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5-7

主人公視点に戻ります。

 壁から屋上へと這い出てきた魔人が、8つもある目を俺に向ける。

 この魔人は、ライムを「お目当て」と言っていた。

 の割には、ライムに逃げられても、随分と余裕をこいている。

 自由になったとはいえ、今のライムは燃料切れだ。

 本気で襲えば、もう一度ライムを攫うことが出来るかもしれないと言うのに。

 もっとも、そんなことは俺が許さないが。


「ライムなら、もう逃げたぞ。

 追わなくてもいいのか?」


「あら、正義のヒーロー様が、そんなこと言っていいのかしら?

 どうせ、私を見逃してはくれないのでしょう、仮面の騎士様?」


「よくわかってんじゃねぇか」


 蜘蛛の魔人は、まるで諦めたかのように溜息を吐いた。


 それらの挙動は、まるで人間そのものだ。

 知性を持った魔人か……。

 これまでも、人間に姿を変えて潜んでいる魔人はいた。

 しかし、自我を持って行動している個体は、300年前に数体が確認されたのみらしい。

 一体どれだけの人を食べれば、ここまでの知性を手に入れられるのか。

 そして、自我に目覚めるまで、どうやってやりくりして来たのか、疑問が残る。

 まさか養殖……なんてことはないよな。


 いや、その可能性も十分考えられる。

 根拠は、奴の所持している魔力兵装だ。

 この街の中では、魔装はかなり珍しい部類に入る。

 持っているのは、一部の警備隊と、防衛隊くらい。

 街の外で手に入れていたとしても、マフルの門を潜ることは出来ないだろう。

 となると、魔装の入手経路として考えられるのは一つ。

 こいつのバックに、でかい何かがいるってことだ。


 捕えて拷問でもすれば、情報を吐かせられるか?

 ……いや、やめよう。

 まず、殺さずに勝てる相手じゃない。

 そして、仮に捕えることに成功しても、魔人のバックにいる奴らが、情報が漏れることの対策をしていない訳がない。

 よくて自決。最悪の場合、とんでもない爆弾を隠し持ってる可能性もある。


「それにしても、まさかあなた達が手を組むとはね。

 グレイス……そして、バーズシング」


 蜘蛛魔人は、俺とナルを交互に見ながら言った。

 グレイスは俺のメイルの名前だが、バーズシングってのは?

 それが、ナルの使ってるメイルの名前なのか?

 俺の知らない情報まで知っているなんて、こいつ本当に何者だ?


「随分と物知りだな。

 ゴシップ記事でも書けば、売れるんじゃねぇか?」


「いいわね、それ。

 じゃあ、取材協力をお願いしたいのだけど?」


「わかったよ。

 それとナル、ジャンプしろ」


 俺はナルの方へと振り向き、そう呼び掛けておく。

 俺の一言に疑問を抱く様子もなく、ナルはすぐさまその場でジャンプした。

 まるでロボットだ。


 ダァン!!


 一拍遅れて、ナルが立っていた場所に、四方から対メイルライフルの銃弾が襲い掛かった。


 魔人は俺と話している間に、ゆっくりと対メイルライフルの銃口を動かして、ナルに狙いを定めていた。

 会話をしながら、ゆっくりと操作することで、俺に気付かれないようにしたのだろう。

 だが俺も、そんなのに騙される程、バカじゃない。


 ナルは、自分に発砲したライフルの内、2つを撃ち落とした。

 その後彼女は、その場でキョロキョロと辺りを見渡し始める。

 ライフルが発砲され次第、撃ち落とすつもりなのだろう。


「んじゃ、取材協力だ。

 テーマは、俺の強さについて!!!!」


 俺は一足飛びで魔人へと迫る。

 さっきは脚の硬さを知らず、有効打を与えられなかったが、今度は違う。

 今の俺の目的は、敵の撹乱だ。

 

