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「もちろん無理にとは言わないわ。

 あなたが、あなたの意思で決めて」


 俺の意思で決めろ?

 そんなもの、最初から決まってる。

 俺は今、理不尽極まりない事故に遭ったのが、何故俺なのかわかった気がする。

 他人の理不尽を、俺の手で払うことが出来るんだ!


「俺の意思で?

 決まってんだろ、俺はヒーローになる!!」


「……いい返事」


 そう言うと、ライムさんは無邪気に微笑んだ。

 直後、その笑顔がぴしりと硬くなる。


「手順はわかるわね。

 もう一度メイルを始動させるわ」


「おうよ!!」


 俺は左腕に装着されていた端末を、ライムさんへと差し出す。

 すると彼女は、そいつに手を当てて、電流を流し始めた。

 さっきとは違い、強い痛みは感じない。

 でも、チクチクとした不快感が俺の全身を這う。


「ぴ、ピリピリと来るな……」


「ごめんなさいね、そればっかりは」


 俺が「はいはい」と返そうとした瞬間、蝙蝠怪人が俺達へと飛び掛かってきた。

 流石に、隙を晒し過ぎたか。

 だが、ライムさんは目すら向けずに、正確に蝙蝠怪人のどてっぱらを撃ち抜く。


 二発、三発と連射されるハンドガンに、魔人は空中で怯む。

 それでも奴は臆することなく、俺達へと進み続けた。

 そして、そいつの魔の手が、俺達を捉えようとした刹那――。


「伏せて!!!」


 ライムさんの叫び声が、俺の耳を貫く。

 その声に驚かされ、半ば反射的に腰を屈める俺。


「ハァ!!!!!」


 直後、ライムさんの脚が俺の頭上を掠め、魔人の顔を横殴りする。

 同時に、彼女の足首に巻き付けられていた謎の装置が、青透明のバリアを展開。

 彼女の一撃の範囲を大きく広げた。


 ライムさんの一撃に吹き飛ばされ、魔人は道路へと投げ出された。

 ……これ、俺いらないんじゃないか?


「さ、続けるわよ」


 ライムさんはそう言うと、もう一度端末に電流を流していく。

 そして――。


<Starting>


 左腕に装着された端末が、始動の案内音声を発した。


「よし来た!!」


 高まる俺のテンション。

 もう一度、俺はあの鎧を纏うことが出来る。

 めちゃくちゃかっこいい戦いが出来る。

 それが、俺にとって何よりの楽しみだった。

 一方的に殺される魔人には悪いけどさ。

 ま、人食い怪物って言ってたし、俺だってタダで食わせてやるつもりはない。


「あとは任せるわ。

 大丈夫?」


「おう!

 任せとけ!!」


 するとライムさんは、そそくさと車の陰に隠れる。

 彼女の戦闘力ならそこまで恐れなくていいと思うが……まあ、俺を試すつもりなのか。


 じゃあ、きっちりかっこよく決めないとな。

 まずは装着の掛け声だ。

 この端末が始動している間は、俺は雷を操ることが出来るらしい。

 ってことは「雷」の「装着」か……。

 よし、決めた!!


 俺は、両手をクロスするように前へ突き出す。

 そして、左腕はそのままに、右腕を手前に引き寄せ、右脇を締めた。

 その格好のまま、両手をにぎりしめ、俺は叫ぶ。


「――雷装!!」


<Electric Drive>


 晴天の空から突如として現れた雷が、街を覆うドーム状のバリアを貫いて、俺へと降り注ぐ。

 それは俺を突き刺すと、全身を這うように俺の体表を流れる。

 そして次の瞬間には、その雷は鎧へと姿を変えていた。

 蒼い装甲に、金色の差し色が施された鎧に。


「さぁ!

 ヒーローごっこと洒落込もうか!!」


 ……決まった……!!

 即興にしては、なかなかいい決まり文句だ!!


 対する魔人は、俺の鎧を警戒しているようだ。

 だが、引こうとする気配はない。


「だったら、こっちから!!」


 俺が念じると同時に、左腕のウェポンラックに稲妻が走る。

 その稲妻は、一瞬にして一本の剣に姿を変える。

 名前もないって寂しいからな……そうだ!

 こいつは今日から、魔を断つ剣「魔断剣」だ!!


 俺は魔断剣を引き抜いて、魔人へと一足飛びで迫る。

 そして、魔断剣を左上から大きく振りかぶった。

 そこから、まるで稲妻の如き速さで振り下ろされる剣。

 このスピードも、この鎧がくれたものか。


 だが奴は、その一撃を翼で受け止めやがった……!?

 見るからに柔らかそうなのに!!


