9-epilogue
今回は魔女サラマディエ視点となります。
彼女は、グレイスの覚醒をどう見ているのか……!?
真っ白な壁に囲まれた研究室の傍ら、私・サラマディエは知恵の輪で暇をつぶしていた。
だって暇度50%なんだもん、しょうがないじゃん。
その時不意に、モニターからコールが掛かった。
せっかく集中してるときだっていうのに……。
モニターに映っていた名前は、キリマ・ミル。
ここ、眠れる森の最高責任者だ。
まあ今の眠れる森で、責任者って呼び方もおかしいと思うけど、細かいことは気にしない。
私は仕方なく、そのコールに応じた。
今回もサウンドオンリー。
プロフェッサーとのやり取りは、基本的に顔を見せない。
「めずらしいね~プロフェッサ~?
何か嫌なことでもあった?」
『いいことがあったように聞こえますかな?』
「質問に質問で返さない。
ウザ度80%」
私の手元の知恵の輪は、絡まったまま。
外れる気配はない。
『では単刀直入に。
赫い稲妻を纏う、黒いグレイス……ご存知ですかな?』
「ご存じもご存じ、さっき報告で聞いたよ。
ご存知度10%」
『彼は三十年前に計画凍結された、『デザイア・チューナー』を所持しておりました。
これは、あなたもご存じの通り、この研究室で試作された、たった二つの内の一つです。
この組織から流出したものであると――』
「それで、私を疑ったって訳?
悪いけど私、私自身に利がないことには手を出さないの。
グレイスに手を貸して、何の得があるの?」
『あなた以外に考えられないのですよ。
独自の指示系統で動き、なおかつ現在の計画に不満を募らしている者と言えば』
「不満なんてないよ。
いつもそう言ってるじゃん」
人と人のやり取りは、いつもこう。
それぞれが意志のままに動き回り、まるで知恵の輪のように絡みつく。
そして、その輪を解くほどの知恵など、人は持ち合わせていない。
『いいえ、ある筈です。
急進派のあなたなら……』
「お説教ならまた今度にしてくれる?
それと、その呼び方はやめて。
不満があるとすれば……」
私は、プロフェッサーとの通信を遮断した。
モニターに表示されていたウィンドウが消え、私の部屋が、また静かになる。
「あんたのやり方だよ……って、結局不満マシマシじゃん!!」
私の天然ボケに、反応してくれる人は、今ここにはいない。
私は静かに溜息を吐いて、知恵の輪を弄りはじめた。
魔術の基礎理論「キサラギ理論」によると、魔力は人の願いを媒介に、魂とカロリーをエネルギーへと変換する技術。
その二つの魔力の発生源の「願い」を調律すれば、魔力を増幅させることが可能らしい。
実際にこの街でも、それを用いた魔力増幅器は少なくない。
イブキが使っている刀も、その一種だ。
おそらくは、フロイアの作ったものだろうけど。
でももし、二つの魔力発生源の「願い」が完全に同期すれば、人知を超えた膨大な魔力の精製が可能になるかもしれない。
とはいえ、人と人あるいは、人とパーパシャル・ジェネレーターの「願い」を完全に同期させるなんて、基本的には不可能。
だから調律するには、人の意識を強制的に操らなければならない。
それを可能にするのが、デザイア・チューナー。
強制的に人の感情を操る、云わば電子ドラッグの機能を兼ね備えた装置。
そう簡単に乗りこなせるものじゃない。
しかも今回グレイスが覚醒したことによって、ソウタ・キサラギは、グレイスの中に眠る「彼女」の存在に気が付いただろう。
彼が彼女に出会うことで、何が起こるのか……。
それ次第で、人類の明日がどう転ぶのかが決まったと言っても、過言ではない。
残念ながらプロフェッサーは、まだその事実に気付いてないようだけど。
「……それにしても……たった二回目の装着で使いこなすとはねぇ。
気に入ったよ、ソウタ・キサラギ。
そろそろ、私も会いたくなっちゃった」
私の持つ知恵の輪は、深く絡みついたままだった。
――次回予告
新たな力に目覚めたソウタ。
しかし魔人対策課は、その力はソウタ自身にとって、非常に危険なものと判断しました。
そんな時に現れた、厄介な魔人。
ソウタの力を借りれば倒せますが、またあの力を使ってしまっては、ソウタの身体が危ない。
その時、魔人対策課は市民の安全を取るのか、それとも友人の安全を取るのか、決断を迫られます。
次回「使命と友情」
お楽しみに!!




