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「んで、たどり着いたのがここ……と」
運命の逃避行の後、俺たちが到着したのは、マフルの最南端「カオシズ地区」のボロアパート。
そう、俺たちの古巣だ。
ガレージに黒いグーンをケツから突っ込んで、身を隠している。
といっても、グーンの頭は丸出しなので、一般人に通報でもされたら即アウトだ。
「まあ長居するつもりはないけどね」
グーンの車内でフロイアの肩を叩きながら、サラマディエは言う。
長居するつもりがなくても、こんな人の多いところを選ばなくても……。
「だからってなんでここなんだよ!
住宅街だぞ!?」
「人が多いところなら、奴らも手が出せない。
どうせこの街にいる以上、眠れる森の監視網からは逃れられないんだから」
そりゃそうかもしれないけど……目立つ場所にいれば見つかるのも早くなるはずだ。
そうしたら、また戦闘になる。
人間を相手にしなくちゃ……。
「それはそれとして、ソウタ!」
サラマディエはフロイアの肩から手を離すと、その人差し指を俺へと向ける。
そして、大きく開かれた、二重の可愛らしい目で俺を睨みつけた。
……まったく怖くない。
「……なんだよ」
「デザイア・チューナーを使っておきながら、何たった一手で伸されそうになってんの!?」
サラマディエは、ずいずいと俺に詰め寄ると、俺の鼻の先をスイッチのようにつつき始めた。
な……こいつ!?
「ちょっと先行き心配なんだけど!?」
「相手がノインだからだ!!
殺すわけには――ふが!?」
こいつ、弁解の余地も与えない気かよ!!
「いい!?
あそこで逃げられたのはマナのおかげ!!
そうじゃなきゃ捕まってたかもしれないんだよ!?
危険度90%!!」
「い、いいだろ!?
結果的に、奴らを撒くことはできたんだしさ!」
サラマディエは、ひとしきり俺の鼻をつついてから、大きなため息を吐く。
「……いいや。
きっともう、眠れる森は私たちを捉えてるね。
でも、マフル警備隊はまだ」
「……どういう意味だ?」
「眠れる森はマフルの皮をかぶっている以上、戦力を好きに動かせないの。
ライライなんかは、マフルの総戦力を知り尽くしてるからね。
変に戦力を動かせば、ライライに怪しまれる」
……そうか、ライムは眠れる森がこの街に根差していることを知らない。
「ってことは、お前らが言ってることが本当か、確かめようがないってことか?」
「いいや。
うれしいことに、マフルとしての戦力は、ライライとディア・メイルくらい。
その二人を味方につければ、化けの皮は剥がれる……」
「なるほど。
それが一番難しいと思うけどな」
簡単にそれができるのなら、先ほどの戦闘の際にスカウトできているだろう。
だって、俺だって未だにサラマディエの言うことを信じていないんだ。
この街の育ての親と言っても過言じゃないライムなら、尚更だろう。
「大丈夫大丈夫!
もう奴らは、私の術中に嵌ってるから!」
……まったく大丈夫じゃなさそうだ……。
「そこで、仮面の騎士様にお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「そ。
ライライを、ここに呼び出して欲しいんだよね」
……は?
わざわざ自分の隠れ場所を伝える馬鹿がいるか!?
しかし俺は、彼女の声に従わざるを得なかった。
まだ彼女を疑ってはいる。
だが、言うとおりにしておくことが「確かめる」ための近道でもあるから。




