14-2
俺はグーンから出て、ライムに連絡を取った。
要件はたった一つ「できうる限りの戦力を集めて、古巣に来い」。
うっかり携帯電話を持ってきてしまったが……まあ奴らもこれで、俺が古巣にいることの確証も取れただろう。
なら、ライム達も多少は動きやすいはずだ。
……ライム達を敵に取ったってのに、あいつらの心配をするなんて、変な話だけど。
俺は開かれたグーンの車内に向けて、一つ声を投げかけた。
「連絡とったぞ、言われた通り」
この黒いグーンの車内は、ノイン達の物とそう変わらない。
壁に沿うように、膝ほどの高さのベンチが並んでいる。
イブキとマナは、入って右側でなにやら女子トークを繰り広げている。
正面では、サラマディエがフロイアの肩を叩いていた。
人知を超える力を持った魔女が三人も……。
これからとんでもないことが起こるという予感が、俺の胸を揺さぶる。
今俺は、取り返しがつかないことに加担してるんじゃないか、ってさ。
「ご苦労様。
ご褒美に方でも揉んであげようか?」
そんな俺の胸中など知らない様子で、サラマディエは俺へと問うてきた。
確かに、心配からか肩がガッチガチなのは事実だが……呑気に肩もみなんてしてる場合じゃないだろ。
ライム達に喧嘩を売った以上、奴らは今出せる戦力をすべて集めて、俺たちを襲ってくるに違いないからだ。
「そんなことしてる場合じゃないだろ。
作戦練るとか、作戦練るとかさ!」
「そんなことするだけ無駄無駄!」
すると、サラマディエは俺の手を取って、無理やりグーンの奥へと引っ張っていく。
「お、おい!」
そして俺は、背を横にして、ベンチへと座らせられる。
その後ろにサラマディエが座り、俺の肩をもみ始める。
「ほ~ら、リラックス!」
た、確かに……肩もみは気持ちいい……。
「だから……こんなことしてる場合じゃ……」
その時、俺の視界を遮ったのは、フロイアの車椅子。
低いこのベンチに腰を掛けている状態だと、彼女を見上げる形になる。
「それじゃあ、あたしの話し相手をしてもらおうか」
魔女フロイア……七人の中で、唯一老化した魔女……。
彼女がその体に刻んだ年輪は、それ相応の凄みを纏っている。
「は、はい!?」
その凄みに、俺は思わず立ち上がってしまった。
「ちょっと、突然立ち上がんないでよ!」
後ろでサラマディエが何か言っているが、そんなことはどうでもいい。
この人は、イブキの師匠……そして育ての親でもあるんだ。
近寄りがたかったから話しかけずにいたが……。
これあれか?
お弟子さんを俺に下さい、って言わなきゃいけないところか!?
だがフロイアの言葉は、その口調のわりに、穏やかなものだった。
「そんなにかしこまらんでもいいさ。
あんたらにとっちゃ、あたしはただのババアだからね」
「ほら、だから座って!!」
サラマディエは、俺を強引に座らせると、肩もみを続行する。
だが俺の全身は、ガッチガチに固まってしまっていた。
「で、でも、イブキ……さんとはお付き合いをさせて――」
「別に、あの子が誰を選んだからって、あたしにゃ関係ないね」
い、意外にドライなのか……この人……。
「は、はぁ……」
その後の、数秒の沈黙……。
この人、俺と何を話しに来たんだ……?
「そ、それで……俺と話したいことって?」
「ないよ」
「えぇ……」
フロイアは、全く歯に衣着せずに吐き捨てた。
「気にしなくていいよ。
フロイアったら昔っからこうだから」
……いや、この凄みに睨まれて気にするなってのは無理だろ……。
そうこうして、俺たちの穏やかな時間は過ぎ去っていった。




