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勧誘活動

 後日、朝早くエマは外に出た。

「さあ行くわよ!」

「嫌だああああああああああああああ!」

 じたばたと暴れる黒の足首を掴まえて学校へと出発しようとするエマ。

「もう諦めなさい。やり遂げたら友達ができて仲間もできるわ!」

「それは上手く行けばだよね!? 上手くいかなかったら頭のおかしい二人組として認知されちゃうよね!?」

「くよくよ物事を考えてる暇があれば行動した方がいいのよ!」

「行動して宿なしになった女の子に言われたくないよ! チラシ配りとか絶対に上手くいかないってぇえええええええ!」

「大丈夫大丈夫。私を信じなさい!」

「信じられない!」

 黒は引きちぎられそうな身体の痛みに必死で耐えてドアノブに縋りつく。

 ドアと鎧装着済みエマの間にぴーんとピアノ線のように張っており、鎧姿も相まって誘拐されている最中の子供のように見える。

 溢れんばかりに膨れ上がっているエマの鞄から紙が一枚落ちた。

 チラシには太いマジックでこう書いてある。

「遺物探索クラブ設立を目指して頑張ろう! 興味のある方は『1-C』エマ・ブレアまで」

 本当にこれだけ。

「短すぎだよやっぱり!」

「人間そんなに文字なんて読まないんだから三行くらいが丁度良いんだって! ほら、漫画の著者コメントだって三行でしょ?」

「嘘だ! だって昨日俺に絵を書いてって無茶ぶりしてきたじゃん! 明らかにこれじゃダメだって分かってたんでしょ!?」

「……過去のことは忘れなさい」

 エマはそう言うと、一瞬だけ力を抜いた。黒が思わずバランスを崩し、手から力が抜ける。エマはその瞬間、タイミングを合わせて黒を釣り上げた。

 肩へと黒を乗せると、廊下から飛び降りる。

「うわあ!?」

「さあ、行くわよ!」


「遺物探索クラブ設立の協力者を募集してまーす!」

 エマの鈴の音のような声が校門前で鳴り響いた。……なんてことは全然ない。

 それはエマの本当の姿を知っている黒だから聞ける幻聴である。

 本当は鎧のせいで篭った湿気のような声が校門前で拡散されるのみであった。

 エマは元気よく生徒たちへとチラシを配ろうとするのだが、鎧姿が怖いのか誰も近づこうとはしない。それどころか元気よく走って行くと、その人は確実に悲鳴を上げて逃げるのだった。

(まあ当たり前だよね……)

 そう思う黒は頬を真っ赤に火照らせながらチラシを上手い具合に隠す方法を模索しては失敗を繰り返している。

「黒! ほら声を出して。五人以上部員は必要なんだから」

 エマが黒に近づいて言う。

「それに良い? 人数が増えればそれだけクラブ設立の道が強固になるわ。頑張るのよ」

「ちょっ、ちょっと俺から離れて!」

 黒の心底嫌がっている態度にエマは腕をばっと広げると、

「ヤダ」

 ぎゅっと抱き締めた。生徒たちがじろっと黒とエマを興味深そうに見る。

 鎧の騎士に抱き締められている気弱そうな男――絵面は最悪だ。

 注目の的になっている事実にぶわっと嫌な汗が吹き出した。

「わ、分かった。今から行ってくるから!」

 緩まった拘束から抜け出すと、黒は意を決して近くに居た大人しそうな男子生徒へと近づく。

「あ、あの……これ……どうですか」

「あ、いや、大丈夫なんで」

 と言って男子生徒はそそくさと行ってしまった。

 大失敗である。恥ずかしさや変な気まずさが心の中で肥大化していき、泣きそうになる。

「なあ、俺にくれねえ?」

「え?」

 黒は声のする方に向くと、ギラギラした金髪の男が立っていた。

 制服は着崩し、首からネックレスをぶら下げている。

 オシャレで格好いい不良という風情。さーっと頭から血が抜けていく。

(ふ、不良だ……。多分悪目立ちした俺たちをボコリに来たんだ。そうなんだ)

 呆然としている黒の手からチラシを取ると男はふむふむと読んでいく。

「クラブ設立ねえ。人数足りねえの?」

「い、いえ……。ただあの……人数が居れば有利になれるって……あーいや、足りないです」

 黒がおどおどと説明する。

「……くっ。お前ら目立ってて格好いいじゃねえか」

「へ?」

 黒が思わずと言ったような声を上げると、男がにやりと笑った。

「いやー。俺さあ何か目立つことしたくてこんなギラギラした格好してんだけど、お前ら見てこういう正統派な目立ち方の方が格好いいなって思ってよ」

「あ、ありがとう……」

 ギラギラした不良へとお礼を言った瞬間。

「私は生徒会長の古畑礼二だが、誰に許可を得て何をやっている?」

 エマに男――古畑礼二が声をかけた。

黒光りする革靴にきっちりと首元のボタンまで止めているブレザー。短く切っている髪に黒縁メガネと、真面目を絵に描いたような青年が威圧的に一八〇センチはあるエマを見下ろしている。

 その後ろに静かな雰囲気を持つ大人っぽい女の人が佇んでいた。

 但し、身長以外はという注釈がつく。身体はちまんとしていて、身長で言えば一三五センチほど。中学生にしたって低い部類だろう。

「何って勧誘よ。あ、あなたもはい。その後ろの人もどうぞ」

 エマは怖気もせずにチラシを押しやると、ふらっと別の生徒の元へ行こうとして、

「ちょっと待て」

 がしっと肩を掴まれた。

「何? あ、もしかして入部希望者? じゃあ……そうね今日の休み時間に――」

「――そうじゃないっ! そうではなく、なぜ貴様らはここで勧誘行為などしている!?」

「何でって……仲間が欲しいからに決まってるでしょ?」

 馬鹿なの? と言外に告げるエマ。礼二の頬が引き攣った。

 その時、女の人が前に出てエマへと告げる。

「許可なく勧誘するのは校則で禁止されている。ちなみに私は國島古宵。生徒会情報管理役」

「あ、どもども。私はエマ・ブレア。よろしく。……それより黒勧誘行為って禁止なの?」

 黒に振り向いて確認を取るエマ。

「ええっと分からないけど、生徒会長が言うなら多分そうなんじゃないかな?」

 黒が返事を返す。

「じゃあ許可をちょうだい」

「……なら今日の放課後に許可証を取りに来い」

 エマのセリフにはあ、と溜息を吐いて校内へと入って行く生徒会長。

 続いて大人で小さな女生徒、國島古宵がぺこりと頭を下げて礼二に付いて行った。

「目立てねえ……。まあ、最後の一人になったら呼んでくれや」

 不良の男が肩を落とし、手を振って校門をくぐって行く。

「あ、名前……」

 黒がぽつりと呟いたが時すでに遅し。すでに男の姿は遠く離れていた。

 エマは黒の元へ来ると、驚いたように黒の手元を指差す。

「もしかして全部配ったの? 凄いじゃない!」

「へ?」

 自身の手元を見て驚く黒。

 確かになかった。黒は首を傾げる。

「人が来れば気づくはずだけど……」

「配ったんじゃないの?」

 困惑した黒とエマから数十メートル離れた廊下にて、神宮寺実咲が大量のチラシと巫女さんがふりふり振る細長いギザギザに切った紙のついた棒――御幣ごへい――を手に持ちながら垂れ続ける涎を拭いながら妄想に耽っていた。

「この部活に入れば黒くんとずっと一緒……ふえへへへへへ」

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