7-epilogue
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魔女ルイス視点です。
三百年前、眠れる森の研究施設で、私・魔女ルイスは作り出された。
私の持つ水の魔力は、エネルギーから物質を生み出す力。
その力を目の当たりにした科学者たちは、往々にして私を「奇跡の魔女」だとか呼んでいたっけ。
それももう、昔の話。
眠れる森は崩壊し、私達魔女は世界中に散らばった。
パーパシャル・ジェネレーターの暴走による大災害から、人々を救うために。
でも、私には一つ納得のいかないことがあった。
それは、魔女アウロラの事。
彼女は、パーパシャル・ジェネレーターの暴走を止めるために、たった一人で戦い続けている。
そんなこと、私は許せなかった。
また、七人の魔女達と笑い合う日々を送りたかった。
だから、アウロラを救うために、他の魔女達の下から飛び出した。
きっと何か、アウロラを救う手だてがあると信じて。
そんな私の下に届いた、一通の手紙。
差出人は「眠れる森」。
それに記されていたのは二つ。
一つは、眠れる森に力を貸せば、私の望みを果してくれるということ。
そしてもう一つは、眠れる森への向かい方。
これは罠……私を排除したいマフル警備隊が寄越したもの、というのが私の見解だった。
何故なら、私の目的は誰にも話していない。
そして何より、眠れる森は、もう壊滅したはずだからだ。
美味いこと言って、私をおびき出そうとしているに違いない。
――でももしかしたら、本当に私の願いをかなえてくれるのでは? という、僅かな希望的観測を抱いてしまったのも事実。
丁度、私一人の力じゃどうしようもないという、諦めがあったのも事実。
私は、ダメもとで「眠れる森」に接触しようと決めた。
接触の方法は簡単。
手紙に記されていた場所で、とある人に話しかけろというだけ。
私は、指定通りの場所で、指定通りの平凡な服を着た男に話しかけた。
もちろん、ナルも引き連れて。
その男は、私を何の変哲もないビルへと連れて行った。
しかし、何の変哲もないのは外見だけ。
ビルのエレベーターで、その男は階数指定ボタンでコマンドを入力する。
するとエレベーターは、階数表示にはない、遥か地下へと降下していった。
エレベーターを降りた先に広がっていたのは、白い床に白い天井の広がる廊下。
何の彩もないその廊下は、監獄にも見える。
私は男に連れられて、その廊下を進んだ。
そして、いくつも並んでいる扉の内の一つへと、招待された。
男は、自動ドアが開いてから、私に頭を下げる。
そして、どこかへと去っていった。
ここから先は、私一人で入れということか。
その扉を潜った先に広がっていたのは、天井と壁に並ぶ、大量のモニター。
腰辺りの位置にせり出した大量のキーボード。
そして、その前に用意された椅子。
まさに、私が造られた眠れる森の研究室のようだった。
これだけの施設、ただのカルト集団ではない。
となると、まさか本物の眠れる森……?
でも、あいつらは私達が滅ぼした筈……!?
その部屋の中心に、両手を広げて立つ男が一人。
黒い髪に四角い黒縁眼鏡、白衣を纏った、まさに研究者といった風貌……。
彼は私達が訪れるのを待っていたかのように、高らかに声を上げた。
「ようこそいらっしゃいました、魔女ルイス!
我ら、眠れる森は歓迎します、貴女らを!!」
しんと静まり返った研究室に、彼の声がこだまする。
私は、耳を塞ぎたくなる衝動を抑え、その男へ問いかけた。
「あんたは?」
「私は、私設魔力研究機関『眠れる森』最高責任者――!」
最高責任者……ということは、こいつが今のこの施設のトップ。
なら――。
<Liquid Drive>
ナルの持つメイルドライバーが、無機質な声を上げる。
彼女は真っ先に銃身を形成すると、それを最高責任者に向けた。
「ならあんたを殺せば、眠れる森はまた眠りに着くってわけ?」
名乗りを途中で遮られた男は、眉を顰めて溜息を吐く。
「噂通りのお方だ。
しかし残念ながら、私を殺しても、この組織は滅びませんよ。
三百年前の大破壊が起きてなお、なぜこの組織が残っているのか、考えてみてください」
「起こしたのはあんたらでしょ?
