7-3
一本の剣に、一丁のアサルトライフルを持ったノインは、魔人へと歩み寄る。
対する魔人は、体を丸くして銃弾の雨から身を守っていた。
そして、魔人の身体が光った瞬間――!
耳を劈く轟音と共に、巨大な稲妻が空を飛ぶグーンを打ち抜いた。
雷を無力化する機能が付いているのか、グーンは稲妻が直撃した割には、まだ動けるようだ。
だが、流石にあれだけの巨大な雷は無力化できなかったのか、車体後部が爆発した。
その衝撃で、グーンは姿勢を崩す。
「おしゃべりが過ぎたようだ。
止めは任せるぞ」
俺にそう言い残し、ノインは、銃弾の雨から解放された魔人へと銃口を向けた。
「止めはって?」
「気を抜くなということだ!」
ノインが駆けだすと同時に、俺の後方に停車していたグーンが飛び立つ。
グーンは、機銃を魔人へと向ける。
その傍ら、先程攻撃を受けたもう一つのグーンが、魔人の後方に不時着した。
2台のグーンと、武装した警備隊員による包囲。
そして、もう一つの鎧「ディア・メイル」による対魔人戦闘。
フィセント・メイルなしで、どこまで行けるのかは見物だ。
もちろん、少しでもやばそうならすぐにでも加勢するが……。
飛びだったグーンが、三門の機銃を魔人へと連射する。
だが、魔人にとっては止まって見えるのだろう、奴は軽々と銃撃を躱し、ノインへと迫る。
ノインは構えを解かず、魔人へとライフルを発砲した。
その瞬間、俺のメイルが強大な魔力を感知する。
魔力を発生させているのは、ノインの撃った弾丸か!?
魔人も当然、魔力に気が付いたのか、すぐにノインの射線上から脱する。
それを待ってましたと言わんばかりに、グーンの弾幕が、魔人へと襲い掛かった。
いくら魔人とはいえ、強力な弾幕に晒されれば、隙の一つや二つは出来てしまう。
ノインは、一瞬の隙も逃さず、右手のライフルを、魔人へと放った。
発射された三発の銃弾が、魔人の腹・胸・顔へと突き刺さる。
そして――。
バァン!!!
という爆音と共に、三つの銃弾が破裂した。
それでも、魔人の身体には、掠り傷のようなものが三つ出来ただけ。
あいつ、どれだけの防御力を持っているんだよ……!?
装甲だけじゃない、肉体そのものが強靭すぎるってことか……!?
ノインが持っているアサルトライフルは、恐らく普通のものではない。
メイルがこれだけの魔力を察知するってことは、あの弾の中身は、魔力の塊ってことか……。
敵の身体に突き刺さり、内部から破裂させる弾丸。
弾丸一発にどれだけのコストが掛かっているのか、考えたくはない。
一見すると、ノインのアサルトライフルは牽制用に見えるが、そっちが本命。
むしろ牽制用は、グーンの機銃。
強力な一撃をくらった魔人は、その構えを鋭くする。
魔人が、ノインを脅威と認識したということか……。
「ようやく、やる気になったか。
手を抜く癖があるのなら、直した方がいい」
迫力を増した魔人に、気圧される俺がいた。
しかし、ノインは一切動じていないようだった。
「プットバック・アームズ03。
セットアップ、アームズ01・02(ゼロツー)」
<Roger.
Put back Arms03.
Standby Arms01 “Destroy Beak”.
Arms02 "Searching Eye”.>
ノインに呼ばれて現れたのは、人の身長程はある巨大な銃。
この前の、対メイルライフルのようなものだ。
そして、二つの謎の球体……?
大きさはサッカーボール程度か?
