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彼女になるぞっ

 放課後。

 黒とエマは早速先生へとプリント貰いに職員室へ。

 職員室特有のコーヒーの匂いを吸いながら黒とエマは志葉先生の元へと歩いて行く。

 先生はスパスパとタバコを気怠そうに吸いながら、黒とエマを見て驚いたような顔をした。

「赤目とエマか? どうした?」

「ダンジョンに行きたいからプリントちょうだい」

 エマの単刀直入な一言に先生はボリボリと頭を掻きながら、吸っていたタバコを灰皿に押し付けて火を消す。

「あー? お前らダンジョン行くの? モンスターとか居るぞ」

「モンスター……? あ、あの……エマ? これは止めておいて正解な案件なんじゃ」

 黒の顔面から生気がなくなっていくが、エマは拳を握り締めて言う。

「大丈夫よ」

「何を根拠に!?」

 黒はぶんぶんぶんと首を高速回転させて『否定』を全力で表現する。するとエマはぐっと親指を立ててみせた。

(求めてた反応じゃない!?)

 黒は絶望的な気分に陥るが、声を荒らげて反対できるような性格でもなく結局、口を噤んだ。

 エマに嫌われたくないという女々しい思いも口を噤んだ理由の一つである。

「まあ、大丈夫っつーなら良いけどよ……。えーっと、これ今日までが期限だから。さっさと提出しとけよ」

 机の下にある引き出しを開けると、プリントの束から二枚引き抜いて、黒とエマへ渡した。

 プリントをちらりと見る。

 どうやら、これがダンジョンへと入るために必要な書類のようだ。

「ダンジョンの許可っていつくらいに出るんですか?」

 黒の質問に先生は言う。

「明日にダンジョン探索専用ライセンス取得講座があるからそれに出て、ちょっとした筆記テストに合格すれば完了だ。三日後には許可が出るんじゃねえか」

「結構速いね。燃えてきたわ」

 ゴゴゴ、という擬音をバックに拳を握るエマ。

「速いですね……」

 しょぼーん、という擬音をバックに肩を落とす黒。

「ああ、あとエマに言っとくことがあったんだわ。一週間後までに遺物校でやっていく決意表明文を書くこと。あとは……。ああ、遺物の検査と能力検査を受けなきゃなんねえんだ。今日やるぞ」