 今ナルは、四方八方から対メイルライフルに狙われている。

 水の魔力じゃ、不可視の銃を探知することは出来ないからだ。

 もっと頭を使えば出来るかもしれないが、ロボットのようなナルに、そんな柔軟性を求めるのは酷だろう。

 だったら、ライフルを制御する蜘蛛の魔人の目を引き付ければ、必然的にライフルの精度も悪くなる筈だ。

 後はナルが隙を見て、蜘蛛の魔人を撃ち抜いてくれればいい。


「オラよ!!」


 俺は横薙ぎの一閃を、魔人の足に繰り出す。

 だが、案の定その一撃は弾かれる。

 そんなことは承知の上。

 俺は魔人の周りを走りながら、何度も奴の足を斬りつける。

 本当は上半身を攻撃したいところだが、今迂闊にジャンプすれば、対メイルライフルの的だ。


「あなたの剣じゃ、私の足に傷を付けることは出来ない。

 さっき学ばなかった?」


 だが蜘蛛の魔人は、まったく動じていない。

 残っている対メイルライフルの銃口を、ナルに向けたまま、一斉に発砲した。


「ナル! 伏せろ!!」


 ナルも、俺の声に従えばいいと学習したのか、すぐさましゃがみ込む。

 銃弾は、ナルの頭上を通過した。

 事なきを得たか……。


 だが――。

 俺の間の前の魔人が、俺を挟むかのように、左右の前足を振り上げていた。


「しまった!?」


 左右には避けられない。

 後ろもダメだ、ここからバックステップしたところで、奴の足からは逃れられない。

 でもジャンプしたら……。

 いや、背に腹は代えられない!!


 俺は蜘蛛魔人から距離を取るようにジャンプした。

 だが、その一瞬を魔人が見逃してくれるはずもない。

 前後左右に残っていた対メイルライフルが、一斉に俺の方へと狙いを定める。

 ジャンプしているこの状況で発砲されたら、流石のフィセント・メイルだって避けられない。

 一撃で俺を数メートル吹き飛ばす銃弾だ。

 全周囲から喰らったら、それこそ体が持たないんじゃ……!


 蜘蛛の魔人は、口角を上げ、ライフルを発砲した。


 ダァン!!!!!!!

 四方から放たれた銃弾が、俺へと突き進んでくるのを感じる。

 空中じゃ避ける術もない。

 万事休すか……。


「なんちゃって」


<Gail Drive>


 冷たい電子音声と共に、暴風が俺の身体の周りで暴れ出す。

 ビルそのものを揺さぶるほどの暴風が、俺の纏う鎧の色を変えていく。


 そして――。


「まぁがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 全身全霊を持って、風の魔力をコントロール。

 銃弾を減速させ、軌道を逸らす。

 そして、全ての銃弾を、別々の対メイルライフルに命中させた。

 雷のコンバータを装着している最中に、対メイルライフルの位置は把握済みだ!


 周囲の対メイルライフルが撃ち抜かれ、地上へと落下していく中、俺は堂々と着地した。


「な、なに!?

 いつの間にコンバータを!?」


 蜘蛛魔人は、目を見開いた。

 ようやく一杯食わせられたってわけだ。 


「残念ながら、ライムをぶん投げた時に、コンバータだけ変えといたんだよ。

 獲物からは目を離すなってね」


 タイミング的には、ぶん投げた直後。

 対メイルライフルに狙われる直前だ。

 その時はまだ、爆風の余波が残っていたため、エレメントシフトの電子音は聞こえないと踏んだ故の行動だ。


「こいつに差し替えてから、生み出される魔力は、全部風の魔力になる。

 雷の魔力を無駄使いしないように、風の魔力を悟られないように立ち回るのは、苦労したよ」


 俺は魔断剣を地面に突き刺し、腰のコンバータホルダーから雷のコンバータを取り出す。

 そして、それをメイルドライバーに刺さっている風のコンバータと入れ替えた。


「ナル、もう脅威はなくなった。

 好きなだけ撃っていいぞ」


<Element shift>


<Electric Drive>


 メイルが、雷のエレメントに切り替わる。

 俺は全身を包む鎧の色が、青と金色変わってから、魔断剣を引き抜いた。

 同時に、メイルドライバーの外装が上下にスライドする。

 充電完了だ!!


