8-5
「――なさ――!!
だん――さ――!!」
真っ暗な闇の中で、愛おしい声が響いた。
……あれ……?
いつの間にか、寝て……?
「旦那様!!」
この声は、間違いない、イブキのものだ。
煩いほどに響く声は、恐らく俺の目の前から放たれているのだろう。
確かめようにも、瞼が……鉛のように重い……。
瞼の間から見える細い視界の中心で、イブキが目に涙を浮かべていた。
「ぃ……ぃ……ぅ……ぃ……?」
口も、目も、身体全身が俺の言う事を聞かない。
何とか必死に瞼を開ききった時、イブキの可愛らしい顔が、俺の目に飛び込んできた。
「ぃ……ぶ……い?」
必死にひねり出した声。
それを聞くや否や、イブキは俺を思い切り抱きしめた。
彼女の柔らかい、太陽のような香りが、俺の嗅覚を取り戻させる。
柔らかく、そして力強い抱擁が、俺の触覚を刺激した。
「旦那様……!!
よかった……!!
よかった……!!!!」
「い……ぶき……!!」
俺が彼女を抱き返そうとした刹那、強烈な悪臭が俺を襲った。
回らない首を必死に回し、周囲の様子を調べる。
俺の周りには、俺を迎えに来たであろう警備隊員とライム、ノインとグーン。
そして――大量の魔物の死体が、散乱していた。
俺のいる場所も、まるで血の池だ。
気付くと、ねとりとした感触が背中に走る。
どうやら俺も、血まみれのようだ。
なんだよ、これ……!?
その死体のどれも、手で引きちぎられたかのような、惨い死に様を晒していた。
一体誰がやったんだ……?
まさか、俺が?
その時、俺の脳裏を一人の顔が過る。
――魔女マナ。
あいつがやったのか?
いや、あいつが俺に渡した謎の端末の所為か?
確かあれをセットしたとき、俺のドライバーは「Bloody Drive」とか言っていたが……。
「ひだり……うで……」
「どうしました、旦那様?」
「どらいばー……が」
イブキは、俺から体を離す。
俺はその隙に、俺の左腕に装着されたメイルドライバーに目をやった。
しかし、コンバータスロットにはめられているのは、雷のコンバータ。
マナが装着した端末は、付いていなかった。
まさか、あれが全部夢だったとでも言うのか?
「イブキちゃん。
ソウタは相当参っているわ。
今は一旦戻りましょう」
視界の隅で俺達を見ていたライムが、そう進言する。
彼女とノインは、俺を血の池から起こすと、俺に肩を貸してきた。
俺は、全く力の入らない脚で、血の池から脱する。
ライム達に連れられて、俺はグーンの後部ハッチから乗車した。
魔物の、謎の死体達を背に――。
Bloody Drive……。
あの時、マナが俺に押し付けてきたあの端末は、一体……?
次回予告
街の外に追いやられるも、無事に回収されたソウタ。
しかし彼らは、街に戻ると同時に、魔女ルイスによって襲撃されてしまいます。
絶体絶命のソウタ達。
その時、ソウタに刻まれた新たなる力が、目を覚ますのでした。
次回「赫き片翼と漆黒の騎士」
お楽しみに!!




