10-epilogue
無事に魔人の群体を捕獲することの出来た俺達。
しかし、俺の身体は無事とは言えなかった。
「……ノイン……どうしたんだよ、その足……!?」
背上げされたベッドに寝そべったキサラギは、見舞いに来た俺に対して、開口一番に問う。
当たり前だ、相手がキサラギでなくともそうなるだろう。
今の俺の両足は、ギブスの上から包帯で巻かれ、まるで巨大なマシュマロにも見える白い塊と化していた。
その足で歩くために、両手は松葉杖でふさがっている。
先の魔人との戦闘で、四階から落ちると言う無理をした結果だ。
「それが、昨日道端でバナナを踏んでしまってな……」
「ばな、バナナ!?」
もちろん真っ赤な嘘だ。
キサラギは訝しげにこちらを睨み付けるが、その後小さくため息を吐いた。
どうやら信じてくれたようだ。
そんなキサラギの腹を枕にして、奥様が幸せそうに眠っている。
どうやら、来るタイミングが悪かったようだ。
「どうやら邪魔してしまったようだな。
また出直すことにする」
流石に、キサラギと奥様の幸せなひと時を邪魔するわけにはいかないだろう。
「悪いな、そうしてくれ。
その怪我じゃ、どうせここに入院してるんだろ?」
「当たり前だ。
こんな身体じゃ仕事にならん」
俺が病室から去ろうとした、その時だった。
魔女様が、俺の肩に手を当ててきたのは。
「それじゃあ、少しだけいいかしら?」
「ええ、何でしょう?」
不意のお誘いだが、丁度良かった。
先日の魔人に止めを刺していただいた件の礼を、まだしっかり述べていなかったからだ。
俺は魔女様に連れられて、病院の休憩室へと足を運んだ。
一階の売店付近に用意されている物だ。
売店で購入した飲食物を持ち込めるため、患者やその関係者達で賑っている。
休憩室には長テーブルが五列ほど並べられており、一つの列につき二十人ほどが座れるようになっている。
魔女様は隅の方の椅子を引き出すと、それを俺の方へと向けてくださった。
俺はその好意に甘え、椅子に腰を掛けた。
「ノイン君、見た?
イブキちゃんの、幸せそうな寝顔」
俺の隣の椅子に座りながら、魔女様は仰る。
先程の奥様と同じ、幸せそうなお顔で……。
「ええ。
……年相応の、可愛らしい表情でした。
きっと、キサラギの意識が戻って、安心したのでしょう」
「そうね……きっと昨日、ソウタが出撃していたら、イブキちゃんは心配でまた寝不足になっていたかもね。
肝心のソウタは、どうやら昨日魔人が現れたということに気付いているみたいだけど」
……そんなバカな……。
キサラギは、先程俺の嘘を完全に信じ込んでいた。
気付かれる要素などある筈がない。
それに、キサラギが魔人の出現を知ったのならば、魔人撃退になぜ自分を呼ばなかったのかと喚く筈だ。
「それなのに何も言わなかったのは、きっとあなたを信じているから。
あなたがいるなら、少しくらいヒーローをお休みしてもいいかなって、思っているからよ」
「俺を……信じている……?」
キサラギが、俺を……?
「私から、もう一度言わせて。
ありがとう。
あの子たちの笑顔は、あなたが守ったものよ」
俺が礼を言うつもりだったのに、魔女様に先を越されてしまった。
だが今は、そんなことに気が回らない程、胸の中が暖かい何かに満たされている。
それは俺の眼頭まで上がってくると、涙と言う形で体の外に現れた。
誰かの役に立ちたい、その思いから始めた魔人対策課での仕事が、ようやく報われた……そんな気がしたから。
キサラギの言う通り、彼の為に戦ったことが、彼だけでなく、奥様の為にもなった。
それだけではない、きっと魔女様の笑顔も守ることが出来た。
この街を護ると言う使命を背負いながら、キサラギも守ることが出来たのだ。
それが、何よりもうれしかった。
だから俺は、これからも戦う。
キサラギの為に、そして、この街の為に。
次回、新章突入!!
退院祝いに、イブキとデートをすることになったソウタ。
そんな彼らが出会ったのは、迷子の少女。
結局、少女を送り届けることになってしまったソウタ達を待っていた結末とは……?
そしてついに、魔女サラマディエがソウタ達の前に姿を現します。
次回「迷える少女と導きの魔女」
お楽しみに!!




