利権の二文字
「さあ黒。勧誘活動するわよ!」
場所は教室。時間は休み時間。
エマ・ブレアが黒にそう宣言した。
「勧誘活動はダメって言われなかったっけ?」
「馬鹿ね黒。良い? チラシを配っての大規模なことはしないわ。クラスメートに声をかけて回るのよ。勧誘活動? 違うわ。これはあくまで友達同士の話し合いよ!」
ぐっと拳を握って言うエマがとても国会議員っぽく見えてしまう黒。
「と、言う訳で声をかけていくわよ!」
ガシャガシャと鎧を着たままクラスメートへと特攻していくエマ。
特攻を受けたクラスメートは次々とエマに恐れながら頭を下げていく。
黒はエマに何か無茶ぶりされる前に逃げようとするその時だった。
神宮寺実咲が黒へと歩いてきた。
「……どうしたの?」
「ほ、ほらあの人に勧誘しろって言われてて困ってそうだったから」
あははと笑う神宮寺。黒の好感度メーターがぐーんと上昇する。
「あ、ありがとう」
黒がはにかんだ笑顔でお礼を言うと、神宮寺の頬が沸騰したかのように赤くなった。
「べ、別にお礼を言われるようなことじゃないよ! あ、ああそうだ。その……わ、私実は今日のダンジョン探索の許可証を貰いに行くんだけど一緒に行かない? と、友達は全員取らないらしくて!」
早口で捲し立てるように言った神宮寺の台詞を噛み砕いて、意味を飲み込むまで三秒。黒の脳内にブルースクリーンエラーが発生する。
「え、えあ?」
「ダメ……かな?」
ずーんとこの世の終わりかのような暗い表情をする神宮寺を見て、黒は半ば使命感に突き動かされて言う。
「いや、大丈夫! 一緒に行こう」
「本当に?」
「う、うん」
ぱあっと輝く神宮寺の表情。
黒も笑顔を作ろうと努力したその時、神宮寺のグループが声を上げた。
「おーい。実咲ー。いつまでそんな人のとこ居るのよー!」
神宮寺がむっとしたような表情を浮かべたが、次の瞬間には申し訳なさそうな表情へと変化させる。黒へと小さく頭を下げた。
「ごめんね。それじゃあ」
ぱたぱたとグループへと去って行く神宮寺。
名残惜しそうな黒の元に肩を落としたエマが戻って来た。
「そんな名残惜しそうな顔してどうしたの?」
ダンジョン探索許可証認定講座。
教室を一室借り切って二時間程度の講座が行われ、その後、テスト。
そして明日の放課後にはテストの結果がネットにて告知され、合格すれば教務課でライセンスと装備品を受け取ることができる。
黒と神宮寺実咲は隣同士で座って講座を受けていた。
エマは黒と神宮寺とは離れた席で一人座っている。
人数はそう多くなく、席にぽつぽつと空きが存在していた。
装備品代金と危険性の二大距離を置きたくなる物があるからだろう。
黒はキョロキョロと辺りを見回す。屈強そうな男や自信を漲らせている生徒が席に座っていた。その中でも一際目立つ髪型を見つけて黒はビックリする。金髪の不良。今日の朝、黒に声をかけてきた男だった。
と、その時ドアが開く。
リュックサックを背負った先生――志葉英司――が教壇に立った。
黒は担任の先生の登場に少し驚きながらも姿勢を正す。しっかり聞いておくことが重要であろう。
「はい、今から始めます。まずはダンジョンの話だけど、ダンジョンには遺物により作られたモンスターだの何だのが色々居るので気をつけましょう。じゃあ次は装備品の説明な」
適当な調子で言う先生がリュックサックから装備品を一つ一つ取り出し、教卓へと置いていく。ロープ、何かと何かを繋げるD字型の金具(おそらくロープと合わせ、ロッククライミング的な感じで使うのだろう)、携帯食料、腕時計のようなモノ、中に何か詰まっている小さな袋、冊子、地図、化粧品入れのようなポーチと様々なアイテムが出てくる。
先生が言った。
「えーと、一つ一つ言っていくのは面倒だから後で調べておいてくれ。大事なことだけ言っとく」
小さな腕時計のような品を取り出し、ごほんと一つ咳払い。
「はい、このGPS付きSOS信号発信機は非常時の時、押せば登録している仲間と担当の先生へと連絡が行きます。死にそうになる前に押しましょうねー」
一五秒コマーシャル並みの速さで終了。
「適当過ぎじゃないですか!?」
金髪の不良が叫ぶようにツッコミを入れると、周りも同調するように頷いた。
しかし、先生は言う。
「テストなんて選択問題だし常識的に答えりゃ分かる問題しかでねえよ。つー訳でテストすんぞ」
配られたテストはとても簡単だった。『利権』の二文字が頭を過る。