「まだまだぁ!!」


 俺は勢いに任せ、剣を振り抜く。

 もちろん、奴の翼には傷一つ付いていないが、そんなことはどうでもいい。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね!!


 右下から左上、次は左から右へ水平に、俺は魔人を斬りつける。

 しかし、奴は怯むっきりでダメージを受けてるわけじゃなさそうだ。

 だがその時、俺の目ははっきりと捉えた。

 魔人の翼の間に出来た隙間に――!


「がら空きだ!!!!」


 俺はその隙間に、魔断剣を突き立てる。

 赤い液体が魔断剣の先端と共に、魔人の背中から飛び出した。


「オラァ!!!」


 だが、まだ足りない!!

 俺は奴に突き立てられた魔断剣を、正面から蹴りつけた。

 その一撃によって、剣は柄まで魔人へと食い込んだ。


 よろよろと後ずさる魔人。

 そんな奴を、雷へと姿を変えた魔断剣が追撃する。


 だけど……まだ倒れないのか!?

 ま、こんな簡単に倒せたら苦労しないか……。

 なんて思った、その時――。


「左腰のホルダーを見て!!」


 車の陰に隠れていたライムさんから、差し込まれた声


「……ホルダー?」


 彼女の言う通り、俺は左腰に目をやる。

 そこからぶら下がっていたのは、六つのスロットが鈴なりにぶら下げられたホルダー。


 何のホルダーなのか。

 それは、六つの内唯一埋まっている一つにはめられているチップが物語っていた。


 これは、色こそ違うが、俺の端末にはめられているものと同じ……!!


「そのチップを入れ替えれば、あなたの扱う属性も変えられる!!

 ぶら下がっているのは熱のチップよ!!」


 なるほど!!

 だったら、話は早い!!


 俺はそのチップを抜き取って、端末にはめられていたものと入れ替える。


<Element Shift>


 熱のチップと呼ばれたそれの色は「赤」。

 その名の通り、炎の色なのだろう。


 炎か……火、火炎……爆発……!!

 爆発!!

 だったらこいつは――!


「――爆装!!」


<Burning Drive>


 俺の声にこたえるように、端末が無機質な声を上げる。

 すると、左手から湧き上がった炎が、全身を包み込んだ。

 この鉄壁とも言える、鎧越しでも程の高熱が俺を包む。

 そして、燃えるような赤色が、俺の鎧を包んだ。


 炎を引き裂いて現れる、赤い鎧。

 所々に見える銀色の差し色。

 今までの鎧の、青い部分が赤色に、金の部分が銀色になったということか。

 個人的には、この配色の方が好みだ!!


 俺は炎を纏った右手を握りしめ、魔人へと一気に駆け出す!

 さっきの攻撃で、奴は息も絶え絶えのようだ。

 ここで一気に畳み掛ける!!


「食らえ!!!」


 炎と共に繰り出す、右フック。

 それは奴の左頬を捉え、ぐいと捻じ込まれる。

 俺はそのまま、拳を力任せに振り抜いた。


 魔人は炎の尾を引きながら大きく吹き飛び、地面にゴロゴロと転がる。

 ……すげぇ……とてもじゃないが、俺の力だとは思えない……。

 最初の武器が稲妻を纏う剣なら、今の武器は炎を纏う拳。

 負ける気がしない!!


 なんて自惚れていた内に、魔人は俺のすぐ眼前にまで迫っていた。

 あの状態から、どう体勢を立て直せばここまで早く反撃できるんだ?

 ま、そんなことはどうでもいい!!


「まだ足りねえか!!?」


 俺は最小限の動きで、奴の鳩尾に拳を叩きこむ。

 肉の焼ける音が、鎧を伝って俺に伝わってくる。

 あんまり気持ちいい感覚じゃないけど。


「だったら、好きなだけぶん殴ってやるよ!!」


 手にこびり付いた、奴の皮膚の焼け跡を払い取り、俺は次の一撃を繰り出す。

 渾身の右ストレートだ!

 

 もはや俺の攻撃を避けられない魔人は、その一撃をもろに喰らう。

 そして再び、道路の石畳を転がった。

 だが、この程度で逃がしてやるもんか!


 俺は一足飛びで転がる魔人へと接近、炎を纏う右脚で、思い切り踏みつけた。

 だが――。


 魔人は、まるでワイヤーでも付けているかのような動きで、超低空飛行。

 俺の股の間を潜り、俺の肩を両足の握力で掴む。


「んな!?」


 そのまま魔人は、大空へと急上昇。

 これまで見ていた景色が、見る見るうちに遠ざかっていく。

 ロクに羽ばたきもせず、この高度まで上昇するとは……これも「魔力」のおかげってわけだ。

 こいつ、俺を高いところから落とすつもりか……!?

