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1-3

 それからしばらく空の旅を楽しんだ俺達。

 荒廃した都市の空を飛ぶなんて、まるで遊園地のアトラクションにでも乗っているかのような気分だ。

 とてもじゃないが、現実の出来事だなんて思えない。

 目に見える荒廃した都市も、魔女ライムと名乗った女性の香りも、何も信じられないんだ。

 ……俺が死んだことさえ。


 でも、今まで俺がいた真っ暗な空間のことは、今でも覚えている。

 永遠と感じる程の時間を、そこで過ごしたことも。

 ってことは、本当にここは異世界なのか?

 夢じゃなくて?


「着いたわ」


 気付くと、俺を乗せた車は、巨大な門の前に停車していた。

 さっき見た、壁に囲まれた街への入り口……なのか?

 その門は、門と呼ぶにはあまりにもデカすぎる。

 大きさは二十メートルくらいあるんじゃないか!?


「確認しました。

 開門します」


 ピッと言う音が鳴ってから、門から聞こえる声。

 変に甲高いところから鑑みると、これ合成音声なのだろう。


 すると、俺達の車の周りを、地面から生えた青い半透明の円筒が覆っていく。

 宛ら、透明なシートで出来たトンネルだ。

 なるほど……門を開く際には、門の周りを一度バリアで覆ってから開くということか……?

 意図せぬ侵入者が、入らないようにするための処理なのだろう。


 車の周辺が完全に覆われてから、街の門が左右にゆっくりと開いた。

 その先に広がっていたのは――美しい街並み。

 美しい石畳の道にレンガ造りの建物、それを彩る花々。

 まるで、この世界の恵みを体現したかのような……。


「綺麗でしょ?」


 ライムと名乗った女性は、車を発進させつつ問いかけてきた。

 確かに綺麗だ。

 でも、なんと返事したらいいのかわからなかった。

 さっきは訳も分からず戦って、テンション上がってたからなぁ。

 

「『恵みの街』。

 みんなはそう呼んでる」


「恵みの……街……?」


 門を潜りながら眺める、美しい景色。

 門の際は背の低いレンガ造りの建物しかないが、遠くにはコンクリート? 作りのビルがうっすらと見える。


「魔力……どんなエネルギーにも変換出来るエネルギーの元……と言えばいいかしら?

 その魔力を、いくらでも生み出せる永久機関が、この街を支えているの」


「魔力?

 じゃあこの世界には、魔法があるってことか?」


 さっきの鎧や化け物達の存在から、俺の元いた世界にはなかった違う何かがあるとは思っていたが……本当に魔法とは……。

 だが、この車の内装は、殆ど元の世界と変わらないものだ。

 魔法がどうとか言っている世界の物には見えない。


「魔法とは少し違うかしら。

 正確には『魔術』って呼ばれているから」


 魔法も魔術も変わらないだろ、と内心思いつつも、俺は頷く。

 実際、技術と技法もそう変わらないし……変わらないよな?

 日本語が心配になってきた……この国の言葉が日本語か知らないけど。

 って言うかなんで普通に読めるし話せるんだよ……ってのを聞くのも、野暮な話か。


「約三百年前、悪い魔女がこの世界を破壊しつくしてね。

 その力を解析した結果、生まれたのが『魔術』」


 悪い魔女……ねぇ。

 ん? でも確か、この人も魔女だって……。


「魔女って、ライムさんもでしょ?」


 ライムさんは、左人差し指を自らの手に当て、可愛らしくウィンクをした。


「他の人には内緒よ?」


 ってことは、こいつが街の外をあんなふうにした張本人かよ!?

 いや待てよ、魔女と言っても一枚岩じゃないのかもしれない。

 たとえば、いい魔女と悪い魔女がいて、この人は世界を守る為に戦ったいい魔女とか……。

 あるいは、魔女界の裏切りものとか……。


 そんな時、ライムさんの腰辺りから、軽快な音楽が鳴り始めた。

 この感じ、元いた世界の携帯電話だ。

 この車といい、さっきの鎧といい、魔法と言うにはハイテクそうな物ばっかりだったが、まさか携帯電話まであるのか?

 しかも、車のインパネにはめ込まれている液晶? モニターには「マフル警備隊」の文字。


 ライムさんはその文字の右下に用意された受話器型のアイコンをタッチする。

 すると、男の声がインパネのスピーカーから鳴り始めた。

 ……ハイテクかよ……。


『魔女様、お戻りになったのですね』


 その声は、恐らく青年の物だろう。

 声色からして、人柄のいい好青年であることが窺える。


「ええ。

 ごめんなさいね、わがまま言って実験までさせてもらって」


 実験?

 俺を呼びだした儀式のことだろうか?


『申し訳ありませんが、今はその話をしている場合ではありません。

 緊急事態です』


「どうかしたの?」


『魔人が出現しました』


 ……魔人?

 さっき俺が倒した怪物たちの中にも、人の面影を残してるのはいたが……そいつらのことか?


「こんなにタイミングよく……!?