「そう。一杯食わされたってわけね――!!」


 ナルの容赦ない銃撃が、魔人を襲う。

 奴はそれを器用に躱しつつ、左に移動し始める。


 もう脅威はなくなった。

 電磁波に引っ掛かるのも、宙に浮いたサブマシンガンだけ。

 なら後は、責め立てるだけだ!!


 さっきは撹乱を目的に、奴へと近づいたが、今度は違う。

 最初から足に攻撃が入らないなら、奴の正面に一気に接近し、そこから蜘蛛の頭部に当たる部分へと攻撃を仕掛ける。

 奴が何か隠し持っていようと、何かあればすぐにナルのフォローが飛んでくる。


 俺は一直線に魔人へと進んだ。

 魔人は迎撃したいだろうが、ナルの銃撃を避けるのに必死のようだ。

 魔人は身を捻って、器用に銃撃を躱しているが、ある地点で立ち止まる。

 同時に、ナルの圧縮水が、魔人の脇腹を掠った。


「ぐっ!?」


 その痛みからか、魔人の動きが一瞬止まる。

 この好機、逃がすものか!!


 俺は刀を左下に構え、一気に魔人へと距離を詰めた。

 後は蜘蛛の頭に突き立てるだけだ!!


 刹那――。

 ドゴォン!!!!

 俺の足元から、爆音が響き渡る。

 そして、次の瞬間には、俺は上空に投げ出されていた。


「な!?」


 まさかこいつ、地雷か何かを!?

 今まで俺が立っていたところを見ると、巨大な穴が開いている。

 その中……つまり、ビルの最上階にいたのは、上を向けて設置された、筒状の兵器。

 さっき蜘蛛の魔人が担いでいたものだ。

 まさか、これが狙いで被弾した振りを!?

 

 空中で成す術のない俺の下で、蜘蛛の魔人は呟いた。


「まずは一人……」


 ……どうする?

 このままじゃ、魔人にぶっ殺されるか、あるいは拘束されて終わりだ。

 今から風のコンバータに切り替えるか?

 ダメだ、そんな隙は与えちゃくれないだろう。

 どうする……どうすればいい……!!

 賭けになるが、必殺技をぶっ放してトドメを指すか……!?


 その時――。


<Finally Drive>


 ナルのメイルドライバーから、冷たい電子音声が響いた。

 彼女の持つ銃口に、羽を広げた鳥のような形をした水の塊が姿を現す。

 銃口から顔を出した鳥は、遠目にはボウガンのようにも見えた。


 バカかよ!?

 いくら対メイルライフルを潰したって、マシンガンは大量に残ってる。

 もしその一撃で倒しきれなきゃ、生身になったところを蜂の巣だ。


 ……ああわかったよ。

 ナルがその気なら、俺もやってやる。

 ナルが蜂の巣にされないようにするには、とっとと奴をぶっ潰して、銃の制御を封じる以外にない!!


 俺はメイルドライバーの外装を押し戻した。


<Finally Drive>


 魔断剣を左腕のウェポンラックに収め、メイルドライバーに全魔力を集中させる。


 電子音に反応した魔人が、目を見開いて俺を仰ぐ。

 ナルが必殺技を撃とうとしてるってのに、俺の方を向くなんて、バカな奴だ。


 ズバァン!!

 待ってましたと言わんばかりに、ナルの放った鳥が奴の8本の足を切り抜ける。

 魔断剣ですら斬れなかった足をだ。

 まるでだるま落としのように蜘蛛の腹から落下した魔人は、成す術もなく俺を見上げていた。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 最後のあがきとばかりに、上を向いていた筒状の兵器が、俺へと魔力の砲弾を放つ。

 お互いの必殺技のぶつかりあいってところか!!