 先生が面倒臭そうに書類の山からプリントを一枚引き抜くと、何やら書いてエマに手渡す。

「今日行かないとダメなの?」

「つーか何でお前は先生にタメ口なんだ?」

「タメ口……?」

 きょとんと可愛らしく小首を傾げる鎧の騎士に先生は頷いた。

「なるほど。流石は外国育ちってわけだな。おい、赤目。ちゃんと敬語教えとけよ」

「えっ? 何で俺がですか?」

「あん? 友達じゃねえのかよ」

「と、友達に見えますか?」

「ち、違うのかよ?」

 妙に嬉しげな黒に対して微妙に引く先生。

「えーっと、友達?」

 ちらちらとエマを見ながら黒は言う。

「うーん。まあ、仲間みたいな感じだけどね」

 エマの言葉に若干ショックを受けたように固まる黒だったが、一瞬後には立ち直っていた。

「仲間、仲間かあ……仲間らしいです」

 にやにやと笑みながら黒は言う。モテない男が義理チョコで喜んでいるような悲壮感漂うものだったが、黒はそれに気づいた様子もない。

 友達だろうが仲間だろうが、他人との繋がりは黒にとって特別なものなのだ。

「どっちにしても嬉しそうだな……。まあ良い。仲間なら余計に敬語を教えとけよ」

「はい、分かりました」

「あと、エマはさっさと行って来い」


 腹を壊した。

 どうやら、今日ずっとクラスの中心(騒動的な意味で)に居たことによって得たストレスがようやく腹に来たらしい。一時間ほどトイレに篭っていた。

「まだぎゅるぎゅる言ってる気がする……」

黒はお腹を擦りながらクラスへと歩いている。

 理由は単純。エマも黒も荷物を置いて職員室へ向かったから。

「ふふ……仲間かあ」

 くすくすと幸せそうな笑みを浮かべながら1-Cへと続くドアを開ける。

 一番後ろの窓際二列目。赤目黒の席で女の子が静かに本を捲りながら座っていた。

 風ではらはらとカーテンがたなびき、絹のようなセミロングヘアも一緒になって揺れていた。

 まるで、世界が彼女を祝福しているかのようだと黒は思う。

 神宮寺実咲。

 朝見た爆発的なキラキラオーラは鳴りを潜め、代わりに神秘的な雰囲気を身に纏わせていた。

 容姿も良くて頭も良くて運動だってできて、人気もある。

 どっからどう見ても黒とは釣り合わない。

 ドキドキしながらも一歩一歩自分の席へと進む。

 自分の存在に早く気づいてくれ、もしくはそのまま気づかないでくれと一心に祈りながら神宮寺の元へまた一歩、歩を進める。

 その時、神宮寺が動いた。

 瞳を黒に向けて、瞬間、まるでイタズラが見つかった子供のように身体を震わせた。瞳孔が大きく開き、パクパクと音を出すことを忘れた口が何度も開閉する。

 黒は思わず驚いた。なぜここまで驚くのだろう? もしかして、嫌われているのだろうか? そんなネガティブな思考が一瞬で構築される。

 神宮寺は思い出したように本を凄まじい速さで閉じると、言った。

「あ、ああああああ赤目くんじゃない!? ど、どどどどどどしたの!!?」

 黒は机の物掛けに引っかかっているバッグを指差す。

「あー、いや、そ、そのあの……荷物が……」

 神宮寺はバッグを見ると更にパニックになったように椅子から立ち上がった。

「あ、ご、ごめんね! 椅子勝手に使っちゃって!」

「ううん。それよりも何でここに座ってたの?」

「うへぇい!?」

 素っ頓狂な声を出す神宮寺に黒は瞳をぱちくりとさせる。

「もしかして、風に当たりたかったとか?」

 神宮寺が呆けたような表情を浮かべた。

「えーっと、うん。そうなの。ここ風が気持ちよくて!」

 やはり、と黒は思う。

 黒自身、風に吹かれながら本を読むのが好きだからすぐに分かった。

「ああ、そう言えばエマさんとどこ行ってたの?」

 話題を逸らすかのような問い。黒は思わず声を上擦らせる。

「み、見てたの?」

 黒の質問に神宮寺は若干視線を泳がせた。

「皆見てたよ? ほら……エマさん目立ってるから」

「あう……。そうだよね……」

 黒はずーんと肩の荷が重くなるのを感じる。

 クラスで独りぼっちの黒は目立つという行為を嫌う。

 なぜなら、独りぼっちで目立つなんてろくなことがないからだ。

「あはは……。そう言えば赤目くんと私ってずっと一緒だよね」

 にっこりと微笑む神宮寺に黒の頬の熱が上がった。

「そう、だね。うん」

 何か気の利いたことを言わねば! と懸命に脳内検索をかけていく黒はやがて一つの話題に行き着く。

「そう言えば、眼帯ありがとう。ずっと使ってるよ」

 黒は眼帯を指差して、表情固めの笑顔を小さく浮かべた。

「……こ、今度、も、もう一回作ってくるよ私!」

「え!?」

 黒の目を見張らんばかりの驚き様に神宮寺は表情の明るさを八割減させた。

「あ……っ。やっぱり、迷惑、かな?」

「いやいやそんなことないよ! むしろ良い!」

 黒の叫び声に似た返答に神宮寺は一瞬だけ呆気にとられたような表情を浮かべたが、次の瞬間にはにっこりと嬉しそうな笑みを浮かべ直した。

「ありがとう。もう明日には渡すね!」

「そこまで頑張らなくても良いよ!?」

 と、黒が思わず言ったその時、ドアが開いた。

 ドアの前に立っていたのは一八〇センチある鎧の騎士。

「どうしたの? もしかして私を待っててくれたとか? あ、そうだ。学内ネットでダンジョンライセンスの申請できるらしいからPC教室行こう!」

 ガシャガシャと教室に入って来るエマは自分の席に置いてあるバッグを引っ掴むと、黒の腕を取って歩いて行く。

「あーまたねじ、神宮寺さん! エマ歩くの速い! もっと遅く」

「もう、うるさいわね。速く行くわよ! 私の野望の為に!」

 教室のドアがばたんと閉められ、神宮寺は一人でぽかんとする。

 やがて瞳から一筋、涙が流れた。

 ごしごしと涙を拭うと、悔しそうな表情で呻く。

「くううううううううう! あの人のせいで黒とのお話タイムが……っ! 次は本の話するつもりだったのにぃいいいいいいいいい!」

 黒が今どんな本を読んでいるのかはもう既に確認済みであった。

 無論、読んでいた本もそれだ。

 神宮寺はひとしきり悔しがると、にやりと笑った。

「けど、まあいいわ。あの人のおかげで黒にアプローチが出来るようになったわけだし。うん。そこは感謝しないと。それに明日はこの眼帯を上げられるしね」

 ポケットから現れたのは黒色の眼帯。

「良し、頑張って黒の彼女になるぞ。頑張れ私」

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