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8-4

 ライムの妹……?

 つまり、魔女ってことか!?

 ライムが言うには、ルイス以外の四人は、人々を救うために世界中に散らばっていると言っていたが、随分と近くにいるものだ。


 でも今、こいつはメイルを纏っていた。

 そんなことが出来る筈がない。

 メイルは元々、対魔女兵装だった。

 魔力を持つ者が使えないのも、魔女に使われるのを防ぐためだ。

 それなのに、何でこいつはメイルが使える……?


「お前が魔女の一人……ねぇ。

 悪いが、信用はしないぞ」


「疑り深くなるのも仕方がないですよね……ごめんなさい。

 ルイさん……じゃなかった、魔女ルイスの件は聞いています。

 私からもお詫びを言わせてください……ごめんなさい」


 そう言って、マナは俺に頭を下げた。


 ルイスが俺達に敵対していることを知っている?

 しかもこいつ、ルイスの件を「聞いている」と言った。

 いったい誰から?


「それ、誰から聞いたんだ?」


「え、えっと……その……」


 マナは頭を上げると、何やら口の中でモゴモゴ言っている。

 が、俺にはとても聞こえない。

 俺に話すつもりはないということか。


「……ごめんなさい」


「謝るなよ。

 命を助けてもらったんだ、どうこう言うつもりはない」


 まあ少なくとも、彼女は敵ではない。

 それに、バックに誰かが付いているようだ。

 帰るのすら絶望的なこの状況で、それ以上の幸福は望むべきじゃないだろう。


 マナは、さっきから俺の右腕をずっと見ている。

 メイルの機能か、断面は塞がれているが、やはり痛ましい光景なのか……。

 俺にとっては、今でも腕がないということが信じられない。

 脳が受け入れてくれないんだ。

 まあ、そのおかげで冷静でいられるのだが……。


「その腕も、ルイさんが……?」


「らしいな。

 未だに信じられないけどな。

 動かしている感覚も……少しだけならある」


「そう、ですか……」


 するとマナは、俺の前に跪いた。

 彼女の黒い服が、鳥の撒き散らした血に浸る。

 マナは、自分の服がどうなってもいいかと言うかのように、血の池の中に両足を付いた。


「ごめん……なさい……。

 私達の所為で……こんな……」


 俺の右腕を胸の中に抱き、目に涙を浮かべるマナ。

 メイルを着ている所為で、感触が楽しめないのが惜しい。


「い、いや……やったのはルイスだし……」


「私達がいなければ、こうはならなかったんです……。

 魔術を巡るすべては、私達から始まったことだから……ごめんなさい」


 魔女を創ったのは、魔術を発見した人間達だ。

 魔女が悪いわけではない。

 そう励ましの言葉を掛けようとしたが、喉元でつっかえてしまう。

 彼女らが背負っている物は、きっと俺なんかじゃ理解できない程に大きい。

 無責任な言葉なんて、とても掛けられない。


 マナは目を瞑って、俺の右腕を抱いたまま動かない。

 ……なんて声を掛ければいいんだよ……。


 その時、不意に視界の隅に巨大な車両が映る。

 グーンとほぼ同じサイズの物が、荒廃したビル街の上空を飛来してきたのだ。

 深緑に塗られた車両は、防衛隊のものか?

 マフルの方角から来ているようだし、ひょっとして、ひょっとしなくても、俺を捜索しに来たんじゃないか?


「防衛隊……?

 俺を探しに来たのか!!」


 俺その車両に向かって、手を振ろうとしたが――。

 その左手はマナに掴まれてしまう。

 彼女は俺を搭屋へと無理矢理引っ張っていくと、立てつけの悪い扉を無理矢理開く。

 そして、その中に俺を押し込んだ。


「な、何すんだよ!!」


 マナは搭屋に入ると、扉を閉める。

 そして、俺にずいと顔を近付けてきた。

 

「ごめんなさい……あれは少なくとも、あなたの味方ではありませんでしたから……」


「はぁ?

 味方じゃなくたって、あいつらに俺のことを伝えてもらえば――」


「あなたも、感付いている筈です……。

 魔人や、今回のルイさんを、後ろから操っている組織を……」


 その言葉に、俺はハッと目を見開いた。

 そうだ……この前の蜘蛛の魔人は、数えきれないほどの兵器を手に入れていた。

 そして、今回の魔女ルイスは、恐らくそれと同じと思われる対メイルライフルを隠し持っていた。

 考えたくはなかったが、奴らの後ろに何かいると考えるのが自然だろう。


「あなたを探しているのは変わりません。

 でも、今飛んできた車両は、その組織の物……といえば、理解してくれますか?」


 確かに、あれだけの火器を易々と用意できる組織なら、車両の一つや二つ持っているだろう。

 でも、あの車両はマフルの方向から来た。

 ……どういうことだ?


