4-0
俺・如月 蒼汰に父親はいなかった。
俺が生まれる前に、行方不明になったらしい。
母親はいた。
だけど、母親から愛を注がれることはなかった。
俺は、望まれた子供ではなかったから。
母親は、何も授けてくれなかった。
だから、俺が持つすべては、俺が自分自身で勝ち取ったものだった。
幸い、日本という国は学歴と金さえあれば何とかなる。
金なんてバイトすれば稼げるし、勉強だって必死にやれば何とかなる。
俺はただ、母親の様な人間にはなりたくなくて、毎日死ぬ気で努力をしてきた。
頑張って、成績を維持した。
頑張って、友人を作った。
頑張って、教師に気に入られた。
だけど、頑張って何かを手に入れる度に、脳裏を過る言葉があった。
「努力して、その先に何がある?」
でも少なくとも、今よりはマシな生活に繋がると信じて、努力をし続けた。
俺は他人と同じスタートラインに立つ為に、死力を尽くしたんだ。
そして、そこからまた努力をしなければならない。
理不尽? ああそうさ、理不尽さ。
そりゃそうだ。こんなに理不尽なことはない。
だけど、世の中ってのはそんなもんだ。
俺の家には、金はないけどテレビはあった。
母親がいない隙にニュースを観て、時事問題や流行に触れる機会を作っていた。
母親はバラエティしか見ない。
だから、どちらかというとテレビは勉強の邪魔だった。
でも、俺が唯一、純粋に楽しんでいた番組があった。
日曜の朝などに放送していた「特撮ヒーロー」だ。
それに登場するヒーロー達は、俺よりもよっぽど酷い境遇に立ちながら、誰かの為に戦っていた。
だから俺は「ヒーロー」に憧れた。
俺にはとても、そんなことは出来なかったから。
でも今は違う。
今の俺には、マフルの街が授けてくれたものと、他人を守る力がある。
ライムと、そしてイブキがいる。
俺は、ヒーローにならなくちゃならないんだ。
それが、俺が俺に求める姿だから。