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7-2

 俺は空を飛ぶバイクを飛ばし、魔人の出現地点へと向う。


 プロフェッサーの言う通り、このバイクのスピードは、風のメイルで飛んでいる時よりもよっぽど速い。

 しかも、暴風で無理やり飛んでいる風のメイルとは違い、これは純粋な運動エネルギーで飛行している。

 どんなにスピードを出しても、暴風で地上が荒れることはないってことだ!

 俺は、スピード全開で空を駆けた。


 魔人の存在が公になったことで、交通規制の際の「言い訳」は必要なくなった。

 故に、魔人の出現した際の警備隊の動きは、より迅速になった。

 魔人の出現からそんなに時間は経っていないが、すでに交通規制は完了しているようだ。

 見張りをする警備隊員達の上を通り過ぎてすぐに、堂々と街の道路を歩く魔人が見えた。


 だが、奇妙なことが一つ。

 奴は誰かを襲うわけでもなく、ただ道のど真ん中を歩いているのみ。

 今までの魔人は、誰かを襲うために姿を現していた。

 それなのにこいつは、隠れる訳でもなく、誰もいない道を練り歩いているのみ。


 いや、細かいことを考えるのは止そう。

 こいつが俺達にとっての脅威なら、相手をしてやるまでだ!!


 現在、マフルの上空五十メートル程を飛行中。

 俺はバイクから飛び降りて、カブトムシの魔人へと魔断剣を振りかぶった。


「くぅらぁええええええええええ!!!!」


 奴は俺が叫ぶよりも早く、こちらを視認した。

 雷の魔力を用いる魔人ということは、電磁波による空間把握も使えるということ。

 厄介な敵になりそうだ。

 ヒーローの血が滾るってもんだ!!!


 魔人は、俺の一撃をくるりと躱す。

 すると、奴は回転の勢いを用いて、俺に裏拳を振るってきた。

 雷を纏った一撃が、俺を睨み付ける。

 だが、メイルを纏った俺には、奴の一手一手が手に取る様にわかる!!


 俺はすぐさましゃがみ込み、奴の一撃を潜る。

 奴の拳が、俺の頭の上を通り過ぎると同時に、俺は右足で奴の足を払う。


 俺の予想通り、奴はその場でジャンプして、足払いを躱した。

 戦場で地面から足を離すとは、バカな奴だ!!!

 俺は、その一瞬を狙って、奴に斬撃を見舞う!


 だが――。


「ぐぁ!!!??」


 奴は俺の顔面を蹴りつけると、その反動で俺から距離を取ったようだ。

 空中で身を翻し、約三メートルほど離れた地点に着地している。


 俺は蹴られた勢いを使って、後方に転がる。

 そして、立ち上がると同時に、魔断剣を構え直した。


 今回の魔人は、全身がカブトムシの様な外骨格に覆われている。

 顎から生えた角は、鼻・額を伝い、額よりも高い位置へと伸びていた。

 胸や腕、太腿などを覆う外骨格は、鎧にも見える。

 その佇まいは、まるで格闘家――。


 そして、もう一つ気が付いたことがある。

 奴は俺を発見してから、膨大な量の魔力を纏い始めた。

 その所為で、メイルの魔力感知が乱されている。

 これでは、奴の一手が読みにくい……。


 そんな俺に「攻撃してみせろ」と言わんばかりに、歩み寄ってくる魔人。

 奴の放つ覇気に、気圧されてしまう。

 魔力感知が乱されているせいか、あるいは奴の武術の腕の所為か、隙が掴めない。

 まるで、稽古を受けた人間の様……。


 その時、悪寒が俺の身体を突き抜けた。

 人の様な知性を持つ魔人……。

 まさか、二ヶ月前戦った蜘蛛野郎の仲間――!?


「お前……随分戦えるな……。

 なんか言えるのなら言ったらどうだ?」


 知性を持つ魔人なら、この前の蜘蛛魔人の様に、兵器を所持している可能性もある。

 もし喋れるのなら、こいつはただの魔人じゃないってことだ。


 だが、魔人が俺の言葉に答える気配はない。

 一歩、そして一歩と、俺に対して近付いてくる。

 奴の放つ凄まじい覇気に、俺は思わず後ずさる


 侍同士の戦いは、こういったお見合いを続けるイメージがあるが、こんな感じなのだろうか。

 いや、違う。

 俺はただ単に、奴を恐れて攻め込めないだけだ。

 対して魔人はどうだ?

 あいつは、俺を恐れているような挙動など見せていない。

 つまり、これは決闘ではない。


 俺が押されている。

 しかも、この前のように、罠にはめられたわけじゃない。

 完全に、奴の実力が俺よりも勝っているってことか……。

 どう攻める……?

 どう攻めればいい?

 メイルを纏っているのがイブキであれば、もっとうまく立ち回るのかもしれないが……。


 その時だった――。


 ダァン!!!


 という爆音。

 それよりも一拍早く、メイルが俺に伝えてきた。

 奴の一撃を。


 その拳は、まるで雷光。

 雷撃とも見紛うその一撃は、喰らえばひとたまりも無い。

 だが、メイルなら奴の行動を読める!