「……お前は、その組織を知ってるのか?」


「ごめんなさい……それについては、口が裂けても言えません」


 そこでそのセリフを言うということは、知っていると言っているようなものだ。

 だが、俺もそれ以上の追及はしなかった。

 彼女が言えないと言っている以上、聞き出せないというのがわかっている。

 って言うのもあるが、俺自身が聞きたくなかったってのもある。


 魔人やルイスに肩入れをしていた組織が、マフルの方向から現れた。

 その事実が証明することは一つ……。

 俺が守ろうとしているモノと、俺の「敵」になるモノが、すぐ近くにいるということ。


 不意に、大人数の足音が、俺達のいるビルの床に降り立った。

 その音は一階から聞こえる。

 俺がさっき、手を振ったせいで、ここがわかってしまったのか。


 まだ、あの車両が防衛隊か、警備隊のものである可能性は捨てきれない。

 だが、今のマナの話を聞いた今、一階から響く無数の足音が味方の物とは思えない。


 こんな重要な時に、マナはその場に跪く。


「お、おい。

 どうした!?」


 その時――。


<Starting>


 彼女の太腿に巻き付けられたメイルドライバーが、無機質な起動音を上げた。

 魔女なら始動する魔力も自給自足できるってことか!?


「大丈夫です……すぐに終わらせます」


「終わらせる?」


<Soul Drive>


 マナは俺の声を聞かず、メイルを装着する。

 メイルが装着された個所から、マナの身体は見えなくなっていく。

 これが、このメイルの力か?

 そして、マナの全身が見えなくなった瞬間、彼女の気配はすっかり感じなくなった。

 次の瞬間には、ビル内の足音が消えた。


「……終わらせるって……まさか!?」


 俺は搭屋から飛び出ると、血の水溜りの上を走り、屋上から身を乗り出す。

 ビルの下には、穴だらけになった車両。

 そして、その周辺やビルの入り口に、完全武装した人が倒れ伏していた。


「……たった一瞬で……!?」


「人は殺しません」


 音もなく、俺の後方に降り立つ透明な人間。

 纏うものを透明にする鎧は、光の粒となって消えていく。

 姿を現したのは、先と変わらない、マナ。


「でも……ごめんなさい……。

 特定された以上、ここは使えません。

 場所を変えましょう」


「場所を変える?

 助けでも呼んでくれるのか?」


 ここからでも、マフルの巨大な壁は視認できる。

 敵対している謎の組織に見つからないように、マフルからの助けを呼ぶ手段でもあるのだろうか?


「私にそれは出来ません……ごめんなさい」


「じゃあ、場所を変えて何をしようって言うんだよ!?」


「大切な……大切な話です……」


 マナはそう言うと、ビルの上から飛び降りた。

 高さは五階ほどあるが、何の躊躇いもないとは、流石は魔女だ。

 彼女を無視してマフルに帰ると言う手段もあるが、ビルの下で伸びてる連中の仲間に遭遇したら、どうなるのかわからない。

 ここは、マナに付いて行くのが賢明な判断だろう。

 俺は彼女に続いて、ビルの屋上から飛び降りた。


「それで、大切な話って?」


 マナは倒れている完全武装の男達には目もくれず、マフルの方向へと歩いて行く。

 俺は、その背中を追った。


「……あなたを、ヒーローと見込んでの話です……ごめんなさい」


 ヒーローと見込んでの、か。

 一人では何もできない俺の戦いは、所詮ヒーローごっこ。

 見込まれる要素なんてどこにもありはしない。


「なら、その話は聞けそうにないな。

 俺は所詮、ヒーローごっこだからな」


 俺は、マナと並んで歩く。

 歩いても歩いても、マフルの壁の大きさは変わらない。

 そんなに離れてはいないつもりだったけど、どうやら随分運ばれてきてしまったようだ。


「……それでも、私達はもう、あなたに頼るしかありませんから……ごめんなさい」


「私達は……ねぇ」


 蜘蛛の魔人や、ルイスに肩入れする組織。

 そして、マナを寄越した組織。

 俺はただ、ヒーローごっこをしていただけだが……どうやら、面倒なことに巻き込まれてしまっているようだ。

 しかも、先程のマナとの約束を守るのならば、このことはライムには話せない。


 それから言葉も交わさずに、俺達は歩く。

 気付けば、メイルの救命モードは解除され、メイルドライバーは待機モードに入った。

 これまで俺を覆っていた鎧が、光の粒となって消えていく。

 当然、俺の切断された右腕も、外気に晒された。

 ……断面には、綺麗に皮膚のようなものが付いている。

 これならば、失血死する心配はなさそうだ。


「それで、大切な話ってのは?