組織が滅びそうだから、世界を道連れにしようだなんて……。
ほんと、とんでもない連中だった」
「道連れ?
私達は滅びませんよ、最初から。
ジェネレーターの暴走も、計画の一端に過ぎない」
計画?
そんなことを言っても、私には負け惜しみにしか聞こえない。
負けても計画だと言えば、言った者勝ちになるからだ。
「それはそれは、入念な計画ね。
世界を破壊することの、何処に計画があるのやら」
「お言葉ですが、魔女様。
世界を破壊してこその計画なのですよ。
我々の力をもってしても、全世界を救うことは出来ない。
故に、我々の管理できるマフル以外の全てを、破壊しつくしたのですよ」
「……つまり、私達は乗せられたって訳ね」
男は、メガネを中指で押し上げ、ニヤリと笑う。
「御名答!
あなた方魔女の目を欺きつつ、我々の支配の届く街を創る……そのためにね」
なるほど。
つまりこいつらは、自分たち以外の全てを滅ぼすことで、実質的に世界を手にしたって訳。
「ふ~ん。
よく、ライムに勘付かれずにやり過ごしたものね」
私の問いかけに対して、男は首を傾げる。
「おや、あまり驚かれないのですね?」
「生憎、私もいい歳だからね。
それに、驚きは全部、この手紙に持ってかれたわ」
「まあいいでしょう。
確かに魔女ライムは、皆に手を差し伸べ、この街をいち早く復興させた。
彼女以外の魔女では、ここまで早く街を復興させることは出来なかったでしょう。
しかし、彼女は人を疑うことを知らない」
「それで、あんたらの野放しにしていたって訳?」
つまり、眠れる森は滅びていない。
私達に追い詰められたのも、ジェネレーターの暴走も、すべては計画のための演技。
だとしたら、その計画ってのはなに?
こいつらの真の目的は……?
「で、その計画ってのは?
あんたらは、世界を手に入れてまで、何をしたかったの?」
「――魔力による、人類の解放」
「……解放?」
「ええ、これが成せれば、魔女アウロラの救出も可能となります。
あなたの悲願でしょう?」
こいつ、なんで私の目的を!?
誰にも話してはいない。
それに、私は一人で戦ってきた。
話す人間なんていなかったのに……!?
「どこでそれを?」
「あなたは利用価値のある魔人を求めていました。
そこから推測した結果ですよ。
あなたは探していたのですよね、アウロラの代わりになる魔人を。
だから、魔人を育てようとしていた。
……無謀な話ですね」
私が三百年間も探し続けた方法を、この男は無謀だと笑った。
私は、その事実に耐えきれなかった。
煮えたぎる腸にリンクするように、ナルの水鉄砲が放たれる。
もちろん、威嚇射撃だけど。
ナルの放った圧縮水は、男の横十センチほどを通過。
男の後方のモニターに風穴を開けた。
「おっと、いいのですか、撃ってしまっても?
恐らく、我々と手を組むのが、アウロラ救出の一番の近道だと思うのですが……?」
確かに、私が男の言葉に腹を立ててしまうのは、それが図星だったからだ。
この男が本当に眠れる森だというのなら、手を組んで損はない。
「……わかったわ、話は聞いてあげる。
その代わり、全部吐きなさい、洗いざらい」
「ええ、最初からそのつもりですよ。
ではまず、自己紹介から。
私は、キリマ・ミルと申します。
気軽にお呼びください、プロフェッサーと」
そして、その男……プロフェッサーは、頭を垂れた。
次回予告
久々の友人との再会を喜ぶソウタ。
そんな彼らの前に、魔女ルイスが立ちはだかります。
しかし、ルイスの気迫は、これまでとは違いました。
完全装備のルイスに、ソウタは大敗を喫し――。
その時、グレイスの「覚醒」の時は、刻一刻と迫っていました。
次回「街の外と命の魔女」
お楽しみに!!




