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6-1

いつも応援ありがとうございます!!


今回は幕間劇です。

サービス回なので、後先考えずにぽんぽん投稿していきます!

『先日、マフル警備隊本部に現れた魔物は、我々市民にとって、看過することのできない脅威であると認識しております。

 そのことから、件の魔物を「特級魔蔵生物」と定め、対策を進める所存であります』


 俺は、ベッドに腰を掛けて、テレビから流れるニュースを観ていた。


 巨大な蜘蛛の魔人の襲撃から、1週間がたった。

 あれからというもの、マフルの街はその話題で持ちきりだ。

 そして今日、市長による正式な声明が発表されることとなった。


 今回公表されたことは主に4つ。

 1つは、知性を持った魔物が街に潜んでいる可能性があること。

 2つ目は、それを「特級魔蔵生物」と称し、街の脅威と認識するということ。

 3つ目は、特級魔蔵生物に対抗するため、マフル警備隊の一部組織の再構成を行うということだ。

 そしてもう1つは、それらを陰で操る黒幕(テロリスト)がいるということ。

 まあ4つ目に関しては、魔女ルイスに全部を押し付けて終わりなのだが。


 この会見によって、特級魔蔵生物……つまりは魔人の存在が明るみに出た。

 だがあくまでも「人に化ける魔物」がいるということは公表しなかった。

 もしそんなことが公になれば、人々は隣人をも信用できなくなる。

 所謂「魔女狩り」の様な事が起こらないようにするためだろう。


 そうだ……。

 1週間前に現れた蜘蛛の魔人には、人間社会に溶け込める程の知性があった。

 俺は、そいつを殺した……俺のヒーローごっこ、つまりは遊びで。

 魔人を命と呼んでいいのかはわからない。

 だけど、あいつは俺となんら変わらない、心を持っているように感じた。


『呪ったわよ……。

 ヒーローごっこで……遊びで全てを奪われる……こんな運命』


 魔人が、最期に放ったこの言葉が、俺の胸を何度も何度も突き刺した。


 俺は胸の痛みを押えるかのように、俺の膝に座っていたイブキを思い切り抱きしめる。

 彼女の頭に顎を乗せ、後ろから全身で包み込んだ。

 イブキから香る甘い香りが、俺の心の傷を癒していくようだった。


 俺は心が傷ついただけだ。

 でも、あの魔人は、もう傷つくことも出来ない。

 俺の所為で……。


 魔人を殺めてしまった自責の念と、それから解放されたいと願う俺の心、そして、殺人を正当化しようとする俺の思考が、胸のあたりでぐちゃぐちゃに混ざり合う。


『――対策としまして、現在『魔蔵生物対策課』の再編を計画しております。

 詳細は追って発表いたしますが、再編まで2カ月ほどの時間を要します。

 再編が完了するまでは、マフル防衛軍の協力の下で、特級魔蔵生物の対処を致します』


 テレビで会見を開いている人物は、マフル警備隊長官。

 まったくの別組織となる防衛隊が、警備隊の下で動こうとするだなんて、よっぽどのことがなければありえないだろう。

 そのよっぽどのことが、この前の魔人の出現なのだ。

 300年間隠し通してきた「魔力に感染した人間」の真実が世間に知れたら、マフルのお偉方の評判はガタ落ち。

 街はパニック……とまではいかないが、人々の安息は失われてしまうだろう。


 テレビから度々聞こえる「魔蔵生物」とは、この街で定められた魔物の正式名称である。

 魔人はこれから特級魔蔵生物と呼ばれるようになる……らしいが、おそらく事情を知る人間の間では「魔人」で通じるのだろう。

 だって奴らは、実際に人の心を――。 


「ソウタ!!!!!」


 不意に眉間に走った痛みに、ぼやけていた俺の視界が鮮明になる。

 外界と遮断されていた聴覚が、聞き慣れたライムの声を捉えた。


「ん?

 どうした?」


 突然怒鳴りかけてきたライムに、俺は眉を顰める。

 どうやら、彼女は俺にデコピンをしてきたようだ。


「どうした?

 じゃないわよ!

 イブキちゃんが困ってるじゃない!!」


 俺は顎をイブキから離し、彼女の顔を覗き込んだ。


「あ、ああ。悪い」


 俺の股の間に座っていたイブキは、まるで透き通るような瞳で俺を見つめてから、俺に体を預けてきた。


「旦那様にこうされることに、困っている訳じゃありません。

 旦那様に元気がないと、私まで元気がなくなってしまうんです」


 本当に元気がなさそうに、イブキは言う。

 こう言ってくれる人がいるだけで、俺は悩みを忘れることが出来る。

 本当は、忘れてはいけないことなのに。


「……そっか」


「まったく。

 ソウタがそんな調子だから、ちょっとしたサプライズを用意したわ」


 ライムは自信満々にポケットから何かを取り出す。

 言ってしまったらサプライズとは言わないと思うのだが……まあ黙っておこう。


 ジャン、という声と共に、ライムが俺達に差し出したのは、何かのチケット?

 3枚あるということは、ここにいる人数分用意されているということか。

 そのチケットに書かれていた文字は……。


「『オーシャン・セントラル』?

 温水プールか?」


「そう!

 ソウタが元気ないってリユちゃんに言ったら、特別に用意してくれたの!」


 俺の為と言っておきながら、ライムが一番楽しみにしているように見えるが……まあこれも言わないでおこうか。


「温水プール?」


 俺の腕の中で、イブキが可愛らしく首を傾げる。

 そっか。この前はイブキの故郷にも、缶詰くらいあると言っていたが、流石に温水プールまではないのか。


「う~ん……なんつったらいいんだか……。

 海で遊んだことはあるか?」


「川でなら少し……」


 俺の言う遊びと、イブキの中の遊びに相違がなければいいが……。

 まあ伝わっていると信じよう。


「その水遊びを、室内で楽しめるようにしたのが、温水プールだ」


「な、なるほど?」


 この説明で伝わるよな?

 すると、ライムは人差し指を立てて、イブキにずいと顔を近づける。


「しかも、それだけじゃないのよ!!

 すっごく広いところで、おいしい食べ物とかも沢山あって、大きな滑り台とかもあって、とにかく楽しいところなんだから!!」


 このはしゃぎよう、本当にライムが行きたいだけなんじゃないか?

 まあでも、元の世界でも色々な……主に金銭的な都合から、行く機会はなかったからな。

 俺も行ってみたい気持ちはある。


「美味しいものがたくさんある、楽しいところ……?

 室内で、水遊び……?」


 イブキは、天井を見上げながら、温水プールがどんなものなのか想像しているようだ。

 正直、俺とライムの説明をそのまま受け止めれば、理解は出来る筈だが……。

 すると、イブキはまるで電球が付いたかのように、ピクリと身を震わせる。


「わかりました!!

 お刺身天国ですね!!」


 こうして俺は、また一つ賢くなった。

 この世界にも、刺身はある。

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