11-4
この少女が……魔女サラマディエ……!?
だったら、何故俺達と敵対する!?
「天下の魔女様が、若作りしてタダ飯食らうとはな……。
親の顔が見てみたいもんだ」
「ごめんごめん、奢ってもらった分は後で返すからさ。
今回は、お兄ちゃんたちがどんな人間か、確かめたかっただけ」
「じゃあまさか、会いに来た『お兄ちゃん』も……」
「そう!
キミだよキミ!!」
こいつの目的は、俺自身ってことか……。
確かこの前、魔女マナに俺を狙う敵がいると聞いたな。
ってことは、こいつも……。
『ボウズ、逃げろ!!
今ノイン達を寄越した!!』
腕時計から響くおっさんの声。
ノインが来てくれるなら心強いことこの上ないが、イブキが人質に取られた以上、逃げると言う選択肢はあり得ない。
「イブキが人質に取られてんだ、逃げられるかよ!!」
おっさんの舌打ちが、腕時計から聞こえてくる。
それを打ち消すように、ライムの声が響く。
『……それでもよ、今は逃げて!!
今のソウタには太刀打ち――』
「出来る。
力ならある!!」
相手はいくら魔女とは言っても、何の武器も持っていない。
電磁波で周囲の様子を探ってみても、武器を隠し持っている様子すらない。
負ける要素はどこにもない。
『ソウタ……まさか、あの端末を使ったの!?
あれほど使わないでって――!!』
こんな状況で、ライムは呑気なことを言いだす。
確かに、ブラッディ・コンバータは謎が多い。
だが、膨大な力を授けてくれることは確かだ。
こいつを使わなきゃ、メイルの装着すらできなかったこの状況で、使わない理由はない。
「まあライライ、使いこなせてるみたいだからいいじゃん?
なかなかレアだよ『デザイア・チューナー』を乗りこなせる人間は。
それも、完全にモノにしてる」
デザイア・チューナー……?
ブラッディ・コンバータの正式名称か?
ってことは、サラマディエはこれのことを知っている?
「お前、こいつについて知ってるのか?」
「少なくとも、キミよりは」
そうか、なら――
「だったら、洗いざらい吐いてもらおうか!!」
俺は左腕の魔断剣を抜刀し、中腰に構えた。
『ボウズ、使っちまったんなら仕方ない。
何とかして時間を稼げ、いいな?』
時間を稼ぐ?
相手がいくら魔女であろうと、丸腰であることに変わりはない。
「へっ!
丸腰の相手に負けるかよ!!」
相手が武装していないなら、この鎧の機動力で撹乱させることくらい造作もない。
むしろ問題は、俺が早く動きすぎると、その衝撃波がイブキを襲う可能性があるということだ。
サラマディエがイブキを抱えている限り、最大速度での接近は出来ない。
こっちはイブキさえ取り返せれば逃げられるんだ。
何とかして隙さえ作ることが出来れば……。
そう思った瞬間、サラマディエは、イブキをやさしく床に寝かせた。
「……丸腰?
流石に、仮面の騎士様相手に、そんな無礼はしないよ」
……自分のアドバンテージをわざわざ捨てた?
こいつ、何を考えていやがる。
すると、サラマディエは纏っていたパーカーを脱ぎ捨てた。
パーカーの下から現れたのは、赤色のTシャツ。
そして、左の二の腕に巻かれた……腕輪?
正面から見たカラスの嘴を思わせるデティール、その嘴の中心に用意されているスロットには、藍色の長方形のチップがはめられている。
間違いない、あのチップはエレメント・コンバータだ……ってことは……!!??
「……フィセント・メイル!?」
「ご名答!!」
<Starting>
聞き慣れた冷たい電子音。
だが、それを鳴らしたのは、サラマディエの持つメイルドライバー。
こいつも、マナと同じ……魔女でありながらメイルを纏えるのか!?
聞き慣れたその音は、俺に後悔の波を立たせた。
罠を警戒した挙句、イブキを救出する最大のチャンスを逃した……!