 俺は一歩左へ移動。

 刹那、俺の右を奴の拳が擦過する。

 そのまま奴の右側を過ぎつつ、魔断剣を左側に寝かせた。

 首を落とす。


 雷を纏うのは、俺だって同じだ!

 こちらも、メイルの筋力強化だけじゃない。

 雷による筋力強化も上乗せしている。

 俺の一撃も、雷光だ!!!


 だが、奴は俺の腕を、右腕で受け止めた。

 雷を纏って剣を握っていても、腕を押えられては斬り進めない。

 触れ合った俺と魔人の間を、大量の稲妻が行き来する。


「クソ野郎……!!!!」


 メイルからの警告が、耳のすぐ横から鳴る。

 メイルが多量の魔力したことで、魔力感知が完全に働かなくなった!?

 ってことは、ここからは俺の純粋な実力での勝負になる。


 膨大な稲妻から放たれる多量の光が、俺の視界を奪う。

 電磁波による空間把握も、魔力感知も使えない。

 これでは……。


 そして、光が収まった時には――。

 俺の瞳が、俺へと向かう「奴の手の平」を捉えた。

 掌底!?


 俺の腹はがら空き。

 後は、喰らうだけ。


 次の瞬間には、奴の手の平が、俺の腹に食い込んでいた。

 その一撃は、止まることなくグイグイと突き進む。

 俺の腹を逃がすまいと。


 そして次の瞬間、急激な加速感と共に、魔人の姿が遠ざかっていく。

 奴の腕から逃れた時には、奴から十数メートル程離されていた。

 地面には、まるで線路のように、俺の足の軌道がなぞられている。

 腹の装甲には、奴の手形が形作られていた。


 俺は体勢を崩さなかった。

 なのに、これほど吹き飛ばされたのか!?


「が、カハッ!?」


 まるで胃液が逆流するような感覚。

 きつい嘔吐感が俺を襲う。

 まるで、体の中の全てが口から漏れだすような感覚。


 俺の腹にあったものが、見る見るうちに口から抜けていく。

 口全体に広がる酸っぱい味が、嘔吐感を加速させた。

 嘔吐を感知したメイルが、兜の口元を僅かに開き、嘔吐物を排出した。


 メイルをもってしても、防ぎきれない一撃。

 二ヶ月前の対メイルライフルとは比べ物にならない。


 もう一つ気が付いたことがある。

 ――こいつは、強い。


 朦朧とする意識の中、俺は剣を構え直す。

 どうする……?

 雷を纏っていたって、こいつには追い付かない。

 だったら、もう雷には頼らない。


 俺は、ドライバーのエレメント・コンバータを差し替えた。

 荒い息の中、俺は静かに呟いた。


「――爆装」


 俺の身体を、灼熱が駆けていく。

 そして、鎧の色が変わった時には、魔断剣も赤熱し始めた。


 さて、熱のエレメントに変わったってことは、奴の動きにはもう付いて行けない。

 なら、攻め込まれると同時にこっちも攻める!

 肉を切らせて骨を断つ!!


 その俺の意図を呼んでのことか、魔人はピタリと歩みを止めた。

 ようやく、俺を脅威と認識したのか?


 ――その時だった。

 遠くから響く甲高い音。

 非常に小さいながらも、聞き逃せないその音には、聞き覚えがある。

 これは、サイレン?

 音色は警備隊車両の放つものだ。

 それらは、だんだんとこちらに近付いてくる。

 ってことは、警備隊の増援か?


 俺と魔人は、にらみ合いを解かぬまま、近付いてくるサイレンに耳を傾けていた。

 その音はすぐそこまで来て――。


 そして、横の建物を飛び越えて現れたのは、想像を絶するものだった。

 中央にサイレンの付いた、大型トラック!?

 いや、車輪の無い特急電車といった風貌か?

 水色と白で彩られていることから、警備隊の車両だと一目でわかる。

 それが二台連なって、飛来したのだ。


 思わぬ光景に、俺は度肝を抜かれた。

 その瞬間を、魔人が逃すわけがない。

 奴は俺の隙を突いて、地面を蹴ろうと構える。


 しかし、トラックのさまざまな個所から顔を出した十門を超える機銃が、魔人に対して一斉に発砲し始めた。

 銃弾に気が付いた魔人は、俺への接近を止め、銃撃を躱した。

 だが、それを読んでいたかのように、機銃は魔人から目を離さない。

 逃げても逃げても追ってくる銃弾の雨に、魔人はとうとう捕えられてしまった。


 なんだよ、このトラックは!?

 味方なのは確かだけど、こんなのがあるなんて聞いてないぞ!?


