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今回は幕間劇です。
サービス回なので、後先考えずにぽんぽん投稿していきます!
『先日、マフル警備隊本部に現れた魔物は、我々市民にとって、看過することのできない脅威であると認識しております。
そのことから、件の魔物を「特級魔蔵生物」と定め、対策を進める所存であります』
俺は、ベッドに腰を掛けて、テレビから流れるニュースを観ていた。
巨大な蜘蛛の魔人の襲撃から、1週間がたった。
あれからというもの、マフルの街はその話題で持ちきりだ。
そして今日、市長による正式な声明が発表されることとなった。
今回公表されたことは主に4つ。
1つは、知性を持った魔物が街に潜んでいる可能性があること。
2つ目は、それを「特級魔蔵生物」と称し、街の脅威と認識するということ。
3つ目は、特級魔蔵生物に対抗するため、マフル警備隊の一部組織の再構成を行うということだ。
そしてもう1つは、それらを陰で操る黒幕がいるということ。
まあ4つ目に関しては、魔女ルイスに全部を押し付けて終わりなのだが。
この会見によって、特級魔蔵生物……つまりは魔人の存在が明るみに出た。
だがあくまでも「人に化ける魔物」がいるということは公表しなかった。
もしそんなことが公になれば、人々は隣人をも信用できなくなる。
所謂「魔女狩り」の様な事が起こらないようにするためだろう。
そうだ……。
1週間前に現れた蜘蛛の魔人には、人間社会に溶け込める程の知性があった。
俺は、そいつを殺した……俺のヒーローごっこ、つまりは遊びで。
魔人を命と呼んでいいのかはわからない。
だけど、あいつは俺となんら変わらない、心を持っているように感じた。
『呪ったわよ……。
ヒーローごっこで……遊びで全てを奪われる……こんな運命』
魔人が、最期に放ったこの言葉が、俺の胸を何度も何度も突き刺した。
俺は胸の痛みを押えるかのように、俺の膝に座っていたイブキを思い切り抱きしめる。
彼女の頭に顎を乗せ、後ろから全身で包み込んだ。
イブキから香る甘い香りが、俺の心の傷を癒していくようだった。
俺は心が傷ついただけだ。
でも、あの魔人は、もう傷つくことも出来ない。
俺の所為で……。
魔人を殺めてしまった自責の念と、それから解放されたいと願う俺の心、そして、殺人を正当化しようとする俺の思考が、胸のあたりでぐちゃぐちゃに混ざり合う。
『――対策としまして、現在『魔蔵生物対策課』の再編を計画しております。
詳細は追って発表いたしますが、再編まで2カ月ほどの時間を要します。
再編が完了するまでは、マフル防衛軍の協力の下で、特級魔蔵生物の対処を致します』
テレビで会見を開いている人物は、マフル警備隊長官。
まったくの別組織となる防衛隊が、警備隊の下で動こうとするだなんて、よっぽどのことがなければありえないだろう。
そのよっぽどのことが、この前の魔人の出現なのだ。
300年間隠し通してきた「魔力に感染した人間」の真実が世間に知れたら、マフルのお偉方の評判はガタ落ち。
街はパニック……とまではいかないが、人々の安息は失われてしまうだろう。
テレビから度々聞こえる「魔蔵生物」とは、この街で定められた魔物の正式名称である。
魔人はこれから特級魔蔵生物と呼ばれるようになる……らしいが、おそらく事情を知る人間の間では「魔人」で通じるのだろう。
だって奴らは、実際に人の心を――。
「ソウタ!!!!!」
不意に眉間に走った痛みに、ぼやけていた俺の視界が鮮明になる。
外界と遮断されていた聴覚が、聞き慣れたライムの声を捉えた。
「ん?
どうした?」
突然怒鳴りかけてきたライムに、俺は眉を顰める。
どうやら、彼女は俺にデコピンをしてきたようだ。
「どうした?
じゃないわよ!
イブキちゃんが困ってるじゃない!!」
俺は顎をイブキから離し、彼女の顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。悪い」
俺の股の間に座っていたイブキは、まるで透き通るような瞳で俺を見つめてから、俺に体を預けてきた。
「旦那様にこうされることに、困っている訳じゃありません。
旦那様に元気がないと、私まで元気がなくなってしまうんです」
本当に元気がなさそうに、イブキは言う。
こう言ってくれる人がいるだけで、俺は悩みを忘れることが出来る。
本当は、忘れてはいけないことなのに。
「……そっか」
「まったく。
ソウタがそんな調子だから、ちょっとしたサプライズを用意したわ」
ライムは自信満々にポケットから何かを取り出す。
言ってしまったらサプライズとは言わないと思うのだが……まあ黙っておこう。
ジャン、という声と共に、ライムが俺達に差し出したのは、何かのチケット?
3枚あるということは、ここにいる人数分用意されているということか。
そのチケットに書かれていた文字は……。
「『オーシャン・セントラル』?
温水プールか?」
「そう!
ソウタが元気ないってリユちゃんに言ったら、特別に用意してくれたの!」
俺の為と言っておきながら、ライムが一番楽しみにしているように見えるが……まあこれも言わないでおこうか。
「温水プール?」
俺の腕の中で、イブキが可愛らしく首を傾げる。
そっか。この前はイブキの故郷にも、缶詰くらいあると言っていたが、流石に温水プールまではないのか。
「う~ん……なんつったらいいんだか……。
海で遊んだことはあるか?」
「川でなら少し……」
俺の言う遊びと、イブキの中の遊びに相違がなければいいが……。
まあ伝わっていると信じよう。
「その水遊びを、室内で楽しめるようにしたのが、温水プールだ」
「な、なるほど?」
この説明で伝わるよな?
すると、ライムは人差し指を立てて、イブキにずいと顔を近づける。
「しかも、それだけじゃないのよ!!
すっごく広いところで、おいしい食べ物とかも沢山あって、大きな滑り台とかもあって、とにかく楽しいところなんだから!!」
このはしゃぎよう、本当にライムが行きたいだけなんじゃないか?
まあでも、元の世界でも色々な……主に金銭的な都合から、行く機会はなかったからな。
俺も行ってみたい気持ちはある。
「美味しいものがたくさんある、楽しいところ……?
室内で、水遊び……?」
イブキは、天井を見上げながら、温水プールがどんなものなのか想像しているようだ。
正直、俺とライムの説明をそのまま受け止めれば、理解は出来る筈だが……。
すると、イブキはまるで電球が付いたかのように、ピクリと身を震わせる。
「わかりました!!
お刺身天国ですね!!」
こうして俺は、また一つ賢くなった。
この世界にも、刺身はある。