『サラ……誰にメイルを使わせるつもり!?』
ライム達には、俺達の状況は見えていない。
つまり、ナルのような駒を引き連れていると勘違いしているのだろう。
俺はそんなライムに、見たままの状況を伝えた。
「サラマディエ自身だ」
声を失っている様子のライム。
当たり前だ、ライムが異世界からわざわざ俺を呼んでまで使っていたメイル。
それを、魔女であるサラマディエが、当たり前のように纏おうとしているんだから。
「そうだね~。
キミに合わせるのなら――」
サラマディエは口角を上げ、ゆっくりと呟いた。
「――掟装」
<Physical Drive>
電子音と共に、サラマディエから放たれる暴風。
いや、違う……こいつは風なんて生易しい物じゃない。
この感覚には覚えがある、この間対峙した蜘蛛魔人が使ってきたバズーカだ。
まるで、身体全身で運動エネルギーを感じ取っているような感覚……。
Physical……運動エネルギーを司るエレメントコンバータってことか!?
俺のメイルと同じく、サラマディエのメイルも一瞬で形作られる。
藍色の光が彼女の全身を包んでいく。
そのフィセント・メイルは、四角い板を張り合わせ、人の形にしたような鎧。
そして最後に、サラマディエの顔が、一つ目の付いた仮面に覆われた。
俺の鎧が勇者の西洋鎧なら、奴のメイルは重装甲のロボットか……。
何より目を引くのが、左腕そのものが武器になっているということ。
巨大な杭を携えた武器に……。
だが、小柄なサラマディエの身体には、とても似合っていなかった。
「丈、直してもらった方がいいんじゃないか?」
「それもそうだけど、今日はこれだけあれば十分だから!!」
その小柄な四角い人型が、気付けば俺の目の前に迫っていた。
――こいつ、いつの間に!?
そうか、奴は運動エネルギーを操ることが出来る。
音もなく俺に近付くことも容易いということか!?
だが、今奴はイブキから離れた!
なら、イブキをかっさらって逃げるまでだ!
「人質を捨てるとはな!!」
俺は羽を展開し、奴の身体から離れる。
そして離れ際に、魔断剣による一撃を見舞った。
だが――!?
剣が奴の鎧に触れるや否や、強烈な反発力が音もなく俺の手首を襲う。
気付いた瞬間には、魔断剣は俺の手首から弾き飛ばされていた。
「んな――!?」
「遅いよ」
思考が凍りついた俺の脳を、サラマディエの声が揺さ振る。
っち、少しくらい時間をくれたっていいじゃねえかよ!!
サラマディエが突き出したのは、巨大な杭。
それは、彼女の肘が伸びきるのと同時に射出される。
凄まじい程の運動エネルギーを内包し、俺を射抜かんとする杭。
何とか身をよじり、回避に専念するが――。
鎧の一部が杭に触れた瞬間、強烈な衝撃が俺を襲った。
あらぬことか、俺はサラマディエとすれ違うかのように吹き飛ばされた。
運動エネルギーを司る……どの方向へも好きにぶっ飛ばせるってことかよ!
そして俺は、地面に寝ているイブキの上を通り抜け、搭屋看板へとぶっ飛ばされる。
羽を広げ、何とか体勢を整えるが、勢いまでは殺しきれない――!!
俺の努力虚しく、俺の背中は搭屋看板に叩き付けられてしまった。
だけど、今なら奴はイブキから離れているんだ、このままイブキを救出して――!
ガスンっと、俺の腹部から音がする。
猛烈な脱力感に襲われた俺は、自らの腹に視線を落とした。
そこにあったのは、直径二十センチはある太い杭。
サラマディエの鎧から伸びる杭だ。
まさか、あの一瞬で俺へと距離を詰めたってのか……!
痛みは感じない。
嘔吐感……でもない……。
でも確かに、その杭は俺の身体を貫いて――。
それを自覚した瞬間、俺の意識が暗闇の中へと消えて行った。
俺が……俺が、イブキを助けないといけないのに――。
次回予告
サラマディエに敗北したソウタ。
彼は、謎の研究室で目を覚まします。
そこでサラマディエの口から明かされる、様々な真実。
マフルの、世界の、そして……ソウタ自身の。
真実を知った時、ソウタは選択を迫られるのでした。
この世界に深く根差す悪を、根絶するか……それとも、見て見ぬふりをするのかを。
次回「三百年の空白と目覚めの時」
お楽しみに!