 そうはいくか!?


「放せ!!!!!」


 現在高度四十メートル、俺は右手に蓄えた膨大な熱量を、魔人の右足に押し付ける。

 その一撃で、一瞬魔人の握力が弱まった。

 今だ!!


 俺は奴の両足を両手で掴み、そのまま地面へと投げつけた。

 鎧の超人的な力による投げは、街の石畳に小さなクレータを作り上げる。


 だが、奴の手から逃れたはいいものの、俺の落下は止まらない。

 炎が操れるんだし、手から火とか出して飛べそうなもんだけど……残念ながらこいつは「熱」の属性、そううまくは行かない。

 まあ、この鎧なら落ちても大丈夫だろう……たぶん。


 その瞬間、左腕の端末に一筋の赤い光が走る。

 まるで、端末を上下に両断するかのように。

 直後、端末の外装が上下にスライド。

 覗く中身からは、赤い光が輝いていた。


「な、なんだ!?」


 その答えを聞くために、俺はライムさんへと目をやる。

 彼女もそれを察したか、俺へとなにかを叫んでいた。


 まあ当たり前だが、この距離じゃまともに聞こえない。

 だが「聞きたい」という俺の願いを汲み取ったかのように、ノイズ交じりの音が俺の耳元から鳴り響いた。

 同時に、ライムさんを拡大したウィンドウが、視界の中央に開く。

 まともに聞こえない声でも、ライムさんの口とノイズに塗れた音から、俺は一つの単語を聞き当てた。


 ……「必殺技」……!!


 よくわからんが、開いたの外装を押し戻せば必殺技が使えるのか!?

 だったら……。


 俺は端末に嵌っているチップを、炎ものから雷のものへと入れ替える。


<Element Shift>


<Electric Drive>


 そして、鎧が雷の物に変わってから、端末の外装を押し戻した。


<Finally Drive>


 その瞬間、俺の全身に街一つごと焼き尽くしてしまいそうな程の稲妻が迸り始める。

 これが必殺技か……!!


 俺の眼下で、危機を察した魔人が、地を這って逃げ出そうとしていた。

 だが――。


「逃がすか!!!!」


 俺は左腕から魔断剣を抜き放ち、魔人へと投げつける。

 魔断剣は、俺の狙い通り、魔人と地面を縫い付けた。


「トドメだぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 膨大な量の雷を右足に纏い、落下の勢いに任せて蹴りを繰り出す。

 空気を焼きながら迸る稲妻の束は、俺を稲妻そのものに変貌させるほどだ。


 そして俺は稲妻そのものとなり、先程突き刺した魔断剣へと右足を突き立てた。

 耳ごと壊れてしまいそうな程の轟音、眩い程の輝きと共に。


 それらが収まった頃には、俺の鎧は綺麗に姿を消していた。

 地面に転がっているのは、小さな蝙蝠の死骸。


「……あ、あれ!?

 鎧は!?」


「だから、必殺技を使ったら消えちゃうって言ったじゃない。

 それはもう三百年前の遺産、当時のようにはいかないんだから」


 後ろからそう声を掛けてきたのはライムさん。

 あの状況じゃ、そんなことは聞こえなかったぞ……。


「でも、無事でよかったわ。

 ありがとう」


 そう言うと彼女は、俺の頭をぽんぽんと撫でた。

 ……まさかこの年になって頭を撫でられることになるとは……しかもこんな美人に。

 顔が紅潮するのを感じた俺は、彼女から視線を逸らす。


「べ、別に……。

 ただ俺は、ヒーローになりたかっただけだし……」


「そうね。

『ヒーローごっこと洒落込もうか!!』だしね」


 ライムさんは俺の真似をしているのか……?

 似てないけど!


「な、なんだよ!!」


「いい決まり文句だなって、思っただけよ」


「当たり前だろ、俺が考えたんだから!!」


 この人、大人っぽく見えるが、中身は案外子供みたいだ。

 きっとそれが、彼女の魅力なのだろう。


「そう言えば、名前を聞いてなかったわね。

 私はさっき名乗った通り、あなたは?」


「……如月蒼汰。

 ソウタでいいよ」


 ライムさんは一瞬「キサラギ……?」と訝しげな表情を浮かべる。

 しかし、次の瞬間には、今までと変わらない笑顔へと戻っていた。


「わかったわ。

 よろしく、ソウタ。

 いや、この街のヒーロー『グレイス』!」


 グレイス……?

 それが、変身ヒーローとしての俺の名前……?

 なかなかいいじゃねえか!!


「おう!!」


 仮面の騎士「グレイス」。

 それが、この世界での俺の役割。

 これ以上誰かが「理不尽」の犠牲にならないために。

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