 俺は、左腕のウェポンラックを魔人に向け、魔断剣を射出した。

 回転しながら突き進む剣は、魔力の砲弾に刃を突き立てた。

 空中で繰り広げられる、魔力と魔力のぶつかり合い。

 耳を劈く轟音に、瞳を突き刺す光。

 それらが混ざり合った渦の中に、俺と魔人の運命が掛かっていた。


 悪あがきとばかりに、魔人は残っていたマシンガンを俺へと発砲する。

 だが、そんな豆鉄砲には動じない!!


 必殺技なんだ、俺の持つすべての魔力を、奴に注ぎ込んでやる!!

 俺は右足を突出し、落下を用いて蹴りを繰り出す。

 狙うのは、先程俺が射出した剣!


 これが、俺の必殺技!!


創星の雷光(エレクトリック・ノヴァ)!!!!!!!!!」


 俺の蹴りによって、魔断剣は魔人の放った砲弾を切り裂く。

 そして、蜘蛛の魔人の胸を、思い切り貫いた。


 俺の蹴りによって奴の上半身は、地面へと叩き付けられる。

 まるで地面と魔人の身体を縫い付けるように、魔断剣は魔人を串刺しにした

 その柄の上に立ちながら、俺は大きく息を吐いた。


 まだメイルが解除されないうちに、跳躍して奴の近くから退避する。

 トドメを指したつもりだが、蜘蛛の魔人はまだ動けるようだ。


「……呪うんだな、俺に出会った運命を」


 蜘蛛の魔人は、力の入っていない腕で、何度も何度も魔断剣を抜こうと試みていた。

 だが、地面にも深く突き刺さっている物が、簡単に抜けるわけがない。


「呪ったわよ……。

 ヒーローごっこで……遊びで全てを奪われる……こんな運命」


 そして、俺のメイルが消失するとほぼ同時に、魔人の身体は爆ぜた。

 一筋の稲妻が、奴の身体から空へと消えていく。


 蜘蛛の魔人がいた場所に残っていたのは、黒焦げになった女性の遺体だけだった。

 恐らくは、奴が喰らった被害者の一人……。


「……奪おうとしたのは、お前も同じだ」


 俺は自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。


「御苦労さま。

 よくやってくれたわね」


 突如、掛けられた声。

 声の主のいる方に目をやると、魔女ルイスの姿があった。

 丸いスライムに座って、屋上まで浮かんできたようだ。


「あんたのためじゃない」


「わかってるわよ。

 今回は、ライムのため」


 ナルは、何の躊躇いもなく、ルイスの丸いスライムへと飛び込んだ。


「あんたにはまだ、利用価値がありそうね。

 今日みたいな『例外』が現れた時なんかに

 今回は見逃してあげるわ。

 出来る事なら、もう敵対はしたくないけれど」


「それはこっちのセリフだ」


 ルイスは、ニヤリと笑うと、スライムをふよふよと浮遊させ、ゆっくりと屋上から去っていった。


 あいつは、何故俺達に見方をした?

 あいつらの目的はなんだ?

 聞きたいことは山程ある。

 だが、聞いたところで教えてはくれないだろう。

 それに、あいつとの戦いを続けるなら、嫌でも知る日が来るはずだ。


 俺は大きくため息を吐いてから、屋上の出口へと向かった。

 しかし――。


「な、なんだこれ」


 蜘蛛の魔人が張った糸の所為で、扉はガチガチに固められていた。

 侵入者を防ぐためだろう。


「これ、どうやって降りるんだよ……」


 魔人が張った糸の所為で、本部は大騒ぎって言ってたな……。

 ってことは、誰かがこの糸を切るまで、俺は降りれないということか。

 ライムが無事かも気になるし、早く戻りたかったんだが、仕方ない。

 俺は地面に座り込み、扉に背中を預けた。


 晴天の下、太陽の光が燦々と降り注ぐ。

 その光に照らされる焼けた遺体に、俺は目をやった。


 ……あの魔人が、最後に放った言葉。

 それに乗せられた「彼女」の気持ちが、俺の心を突き刺すようだった。

エピローグを投稿予定です!!

総合評価50ポイントを超えました!

応援ありがとうございます!!!

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