 二台のうち片方は、魔人の斜め後方でホバリングし、射撃を続けている。

 もう1台は、俺の後方に降り立った。


 車両の後部ハッチが開き、防弾チョッキの様な装備に身を固めた警備隊員達が、次々と降りてくる。

 彼らは、俺を挟んで魔人の反対側に整列し、奴へと銃を向けた。


 一通り降車の済んだ車両だが、まだ中に一人いるようだ。

 銃撃音が響く中、堂々と降りてきたのは……。


「ノイン……なのか……?」


 ノイン・アイシバー。

 元魔物対策課に属する、もう一人の男。

 二ヶ月前に、リユが取り出してきたタライの持ち主だ。


 百八十センチメートルはあるであろう高い身長。

 彫の深い、整った顔つき。

 さらりと風に靡くブロンドの髪の隙間から、碧い瞳を覗かせている。

 憎たらしいほどのイケメンだ。

 纏っているのは、ここにいる他の隊員とは違う、ただの制服……?

 こいつ、何しに来た?


「お久しぶりでございます。

 いかがお過ごしでしょうか?」


 車両から降りてきたノインは、開口一番に気味の悪い挨拶をし出す。

 いつものことだ。

 だけど、今はこんなこと言っている場合じゃない!


「言ってる場合か!!

 冷やかしにでも来たのか!?」


 ノインは、俺の言葉を聞いて、眉を顰めた。

 そんな顔をしそうなのはこっちだ。


「親しき仲にも礼儀ありというだろう、キサラギ?」


 こいつはいつも、挨拶が長ったらしい。

 本人なりの礼儀らしいが、いつも空回りしている。

 それだけならいいのだが、まさか戦闘中までそんな調子で来るとは……。


「時と場合を考えろって言ってんだ!!

 しかもお前、丸腰じゃねえか!!」


「丸腰?

 課長から話は聞いていないのか?」


 まさに今日、おっさんと話してきたところだが、ノインに関する話は一切出なかった。

 というか、今日会わなければ存在すら忘れていたところだ。


「まあいい。

 話を聞くよりも、実際に見た方が早そうだ」


 そう言うとノインは、懐から水色のインカムを取り出した。

 耳に当てる部分が五角形になっている物だ。


「見るって何を?」


 手助けしてくれるのは嬉しいが、正直丸腰でここに来るだなんて、バカのやることとしか思えない。

 ノインは「黙って見ていろ」というと、インカムのマイクを手でつまむ。

 そして――。


「セットアップ、アームズ00(ゼロゼロ)


 と呟いた。

 誰かに通信してるのか?

 なんて思ったその瞬間、俺の後方に停車していたトラックが、案内音声を上げた。


<Roger.>


 その音声と同時に、トラックの荷台から、何かが一斉に飛び出してきた。

 数は数百、色は水色の物と白の物が入り混じっている。

 それらは、ノインの身体の周りを、まるで土星の輪のように回り出した。

 これは……アーマーのパーツ?


<Standby Arms 00 "Dia・Mail">


 そして、それらは一斉にノインの身体を覆いだす。

 脹脛、太腿、腰、腕、胸……かちりかちりと、まるでパズルのピースを埋めるかのように、各パーツが決められた部位を覆っているのだ。

 パーツとパーツの隙間には、黒いインナーのようなものが形作られている。


 最後に、頭部を覆うヘルメットが装着される。

 額から前方に伸びる、嘴の様な形から、カラスの意匠を見て取れる。

 そして、そこから顔面を覆う、黒いバイザーが降りた。


 これは……鎧!?


「これが、新しい鎧。

 対魔人兵装『ディア・メイル』。

 お前のフィセント・メイルを、現代の技術で、出来うる限り再現した代物だ。

 そして、戦闘支援車両『グーン』。

 この街の、新たなる戦力だ」


 フィセント・メイルとは違う、もう一つの鎧……?

 そして、魔人を足止めするほどの機銃を内蔵した、戦闘支援車両。

 警備隊は、こんなものを開発していたのか!?


「お前はしばらく、見学でもしていろ。

 見せてやる、この鎧の力を」


 フィセント・メイルでも勝てない相手に、他の武装で敵うわけがない。

 奴の一撃を貰えば、五体満足ではいられない筈だ。


「出来るかよ!

 お前死にてぇのか!?」


「死なないさ、俺はな」


 ノインは俺にそう言い放つと、銃撃を受け続けていた魔人へと歩み出す。


「セットアップ、アームズ03(ゼロスリー)04(ゼロフォー)


<Roger.

 Standby Arms03 "Assault Wing".

 Arms04 "Slash Wing">


 先程の鎧と同じように、ノインの声に従って、戦闘支援車両「グーン」から二つの装備が射出された。

 それらは、彼に飛来すると、くるくると彼の周囲を回り始める。

 この前の蜘蛛魔人が持っていた銃のように、宙に浮くことが出来るのか?


 飛来した武器は、一丁のアサルトライフルと、一本の剣。

 ライフルを右手に、剣を左手に持ったノインは、その場で構えた。


 俺ですら勝てない相手だが、ノインが相手なら勝てるのかもしれない、と思ってしまう俺がいた。

 根拠は、ノインの放つ覇気。

 徹底的に武術を仕込まれたからこそできる、一切の隙も見せない構え……。


「……わかったよ。

 怪我しても知らないからな!」


 俺はノインに従って、しばらく見学と洒落込むことにした。

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