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6-3

 男子更衣室は、茶色い正方形の、畳の様なパネルが敷かれている。

 ロッカーも含めて、全体的に茶色く統一されている更衣室は、落ち着いた雰囲気に包まれていた。


 男子更衣室でも、1人でいるものは少数派だった。

 殆どが子供連れ、あるいは数人単位で着替えていた。

 ちらほらと1人で利用している物もいるが、カップルの片割れか、あるいは子供が女子更衣室で着替えているのだろう。

 

 女の子は準備に時間が掛かるものだと言うし、俺もゆっくり着替えるとしよう。


 見渡してみると、更衣室なのに随分といろんな物があるもんだ。

 更衣室を入って右側の隅には、自動販売機が3つもある。

 いや、よく見たらその隣には牛乳用の物もあるな。

 さらにアイスを売っている物も含めれば、全部で5つだ。

 

 その自販機のすぐ前には、一休みできるように丸椅子がいくつか並んでいる。

 丸椅子を挟んで、自販機の反対側には洗面台。

 なんと無料で化粧水が使い放題のようだ。

 どうやら試供品らしく、売店で購入できるらしい。

 こういうのを買っていく層って、どんな人たちなのだろうか?

 お土産向きなのか?


 っと、いろんなものに目移りしちゃうけど、まずは着替えないとな。

 ロッカーは、一般的な銭湯にあるようなものと変わらないようだ。

 空いているロッカーには、腕に巻くバンドと一体化した鍵が刺さっている。


 仕方がないとはいえ、またバンドか。

 メイルドライバーと合わせたら、3つのバンドを腕に巻いていることになる。

 って言うか、水着にメイルドライバーを付けていたら目立つよな……。

 といっても、置いて行けるような品じゃないし、付けていくしかないよなぁ。

 それに、万が一ってこともある。

 加えて、緊急連絡用に防水携帯諸々などを持っていくと、結構な荷物になるが……まあしょうがないか。

 

 俺は、水着姿に着替えて屋外プールへと向かうのだった。


 更衣室は、直接屋外プールに繋がっている。

 2階から降りて来るときや、逆に他の階に行きたいときは、更衣室を経由せずに出入りも出来るようだ。

 俺は、ライム達とあらかじめ決めておいた集合場所で待機していた。


 集合場所は、更衣室を出てすぐの位置にある、巨大なバナナのオブジェだ。

 位置的には、ビルから見て、屋外プールの中央やや右寄り。

 更衣室のすぐ近くにあるということは、集合場所に使ってくださいということなのだろう。

 その所為か、人が非常に多い。

 元の世界で言う、昼間の「忠犬ハチ公像」付近に近いものを感じる。

 恐らくは、開園直後だから、待ち合わせ中の客が多いってことなんだろう。

 その証拠に、他のエリアはびっくりするほど空いている。

 

 約十分程は待ったか。

 ある1グループが合流し、ここを離れる度に、更衣室から出てきた人が、ここで待機を始まる。

 そんなこんなで、ここ周辺は未だに大盛況だ。


 その時、ワイワイと賑やかなこのプールに、一瞬の静寂が訪れた。

 俺は職業? 柄か、厄介事でもあったのかと辺りを見渡す。

 しかしこれといって、異常は見当たらない。

 一つあると言えば、皆がある一点を凝視しているということか。

 人々の視線の先にあるのは、女子更衣室の出口……?


 そこにいたのは、まるでファッションショーのように、人々の視線の中歩く女性。

 腰まで伸ばした銀髪に、切れ長の瞳、魅力的なスタイル。

 彼女は紛れもなく、魔女ライムだった。


 今まではローブに隠れてよく見えなかったが、彼女の歩き方はまるでファッションモデルだ。

 しかし、どこか奥ゆかしさを覚える歩みからは、決して驕らない彼女の人間性が疑える。


 纏っているのは彼女のイメージを崩さない、黒いホルターネックのビキニ。

 無駄な装飾は一切ない、まさに素材を生かしたチョイスと言える。

 ビキニを押し上げる、大迫力の胸は、周りの男性陣の目を攫っていた。

 さらに、腰に巻いているパレオは、左膝を隠し、右の太腿をちらりと覗かせる。

 彼女の白い肌と黒い水着のコントラストは、俺には眩しすぎる。

 布で覆い隠す面積が狭くなったことで、彼女の人間離れした魅力が、余すことなく解き放たれている。

 今ライムと会話をしたら、これを見ている老若男女の視線を集めることになってしまう。

 誇らしいという気持ちと、逃げ出したいという気持ちが俺の頭を掻きまわした。


 その時俺は、ライムの後ろに隠れている人影に気付く。

 ちょこちょこ覗く桃色の髪から、イブキであることは見当がつくが、何で隠れてるんだ?


