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13-1

今回は主人公視点となります

 マフルの街へと戻った俺とイブキは、真っ先に病院での精密検査を受けさせられた。

 デザイア・チューナーを使用したが、イブキが傷つかないよう速度を落としていたため、今回俺に怪我はなかった。


 それから、プロフェッサーによる問診……もとい尋問。

 サラマディエから何をされたか、何を言われたかを問われた。


 その問いに対し俺は「拘束されていた所為でよくわからない」を突き通した。

 サラマディエの下にいた際、口裏を合わせておいたので、イブキと食い違いがあることはないだろう……たぶん。

 この男……プロフェッサーは敵かもしれないんだ。

 それを判断するのは、今すぐでなくてもいい。


 しかし……本当にどうするか……。

 サラマディエは迎えに来ると言っていた。

 もし彼女について行くなら、それまでにバーズシングのドライバーを奪わなくてはならない。

 そうでないなら、このまま日常に興じるだけだ。


 だが、サラマディエの言う事が本当だったとして、何か問題があるのだろうか?

 人類全員が魔人になるというのは、一見悪いことに見えるが、案外そうではないのではないか?

 全員が物を食べなくてもよくなれば、確かに奪い合いは無くなる……かもしれない。

 それは人類にとっては正当な進化ではないのか?


 精密検査と尋問が終了した俺は、病院の地下一階の病室で唸っていた。

 サラマディエの言葉を信じるか、信じたとしてついて行くのか……。


 イブキは俺に従ってくれると言っていた。

 それならば、俺が責任を持って決めなければならない。


 不意に、俺の部屋のベルが鳴る。

 よくわからない精密機器が並べられた真っ白な部屋、その入り口の自動ドアの横から、プロフェッサーの声が聞こえた。


『キサラギ殿、よろしいですかな?

 イブキ女史がお目覚めになりました』


「イブキがか!?」


 イブキが目覚めた!?

 俺には彼女がどうして気を失っていたのかすらわからない。

 もしかしたら、もう目を覚まさないのかもしれないとすら思っていた。

 不安の一片が取り払われた俺は、ベッドから飛び起きた。


 イブキが運ばれたのは、俺の隣の病室。

 プロフェッサーはその入り口まで案内してくれたが、どうやら病室にまで入る気は無いようだ。

 彼なりの気遣いだろうか。


 そんなことはともかく、イブキに問題はないのだろうか。

 それが何よりも心配で、俺は病室に飛び込んだ。


「イブキ!!」


 イブキは、彩の無い真っ白な病室で、上体を起こして待っていてくれた。


「旦那様!!

 お怪我はありませんでしたか?」


「それはこっちのセリフだ!

 お前こそ大丈夫なのかよ!!」


 イブキのベッドに駆け寄りつつ、彼女の様子を窺う。

 ……どうやら、大きな異変は無いようだが。


 俺は真っ先にイブキに駆け寄り、彼女の小さな手を握った。


「私は全然大丈夫です!」


 そう言って微笑むイブキ。

 サラマディエに何かされていたようだが、それを心配している様子は微塵もない。

 ……やせ我慢かもしれないが。

 イブキが元気でいる姿を見ると、俺の頬を一筋の涙が伝った。


「そっか……」


 でも、この前サラマディエに何かされていたとき、イブキは「自分の意思でそうしている」と言っていたようだ。

 あの時イブキはいったい、何をされて……。


「なあ、お前は何をされたんだ?」


「……私にもわかりません……」


「でも、あの時お前は――!!」


 その時、不意にイブキが俺へと抱きついてきた。

 彼女の暖かく小さな頬が、俺の頬へ密着した。


「――監視されています」


 だが、その熱い抱擁から囁かれたのは、冷たい一言。


 俺達が、監視されている?

 やはり、魔力研究室は眠れる森……?

 いや、まだ決めつけるのは早い。


 俺達は敵にさらわれたんだ。

 あることないこと吹き込まれていないか、確認する必要がある。


 しかし、もし俺がサラマディエの言う事に従うなら、あそこで聞いたことを魔力研究室に知られるわけにはいかない。

 俺はイブキの抱擁に合わせ、一芝居こいてやることにした。


「ど、どうしたんだよイブキ」


「ごめんなさい……旦那様のお顔を見ていたら、我慢できなくなって……」


「……いや、いいんだ。

 もう少し、こうしていたいくらい」


 こんな形だけど、イブキと正面から抱き合うのは二回目か。

 彼女の小さな体が、俺の腕の中にすっぽりと収まってしまう。

 これだけ小さな体で、彼女はどれだけ大きな決断をしたんだろうか?

 俺はイブキの背をさすりながら、一人感傷に浸っていた。


「イブキちゃん!!」


 その叫び声と同時に、自動ドアが開け放たれる。

 ほぼ同時に、ものすごい形相のライムが、俺達に飛び込んできた。


「イブキちゃん……よかった……。

 ケガとかしてない?

 何かひどいこととかされなかった?」


 二人まとめてライムに抱きしめられる俺達。

 ……こいつ、力強い……!

 身動き取れねぇんだけど!!

 その一方で、ライムの柔らかさに安心してしまう俺がいた。


「あら?」


 どうやらライムは、今の俺達の姿勢をようやく理解したようだ。

 二人抱き合っている俺達を見て、小首をかしげる。


「……もしかして、邪魔しちゃったかしら?」


「ああ、かなり」


「いえ、あんまり」


 ライムは、涙が滲んだ瞳で、もう一度俺達を抱きしめた。


「もう!

 どっちなのよ!!」


 きっと、どっちもなんだ。

 俺はイブキと二人きりでいたい。

 でも、ライムと三人でいるのも楽しい。

 だから、どっちも。


「私達は、三人でいた方が私達らしいですから!」


 すごく暖かい時間だ……。

 俺が、この街に来て……一度死んでまで手にした日常。

 ――でも、これが偽物かもしれないなんて。


「そうだな……俺達らしいな」


 でも、ライムは俺達に嘘をついてるわけじゃない。

 仮に俺がサラマディエに従ったとして、この時間が嘘になるわけじゃない。

 でも……ライムは敵に回るかもしれない……。


 その時だった――。


 ドォン!!


 と言う衝撃が、病室を揺らしたのは。


 地震……じゃない……。

 まるで、隕石でも落下したかのような……。


「な、何!?」


 せっかく日常を嗜んでいたってのに、何事だよ!?

 対策課が出遅れるなんて、珍しいこともあるもんだ。

 ってことは、ただ事じゃないってことか。


「ソルジス、聞こえる?

 今すごい地響きが聞こえたのだけれど……」


 ライムはすぐさまおっさんへと通信する。

 この素早さ……伊達に三百年生きていない。


『それが、未確認飛行物体が街の外から、障壁を突き破ってきたみたいだ。

 俺も今聞いた。

 何せ街の外は俺達の管轄外だからな。

 そいつが、お前等のいる病院のすぐ目の前に墜落したみたいだ』


「未確認飛行物体?」


 俺達の病院の、すぐ目の前……?

 俺は不意に、サラマディエの言葉を思い出した。

「迎えに来る」と言う言葉を……。


「二人はここにいて。

 私は外を見てくる」


 ライムはそう言い残すと、病室から駆け出して行った。

 俺の胸中など、全く察することの出来ていない様子で。


「……旦那様……!」


 二人取り残された病室で、イブキが俺に問いかけてくる。

 きっと、彼女も気付いたのだろう。


 選択の時は、もうすぐそこまで迫っているということに。

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