名前からして、索敵に使用する物のようだが……。
それと同時に、ノインのアサルトライフルが空を舞い、グーンへと回収されていく。
よく見ると、車体の上部のハッチから武器の出し入れをしているようだ。
「ちょっと、かっこいい……」
大量の武器を、とっかえひっかえしながら立ち回る。
グレイスの戦法とは大きく異なるが、また違ったかっこよさがある。
グーンとの連携、様々な武器の同時運用。
それが、ディア・メイルの戦い方ということか。
俺にはとてもできないが、それができるのがノイン。
月並みな言い方だが、奴は――。
――化け物だ。
アサルトライフルを手放したノインは、二つの球体とライフルを浮遊させつつ、魔人へと突撃する。
まるでリズムを刻むような、グーンの弾幕。
それによって、魔人の行動は制限されている。
そこを狙っての格闘戦。
一見すると、ノインの方が圧倒的に有利だ。
だが、そこで壁になるのが、魔人と人間の身体能力差。
フィセント・メイルは、生命力の魔術を身体に流し、身体能力を無理矢理強化している。
対してディア・メイルはどうだろうか、多少の身体強化はあるだろうが、フィセント・メイル程ではないだろう。
つまり、これだけの武装をもってして、ようやく魔人と並ぶか、それ以下というところか。
後は、ノインを信じるだけ。
弾幕を警戒するが故に、行動範囲が制限されている魔人。
ノインは、グーンの銃弾を器用に掻い潜り、魔人へと迫る。
そして、剣を振り上げた。
ノインの隙は、グーンの射撃が完璧にカバーしている。
十門もの機銃に狙われては、魔人と言えでも自由には動けない。
振り下ろされるノインの剣と、魔人の拳が、ぶつかり合う。
その瞬間、膨大な光が二人の間で爆ぜた。
この光は、魔人の雷。
一秒にも満たない僅かな時間に、流せるだけの雷を流したのだろう。
いくら最新の技術で出来た鎧とはいえ、ディア・メイルがあれだけの電流に耐えられるのか……。
なんて俺の心配をよそに、ノインは振り下ろした剣で、右方向に薙ぐ。
まさか、ダメージを受けていない!?
対する魔人は、左足でノインの頭部を狙った。
魔人の足とノインの剣が衝突し、またも光の爆弾が炸裂する。
剣が魔人の足を受け止め、ノインの頭部を守る。
火花を散らしながらすれ違う二つの一撃が、閃光の後を彩った。
あれだけの雷に晒されながら、ピンピンしているノイン。
どういうことだ……!?
魔人とノイン、両者が次の一撃を繰り出そうとした瞬間、ノインがぽつりと呟いた。
「蝶のように舞い――」
ノインは大振りに剣を振り上げる。
その瞬間を、魔人は見逃さなかった。
魔人は牽制の銃弾を避けず、剣を振り上げたノインの懐に潜り込む。
まさに雷光とも言える攻撃。
俺もあの一撃に苦しめられた。
やはり、ノインでは――。
「蜂のように刺す!!」
と思った瞬間、ノインは跳躍し、魔人の上を通り過ぎる。
同時に、浮遊していた巨大なライフルが、今までノインが立っていたところに滑り込んだ。
そして、ズドンという発砲音が響いたときには、魔人は大きく吹き飛ばされていた。
ノインのいる方向へ。
着地したノインは、吹き飛んできた魔人を一瞥。
身を翻して魔人を躱し、剣を構え直した。
魔人は今までの身のこなしはどこへやら、ゴロゴロと地面を転がる。
絶好の攻撃のチャンス。
だが、グーンも巨大なライフルも、ノインさえも、攻撃を加えることはなかった。
「蜂は優しい。
危険であることを、色で伝えてくれる。
お前に敗因があるとすれば、俺を侮ったことだ」
魔人はふらふらと立ち上がると、力の入っていない体で構える。
今のライフルの一撃が効いている……?
「キサラギ、今だ」
「は?」
「止めを刺せ!!」
「お、おう!?」
俺はすぐさま、メイルドライバーに目をやる。
ドライバーの外装は上下に割れ、亀裂からは赤い光が漏れていた。
よかった……充電は完了している……!!
ならば、決めてやるだけだ!!