 場所は?」


『それが――』


 刹那、巨大な影が俺達の車を覆い隠す。

 俺がその影の主を見上げた瞬間――!!


 ズシンと言う衝撃が、車を襲った!


『マフル南門付近に!!』


「な、なんだぁ!?」


 車の外装に隠されて、影の主はよく見えない。

 だが、影の形状から察するに、翼を持っていることは確かなようだ。


『その声……まさか……!?

 召喚に成功したのですか!?』


 俺の声を聞いた電話の男が、声を詰まらせる。

 成功することがそんなに驚きなのか?

 ってことは、やっぱり俺を呼んだのは実験だったってことか。

 ……って今はそんなことどうでもいい!!


「そうよ。

 まさかこんなに早く実戦の機会が来るとはね!!」


 ライムさんは必死にハンドルを回し、謎の怪物……「魔人」と呼ばれていた奴に対抗する。

 ぐわんぐわんと回る景色の外で、街の人々が逃げ惑っていた。


 次の瞬間、魔人の絶叫。

 形容するならキシャーか? が、俺の耳を劈く。

 そして、ライムさんの抵抗虚しく、車は思い切り投げ飛ばされてしまった。


「おわあああああああ!?」


 地面を一回二回とバウンドし、付近の建物に左側……つまり運転席側から衝突する車。

 車内にあった様々なものが散乱し、フロントガラス以外の窓が砕け散る。


 あまりの衝撃に吐き気を催した俺は、止まった車内で口元を押えた。

 幸い、上下はひっくり返っていないが、早く逃げなければ……。


 なんて思った次の瞬間には、魔人の手が窓から滑り込んできた。

 翼を携える、爪を持った手。

 まるで翼竜のような……。


 そいつは俺の胸座を掴むと、シートベルトなんてお構いなしにグイッと引き寄せた。

 急激に引っ張られたシートベルトが、ガツンと止まる。


「あいたたたたた!!!!」


 強烈な力で板挟みにあった俺は、ただ痛みにもがくことしかできなかった。

 

 俺を車から引き出そうとした魔人は、シートベルトに阻まれたからか、窓の正面に立って不思議そうな表情を浮かべていた。

 その顔は、宛ら蝙蝠。

 それでいてどこか人の面影を残すそいつは、まさに魔人と呼ぶのが相応しいだろう。


「ひっ……!?」


 魔人に睨み付けられ、全身が縫い付けられたかのように固まる。

 こいつ……一体何のために俺を……!?


 その時だった。

 運転席から響く轟音。

 これは……銃声……!?


 ほぼ同時に、俺の頬を掠める何か。

 それのあまりのスピードに、俺はただ熱さを感じ取る。

 そしてそのまま、魔人の顔へと直撃した。

 

 銃弾!?

 まさか、ライムさんが!?


 しかし、魔人は怯みこそしたものの、効いた気配はまるでない。

 通常兵器が効かない……?

 まあ今の銃がこの世界の通常兵器かなんて知らないが……。


 なんて思った瞬間に、今度は大きな何かが俺の頬を掠める。

 ふわりと甘い匂いを引き連れて。


「ハァ!!!」


 魔人の顔へと食い込んだのは、ライムさんの……脚!?

 ローブに隠されていた美しい脚が、俺の顔のすぐ横から、魔人を蹴りつけているんだ。

 だが、ただの美しい脚じゃない……。

 足首には謎の六角形の機械が巻かれ、脹脛には弾帯、それ以上はローブに隠されていて見えないが、脚に垂れた布の形状から、まだまだ何かを隠し持っていることがわかる。


 その細い脚に一筋の稲妻が走ると、脹脛の弾帯から銃弾がひとりでに発射された。

 それは魔人の顔面に命中、奴をいとも簡単に吹き飛ばす。


 た、助かった?


「な、ななな……」


 思わず俺は、声を失う。

 魔人に襲われたからが一つの理由、もう一つの理由は、ライムさんがこんな武闘派だと思っていなかったからだ。

 彼女が先程放ったのはハンドガン。

 この絵面じゃあ、魔女なんかじゃなくてアクション映画のヒロインだ。


「手短に話すわ。

 恵みの街と呼ばれたこの街に、突如として謎の人食い怪物が現れ始めた。

 鉄壁の守りを持つこの街にね」


 立てつけの悪くなったドアを蹴り破り、俺を跨いで車外へ出るライムさん。

 俺はシートベルトを外し、それに続く。


「その怪物……魔人と戦うために、戦力が必要だったの。

 だから私は、あなたを呼んだ」


 吹き飛ばされた先で、魔人は体勢を立て直す。

 どうやら俺達を警戒し始めたようで、こちらの様子を窺っていた。


「フィセント・メイルを纏って戦うのが、最高にかっこいいんでしょ?

 だったらなってみない『ヒーロー』に」


「『ヒーロー』……?」


 俺は、左腕に巻かれた装置に目をやった。

 こいつがあれば、俺はかっこよく戦える。

 俺は異世界で、変身ヒーローになれる……?

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