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3-3

「ふ~ん。覚えていてくれたんだ。

 ライムお姉ちゃん?」


 やっぱり、こいつは魔女だ!

 俺は、すぐさま身構えた。

 メイルを纏ってない俺なんて、構えようが何も変わらないだろうが。


「ルイス!! どうしてこんなところに! みんな心配していたのよ!」


 これまで俺達を攻撃していたと思われる奴相手に、気さくに話しかけるライム。

 そりゃ、ライムにとっちゃ旧知の仲だから、俺の持つ第一印象とは違うだろうけど。


「これまでどこで何をしていたの? 無事だったなら連絡くらいして!」


「……口うるさいのは変わらないね」


 ライムの奴……昔からこうだったのか……。

 ってそんなことはどうでもいい!

 今目の前にいるのは敵かもしれないんだ。


「それにしても、運命的なタイミングね。

 私達、水の力を使う何者かに攻撃されて、此処まで落とされてしまったの。

 でも同じ、水の力を使うあなたがいてくれれば――」


 ライム、何言ってるんだ……。

 どう考えたって、今の攻撃はコイツがしてきたものだろ?


「おいライム!! 何考えてんだ!! 今のは、こいつの攻撃だ!!」


「おかしなこと言っているのはソウタの方よ。だってルイスよ!

 私と一緒に『眠れる森』と戦った、私の友達。ねえ、ルイス」


 ライムはどうやら、本気でルイスを疑っていないらしい。

 まあ、一緒に命を懸けて戦った戦友だ。

 信用しきってる気持ちはわからなくはないが、今のライムはどちらかというと、事実を飲み込もうとしていないだけだ。


「友達……ねえ。

 どの口が言うの?」


「……ルイス?」


 やっぱり、ルイスは俺達に敵意を持っている。

 ってことはさっきのはコイツの仕業で間違いない。


「それじゃあ、お前が例の魔人か? よく喋るもんだ」

「魔人……? ああ、これの事ね」


 そう言ってルイスが投げ捨てたのは、西洋鎧の兜……?


「こいつがいるってことは、あんたたちが来るってこと。

 でも邪魔だから片付けといたわ」


「へっそいつはありがたいね」


 ってことは、この兜を纏っていた魔人が、フィセント・メイルと間違われたってことか……?


 そんな時、俺達の後方に、2台の警備隊の車両が着地した。

 その中から、ぞろぞろと警備隊が出てきて、俺達とルイス取り囲む。


「おとなしく投降しろ! 少しでも罪を軽くしたいのならな」


 こいつら……そんな場合じゃないってのに!

 だが、警備隊員とはいえ、俺達には関係のない人間だ。

 いたずらに傷つける訳には行かない。


 指揮系統がマヒしているのなら、俺達と繋がりのある警備隊のボスからの指示も通達されないのだろう。

 どう対処するか、考えている時、ルイスは一言


「邪魔よ」


 と呟いた。


 その瞬間、彼女の周りから突如現れた水が宙を舞い、警備隊員達を包み込んでいく。


「こ、これは――!」「な、なんだ、うわぁ!?」


 次の瞬間には、警備隊員達全員、球状の浮遊する水の中に飲みこまれてしまっていた。


「な、何をしてるの……ルイス!!」


「だって、邪魔でしょ? こいつら。

 せっかく友達との感動の再開だっていうのにさ」


 友達、の部分をやたら強調しながら、彼女は言う。

 このやり口、まともな奴じゃねぇ。


「やめろ! 溺れ死んじまうだろ!!」


「いいじゃん、死んだって。どうせ私達には関係ない人たちでしょ?」


 ルイスは悪びれもなく、宙に浮かぶ水の球を合体させたり、ぶつけあったりしながら遊んでいる。

 どうにかしようにも、今の俺には何もできない。

 ライムにメイルを始動してもらわなければ。

 だが肝心のライムは、現実を飲み込めていない様子だった。


「ルイス……どうしたのよ、ルイス!!

 あなたはそんな子じゃなかった。

 いたずら好きで、いっつも人に迷惑を掛けていたけど……誰よりも友達思いで、優しくて――」


「300年もあれば変わるよ。変わらないのはライムくらい。ねぇ」


「おいライム! 目を覚ませ!

 俺はこいつがどんな奴だったかなんて知らない。

 今の俺にとっちゃ、こいつは敵だ!!」

 俺の言葉を聞いたルイスは、ピクリと眉を動かした。


「敵……?」


 そして、宙に浮かんでいる無数の水の球の内、一つを脇の建物に叩き付けた。

 水に包まれていた隊員が、壁に背を打ち、そのままぐったりと倒れこむ。

 ……気絶であってくれよ、と俺は願うことしかできなかった。


「敵? 力を振るうことに快楽を見出した男が、随分と大きな口を聞くね。

 これだから人は、傲慢で嫌になる」


 このガキ……好き放題言いやがって……!