俺は思い切りドライバーの外装を押し戻す。
魔断剣を投げ捨て、右足にすべての熱量を蓄えた。
<Finally Drive>
ふらふらと立っている魔人へ、俺は駆けだす。
奴は俺を視認すると、右手に握り拳を作り出す。
だが、先程までの覇気はどこにもない。
俺は、魔人のダメもとの一撃を潜り、膨大な熱量を溜めこんだ右足を、魔人に押し付けた!!
「滅星の爆炎!!!!!!!」
もはや魔人に、俺の一撃を受け止める力はない。
奴の腹に食い込んだ右足を、俺は思い切り突き出す!!
魔人は、熱と共に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がった。
次の瞬間、もう一つの太陽が、魔人の身体の中から姿を現した。
それは、魔人の身体の全てを焼き尽くし、塵へと変えていく。
そして、太陽の色が白く染まっていき――。
魔人と共に、爆散した。
俺は荒い息を整え、大きくため息を吐く。
それにリンクして、メイルが炎となって消えて行った。
普段ならば、警備隊員に顔が見られないよう、ドロンするところだが、もうその必要もない。
俺は、今日最大の功労者であるノインへと向き直った。
「プットバック、アームズ00」
ノインの声と共に、彼の全身を覆っていた装甲が、宙に舞い始める。
そして、全ての装甲が剥がれた瞬間、それらは一斉にグーンへと飛び立っていった。
「フィセント・メイル……やはり、規格外の出力だな」
「俺は、お前の規格外の強さにビックリだよ。
ったく、久しぶりに会ったと思ったら、とんでもないもん引っさげてきやがって!」
俺は、ノインの胸を右手で小突く。
ノインは俺にとって、この世界で気を許せる数少ない同性の一人。
しかも、おっさんに比べれば年も近い。
その所為か、少し前までは話す機会も多かった。
それが、イブキが来る少し前からめっきり見なくなって……。
まさか、戦場で再開することになるとは思わなかった。
「すまないな、ディア・メイルの試験に駆り出されていてな。
そんなお前は、随分といい面構えになったものだ」
「社会の荒波に揉まれたんだよ」
俺は、道路のど真ん中に鎮座するグーンに目をやる。
新幹線のように張り出したボディに、赤と青のパトライト。
まるで、ロボットにでも変形しそうな形だ。
「にしても、さっきのはなんだ?
あんな強い魔人を、動けなくしちまうなんて」
あの時、巨大なライフルから放たれた銃弾。
あれが命中した瞬間、魔人の動きがとろくなった。
あんなものがあるのなら、今後は俺無しでも、街は平和かもしれない。
「あれは、弾丸の形をしたエレメントコンバータだ。
魔人の体内にある魔力を、別の魔力に変換しただけのこと。
魔人が得意とする魔力とは、違う魔力に変換すれば、魔人は体の自由すら聞かなくなる」
なる……ほど……?
「わかったような、わからないような……」
「人に例えれば、体を伝う電気信号を、熱のエネルギーに変換しているようなものだ。
体を動かせば動かすほど、ダメージが蓄積されていく」
「……えぐいな」
つまりあれか、体を動かそうとしたら動かせず、しかも体中から火が出て来るってことか?
考えただけで恐ろしい……。
「とはいえ、効果時間は二秒前後。
奴も、すぐに立ち上がれるレベルに戻った。
止めを刺したのは、間違いなくキサラギだ。
誇っていい」
「バカ言えよ。
俺だって、お前が来なきゃ死んでたぞ」
「ならば今日は、引き分けだな」
これ……戦いだったのか?
会話をしていた俺達の傍らで、警備隊員達が、グーンへと乗り込んでいた。
ノインも、それに続く。
「おっと、隊員を待たせてしまったな。
キサラギ、帰るぞ」
「……おう!」
久しぶりに再会した友人。
そして、そいつの引っさげてきた新たなる戦力。
俺は、これから始まる新しいヒーローごっこに、胸を膨らませていた。
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