>


 メイルの始動も済んだ。

 後は暴れるだけだ。


 開かれた後部ハッチから、俺は車外に飛び出す。

 同時に、四方八方から俺を狙う視線をビンビン感じた。


 俺はフローラの上に立つライムを見上げ、構えを取る。


「なあライム、本当に話を聞いてくれないのか?」


「……ええ。

 武力を行使してまで聞かせたい話なんてね」


「よく言い切れるもんだ。

 だったら――疾装!!!」


<Gale Drive>


 俺は風の鎧を纏うと同時に、フローラの上へと飛び乗る。

 案の定、それに反応したノインが俺へと発砲するが、弾丸は俺には届かない。

 メイルを纏ったマナが、すべて切り落としたからだ。


「な!?

 もう一つのメイル!?」


 目を丸くするライム。

 だが――。


「よそ見してる場合か!!」


 相手は魔女、さっきノインと戦った時のようなへまはしない。

 こっちも殺す気で行っていいなら、こんなに戦いやすいことはないからな。


 俺はライムへと一足飛びで接近、右から水平に剣を薙ぐ。

 対してライムは、俺の一撃をスラッシュウィングで受け止めた。


 二つの剣がぶつかると同時に、甲高い金属音が響く。

 だが、それが俺の耳に届くころには、俺……いや、俺たちは次の行動に映っていた。


 体重が軽いライムは、俺の一撃による衝撃を受け止めきれない。

 奴が体重を崩した一瞬を狙って、俺は左下から掬い上げるように剣を振る。

 ライムは今、後方に体重を持っていかれているところだ。

 普通ならここからの反撃はできない。


 だが、普通じゃないのがライム。

 奴は俺の一撃を躱しつつ、体に稲妻を纏いながら、高速でしゃがみ込む。

 そしてフローラに手を突くと、腕力に物を言わせ、俺の顔面を蹴り上げてきた。

 まるでブレイクダンスでも見ているかのようだ。


「ぐぁ!?」


 不意の一撃、対応することはできなかった。俺は顔面に一撃をもらい、体重を崩す。

 俺が右足を後方に出して踏ん張った時には、すでにライムは攻勢に移っていた。


「はぁあああああああああ!!!!」


 スラッシュウィングを手に、右から大きく振りかぶるライム。

 俺は宙に浮いていた視線をライムに戻し、その一撃を剣で受け止めた。


 それから三度、金属同士の衝突音が響く。

 メイルとまともにやりあえるとは、流石は魔女といったところか。


 四度目の金属音が鳴るとともに、俺とライムは互いの剣を押し付けあった。

 互いの全力を掛けた鍔迫り合い……この瞬間を待っていた!!


 俺は剣に力を込め、ライムの剣を突き飛ばす。

 瞬時に、奴の腹を蹴り飛ばした。


「もらった!!!」


 この瞬間のために、俺は風を圧縮させ、いつでも風刃を作り出せるようにスタンバっていた。

 後はライムを切りつけるのみ!!!


 限界まで圧縮された風の魔力が、空気を切り裂きつつライムをへと向かう。

 奴は今、完全に両足を浮かせている。

 この一撃、入ったか!?


「もらったのは、どっちかしら!!!」


 しかしライムはその体勢から、つま先だけでフローラの車体を踏みしめ、まるで稲妻と見紛うほどのスピードで俺へと切り込んできた。

 あの体勢からどうやって!?

 でも残念ながら、それも織り込み済みだ。


 俺は向かってくるライムの懐に入り込み、一本背負い。

 ライムを地面へと叩きつけた。


「……嘘……!?」


「嘘じゃねぇ」


 俺とライムの間に、静寂が訪れる。

 これでサラマディエのオーダー以上の働きはしたはずだ。


「サラマディエ、ライムを黙らせたぞ」


『結構結構、信じてたよ。

 信頼度40%』


 フローラのスピーカーから響くサラマディエの声。

 同時に俺は、俺を狙う防衛隊員たちの視線がより鋭利なものになったのを感じ取った。


『さあプロフェッサー、どうするの?

 さっさと本性を現さないと、私達が終わらせちゃうよ……すべてを』


「言い方悪いぞ」


 そんなんじゃ、まるで俺達が悪役みたいだろ。

 まあ実際のところ、街から見れば悪役か。


 ライムに反撃の隙を与えないよう注意しつつ、俺は周囲の様子を伺った。

 その時、俺達を取り囲んでいた戦車が一両、ゆらゆらとバランスを崩したのを、俺は見逃さなかった。

 いや、一両だけじゃない。

 すべての車両が力なく地面に吸い寄せられている。

 これは……コントロールが失われている!?


 次いで、俺を狙っていた警備隊員たちが、地面に倒れ伏す。

 それも一人や二人じゃない……全員だ。


「な、なんだ!?

 どうなってやがる!?」


「な、なにが……!?」


 驚いているのはライムも同じ……ってことは、罠ではないということか。


 その時、グーンのスピーカーから鳴り響いたのは、聞き慣れた声……プロフェッサーのものだった。


『やはり、こうなってしまいましたか。

 なんと腹立たしいことか、あなたの思い通りになってしまったことが……魔女サラマディエ』


 次々と倒れていく防衛隊員達。

 プロフェッサー、何をしやがったんだ……!?


 不意に、通りの向こうから、何者かが歩み寄ってきた。

 プロフェッサーと同じ白衣、眉あたりで切り揃えられた藍色の前髪。

 人間離れしたその美貌は、俺に一抹の不安を過らせた。

 まさか……あいつは……。


「……メイ……?」


 その答え合わせと言わんばかりに、ライムがポツリと呟く。


「知ってんのか……!?」


「彼女は、魔女メイサ。

 この世界で、二番目に生み出された魔女よ」

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