「ソウタは力に溺れてなんていない! 

 だって、魔人を倒すのに協力してくれている、街の為に戦ってくれているの!!」


「それが……傲慢だって言ってるの!!」


 ルイスの叫び声と共に、浮遊していた水の球が弾ける。

 そして、それらすべてが、水の激流となって、俺達に襲い掛かった。


「ライム!!」


 俺はライムに飛び掛かって、激流をギリギリで躱す。

 ヒヤリと冷たい水の流れが、俺の頬を擦過した。


 ライムを押し倒す形で、何とかルイスの一撃を躱す。

 今まで水の球に溺れていた警備員たちは、動けない様子で道路に横たわっていた。


 ルイスは、人を物としてしか考えていない。

 それに、何故だか知らんが、ライムを憎んでいる様に見える。

 もうあいつは説得できないと悟った俺は、ライムに左腕を差し出した。


「メイルの始動を頼む。あいつは話が通じる相手じゃない」


「でも……!」


「やるんだ!!!」


 ライムは小さく頷くと、ゆっくりと俺の左腕を抱き寄せた。


「フィセント・メイル。それを使ってどうするつもり?」


 ルイスは、俺に問う。なんて答えがかえってくるのか、わかっている様子で。


「お前をとっ捕まえて説教してやる!

 腑抜けた魔女の代わりにな!!」


「……そう。なら、私も紹介しなくちゃいけないね。

 あんたが死んだ後、この街を護るヒーロー……いや、ヒロインを」


「……俺が、死ぬ?」


「ええ、ここでね」


 何の冗談だと笑い飛ばそうとしたが、ルイスの目は本気だ。

 本気で、俺を殺すつもりだ。

 

 今までは、ただのヒーローごっこだった。

 勝てる戦いをするだけのワンサイドゲーム。

 しかし今になって、死という言葉が、俺に向けられた。

 考えたこともない死の可能性に、俺は背筋を凍らせた。


「へぇ? どいつが俺を殺すんだ?」


 俺は、震えを悟られないように、やせ我慢で身を塗り固める。

 だが、ルイスは、俺の奥に眠る恐怖心など、お見通しのようだった。


「どいつ? さっきすぐ近くにいるじゃない」


「すぐ近く……?」


 俺は、辺りをキョロキョロ見渡した。

 周りにいるのは、びしょ濡れになって倒れている警備隊員達のみ。

 それ以外にいるのは、ライムと俺と、ルイスだけ。

 ……いや、もう一人いる……。いや、いた。

 いつからいたのかわからない、だけど、さっきからずっといた、だけど、何故だか俺はそれを認知できなかった。

 

 ルイスの隣で、まるで人形のように佇む妙齢の女性。

 黒い髪を肩まで伸ばした彼女は、まるで微動だにしない。

 生気の宿っていない瞳は、見る物に恐怖を植え付ける。

 こいつ、本当に人間か? それが俺の第一印象だった。


「ナル。命令よ。こいつを、殺しなさい!」


 ナルと呼ばれた女性に、ルイスが差し出したのは、ナックルガードのついた柄。

 いや、銃のグリップにも見える。

 それを見た瞬間、黙って俺に魔力を注入していたライムが、驚愕の声を上げた。


「あなた……それ!?」


「ん? あんたたちはいつも使ってるじゃん。別に珍しいものでもないでしょ?」


 そして、ルイスはその柄を、ナルに手渡した。

 それから、その柄に向かって、魔力を注入していく。


 その光景に、俺も合点が付いた。

 あれは、まさか。


「フィセント・メイル……!?」

 

 ってことは、ここで警備隊員を襲っていたメイルって!?

 どういうことだ、この世界の人間は皆、魔力に感染している。

 だからこそ、ライムは別の世界から、わざわざ俺を呼んだんだ。

 なのに、今目の前にいるあいつも、メイルが扱える!?


「正解~! それじゃあ、ナル。殺して」


<Starting>


 俺のメイルと、ナルのメイル。

 始動が完了するのは、ほぼ同時だった。

 先のルイスの話を聞くに、ルイスは水の魔術を得意とする。

 つまり、ライムと違って、魔力注入に痛みが伴わないということか!


 俺は、エレメントコンバータを雷の物に付け替え、左腕を前に突き出す。


「――雷装!」


<Electric Drive>


 対してナルは、何も言わず、何もせず、ただ佇むだけだった。


「……」


<Liquid Drive>


 メイルの装着は、ほぼ同時。

 俺の身体は雷に包まれ、メタリックブルーと金色の鎧に包まれる。

 対峙するナルは、水色と白色の鎧に包まれた。

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