 なんて考えている間に、ライムは俺の目の前まで迫ってきていた。


「ソウタ、お待たせ」


 その瞬間、周りの人々の視線が、一斉に俺の方へと集まる。

 男性陣から放たれるのは、嫉妬の眼差し。

 何処からか舌打ちすら聞こえてくる。

 なんだか少し誇らしい。


 対して、女性陣は目を丸くしていた。

 ……わかってるよ。

 ライムと俺とじゃ釣り合わないって言いたいんだろ!?

 俺だってこいつと付き合ってるわけじゃねーわバカ!!

 っと、胸中で叫び、目を丸くする女性の一人を睨み返した。

 その女性は、俺を鼻で笑うと、傍らにいた女友達の手を引いて、俺の視界から消えて行った。

 なんだろう、この敗北感。


「ソウタ?」


 すると、ライムが屈んで、俺の瞳を覗きこんでくる。

 こいつ、こんなスタイルして屈むなんて……わかってやってんだろ!?

 俺の視線は、ライムの魅力的な谷間に縫い付けられて、離せない。


「な、なんだよ」


 必死に目を泳がせて答える俺。

 ライムはそんな俺を見て、優しく微笑んだ。


「せっかく若い子と遊ぶんだからと思って、挑戦してみたけど……。

 少し大胆だったかしら?」


「ああ大胆だ!

 身の程を弁えとけ!!」


 俺はまだ見ていたいと駄々をこねる目を閉じ、腕を組んで捨て台詞を吐いた。


「そうね、ソウタも男の子だものね」


 ライムは俺をからかうようにそう言うと、彼女の後ろに隠れているイブキに声を掛ける。


「だ、ダメです……。

 ライムさんと比べると、私なんか全然……」


「そんなことないわよ。

 きっとソウタも喜んでくれるわ」


「で、でも……」


 目を閉じているせいでわからないが、どうやらイブキがライムの後ろに隠れたまま出てこないようだ。

 確かに、こんな別嬪さんと並びたがる女の子なんて、そうそういないだろう。

 でも、イブキだって負けず劣らずの別嬪さんだと思うけどなぁ。


「もう、ほらソウタ!

 目を開けて!!」


 ライムがそう言うので、俺は片目を開けて彼女の方へと目をやる。

 俺の視線の先では、ライムがイブキの肩を後ろから掴んで、俺の方へと突き出していた。

 イブキは、俺の目の前で、恥ずかしそうに手を捏ねている。


 俺は、イブキの水着姿に、思わず言葉を失った。

 彼女が着ているのは、ピンクのフリルが付いたオフショルビキニ。

 ボトムにも、スカートのようにフリルが巻かれている。

 肩が露出していることによって、彼女の華奢な、それでいて美しいボディラインが強調されている。

 確か、これを選んだのもライムだったな。

 バストを隠すようにフリルが付けられているのは、胸元をカバーしてあげようと言うライムなりの気遣いか。

 肌はライムよりは肌色に近いが、十分白い。

 白と桃色の優しいハーモニーは、春の桜を思わせる色合いだ。

 そして何よりも、恥じらう彼女の姿が、俺の庇護欲を掻きたてた。

 なにげにいつものポニーテールがお団子になっているのも、ポイントが高い。


「……恥ずかしがらなくたっていい。

 すごく、似合ってる」


 どう声を掛けたらいいのかわからず、俺は取り合えずそう言っておく。

 別に悪い意味じゃない、イブキが魅力的過ぎて、彼女をどう褒めればいいのかわからないんだ。


「そ、そうでしょうか……?

 旦那様がそう言ってくれるのでしたら、勇気を出した甲斐がありました」


 イブキはそう言って、恥ずかしそうに笑う。

 その時、俺の中で何かが切れた音がした。


「ああああああああ!!

 イブキは可愛いなぁぁぁぁぁ!」


 気が付くと俺は、イブキ腕の中に抱きこんでいた。


「だ、旦那様!?

 は、離してください!?

 は、肌が触れあって……!?」


 口ではそう言っているけど、実は嫌がっていないんだろ?

 嫌よ嫌よも好きの内って言うしな!!


「やめてください~~!!」


 イブキは抵抗こそ見せるものの、本気で離れようとしている訳ではないようだ。

 彼女が本気になれば、メイルを纏ってなんかいない俺なんて、一瞬で蹴散らせるしな。


 そんな俺達を、ライムは笑顔で見届けていた。


 しかし――。

 不意に、俺の肩が何者かに叩かれる。

 ライムの手にしては、随分とゴツイが……。


 振り返った俺の先にいたのは、3人1組になった屈強な従業員達だった。

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