 歩きながらでもできるだろ?」


 マナは、先程撃破した車両に目をやる。

 それから、俺の方へと向き直った。


「……そう、ですね。

 これだけ離れていれば、大丈夫かもしれません」


 突如、彼女の隣に、小さくて赤い稲妻が走った。

 それが駆けた後には、謎の端末が浮遊したいた。

 まるで、稲妻と共に現れたかのような……。 

 その端末は、俺のメイルドライバーよりも一回り小さいものだ。

 

 ただ、気になることが一つ。

 その端末には、エレメントコンバータ用のスロットと同じ規格のコネクタが見える。

 まさか、メイルドライバー!?

 いや、違う。

 なぜなら、その端末の先端には、雄側のコネクタも付いているのだ。

 こいつは、メイルとコンバータの中継装置ということか……!?


「ごめんなさい……。

 これを、あなたのコンバータスロットに差し込んでほしいんです……」


「これを……?

 へ~、パワーアップアイテムか!!!

 そんじゃ、有難く頂いて――。

 ――なんて、言うと思うか?」


 こいつらは敵ではないと言ってこそいるが、俺にはとても信用できない。

 俺に害をなさないのなら一緒にいてやってもいいが、こんな見るからにやばそうなアイテムの実験台にされるのなんかごめんだ。


「そうですか……ごめんなさい……」


 マナは、深くため息を吐いてから、俺の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。

 負けじと、俺もマナ瞳に視線をやる。


 どうやら、折り合いはつかなそうだ。


<Soul Drive>

<Electric Drive>


 二つのメイルドライバーが、同時にメイルを顕現させる。

 俺のメイルが左腕から装甲を現し、全身を覆っていく。

 そして、驚くべきことに、失われた右腕もカバーしてくれた。

 なるほど、戦闘する分には問題ないということか。


 俺は稲妻のようなスピードで、魔断剣を抜刀する。

 そして、牽制の一撃を左から右に振り抜いた。

 だが、魔断剣は、何も捉えられない。


 流石は忍者の様な鎧だ。

 姿を消されては、目視は出来ない。

 だが、目が使えなくても、俺には電磁波による空間把握が使え――!?


「ぐあ!?」


 俺は背中に走る衝撃に、うつ伏せに倒れ伏してしまう。

 まさか、視認できないだけでなく、魔力による攻撃の察知まで出来ないとは……!?

 このステルス性能が、このメイルの能力。


 すぐに体勢を立て直そうとしたが、俺の右手の甲に差し込まれたクナイが、俺の手と地面を縫い付けた。

 痛みはない、鎧の中は空っぽなんだから当たり前だ。

 だが、足が止められてしまった……!!


 左腕で何とか起き上がろうとするが、その腕はマナに取られてしまう。

 うつ伏せになったまま、マナに体を踏まれ、左腕を締め上げられている状態だ。


「おまえ……!!

 何が目的だ!?

 どうしてそんなものを使わせる!?」


「身勝手ですよね……ごめんなさい。

 でも、あなたには強くなってもらわなくてはいけないんです」


 そう言うとマナは、俺のメイルドライバーから雷のコンバータを抜き取り、先程見せた端末をコネクタに差し込む。


<Error.

 Please remove the converter.>


 メイルが、先程の端末を認識しない。

 やっぱりまともな物じゃなさそうだ。


「ただ強くなれるなら、俺だって大歓迎だ。

 だがな、こんな手段を使うってことは、ロクなもんじゃないんだろ!?」


「確かに、そうかもしれません……ごめんなさい。

 でも、あなたがヒーローなら……ヒーローでありたいと思うなら、この力はきっと、あなたを認めてくれる」


 そしてマナは、謎の端末に開いているコンバータスロットに、雷のコンバータを差し込んだ。


「ぐ、ぐあああああああああああ!?!?!?」


 刹那、俺の全身に赫い稲妻が走り始めた。

 電撃が俺の五臓六腑を焼き尽くし、全身の神経と言う神経に風穴を開けていくようだ。


「あああああ!!

 ぐあああああああああ!!」


 足掻こうとしても、クナイとマナにガッチリと抑えられた所為で、抜け出せない。

 俺はただ、全身を駆け巡る痛みに耐えるしかなかった。

 俺があまりの痛みに、自らの意識を手放そうとした……その時だった。


<Awakening>


 ドライバーに取り付けられた端末が、無機質な声を上げる。

 凄まじい痛みに晒され、全身から力が抜けていく中、俺の身体は、赫色の光に包まれていった。


<Bloody Drive>


「私達は、あなたを信じるしかありませんから」


 その声を最後に、俺の視界は真っ赤に染まった。

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