おい、壁ドン素敵!とか言ってた奴は廊下に出ろ
勢いで書き上げましたスイマセン。
連載の方を放っておいて変なの書いてスイマセン。
一気に考えたものですので文が設定が荒ぶっていてスイマセン。
ドンッ、と全身全霊を振り絞り私は拳を叩きつけた。
標的は北側のクリーム色の壁、二人かけのココアブラウンのソファーが置いてあるすぐ横の位置。
何度も何度も繰り返し叩きつけられたそこは僅かにくすみ、心なしかヘコんでいるようにも見える。
というか、事実越してきた日と比べると明らかにヘコんでいる。
毎日毎日、早朝から深夜までバリエーション豊かな騒音をお届けしてくるお隣に耐え兼ね、己の拳を振り上げる日々。
最初の頃は穏便に済ませようとやんわりとノックのようにトントンと叩いて忠告していたが、それも三ヶ月過ぎれば全力投球の殴り込みへと変わっていった。
何を隠そう、全てはお隣のせい。
………うるさい。
煩い、五月蝿い、ウルサイ!!!!!!!!
あまりにもお隣は煩すぎる!!!!!!!!
自分では制御できない強烈な感情が心中に巻きあがって、息が詰まる。
握りしめた拳が真っ赤に充血して、フルフルと震えているのが見えた。
積み重なる我慢が遂には堰を切り、燻った怒りが怒濤のように押し寄せて押し寄せて、絶えない。
この半年いったい何があっただろうか。
どんな毎日だっただろうか。
どんな迷惑を、侮辱を被ってきただろうか!!!!!
目を瞑ると鮮やかな虐げの記憶が蘇る………………
まずは平日。
ここはまだいい。
私は会社へと繰り出すので殆どの時間は留守にしている為、被害は夕方から夜くらいだ。
朝は私の方が行動時間が早いのかお隣からは大した音もない。
………ので、問題は主に夜だか、これはいいとする。よしとする。
いや、確かにアンアンアンアン聞こえるエロさを越えて雑音と化した声に確実に睡眠時間は削られているが、最近は慣れてきて少し深く布団へ潜り込み無心で寝る術を覚えた。
だから、まあ、百歩譲って許す。広い心で。
途中で余りの甲高い声に起こされることもあるが、そういった欲求が溢れ出てしまう残念な人なんだな、と同情でもしてなんとか怒りを流そう。
若い人にはあることかもしれないし、うん。
寛大な心を取り繕い、私は我慢をしよう。
平日は。平日だけは。
だが、休日は、違う。
テメェだけはぜってぇ許さねぇぞ……、と本気でベランダからでも乗り込んで存在を抹消してやりたくなる。
田舎から上京就職をしてきた私には仲良く週末を過ごす友達も彼氏もおらず、日がな家に籠って新しいゲームやら読まずに放置していた漫画やらを消費する。
それが私の休日。
まさに干物女の化身的な日常だが、これはこれで性に合って気に入っているので放っておいて欲しい。
激務なデザイン事務所勤めで体はクタクタ、もぎ取った休日はこうしてゆっくりと怠惰な雰囲気に身を任せて一日を終えたいのだ。
そう、ただゆっくりと過ごしたい。
誰にも気を使わず、したいことをしたいタイミングでする。
それだけで私は満足な休日だったと胸を張って言える
それだけだ。
………それだけなのに!!!!!
朝、アンアン音で自然と目が覚めてテンションが死ぬ。
(ゆっくり好きなだけ寝ようと思っても成功した試しがない)
微妙な心持ちのままのっそりと起き上がり、適当に作った目玉焼きやらの朝食を摘まみ、この下品な世界から切り離してとばかりにイヤホンをセットして趣味に浸る。
勿論音楽は爆音で響かせ、近頃はまったく興味の無かったデスメタルまで手を出して、苦悩よ出ていけ!とヘッドバンキングをすることもある。
心震えるラブソングを好んで聞いていたあの頃の私はもうイナイ。
あんな優しい世界は今求めてない。
そして、ある程度の時間が過ぎ、腹が減ったと感じれば調理をスタート。
ランチはお隣のバカデカイ喧嘩声(主に女のヒステリー)を強制的にBGMとして聞かされながらパスタやらラーメンやらをかきこむ。
途中でお隣に嫌気がさせばまた、イヤホンを掴み取り爆音でデスメタルをetc………。
夕方、ラストに漸く自炊らしい晩御飯を作り、諦めて最初からイヤホン装備で食べる。
早食いは肉がつく………とゆっくりとご飯を堪能し、今日の漫画の主人公は女々しかっただとか脇役の男の子が可愛かっただのと勝手に品評会をしながら風呂に浸る。
一時間程つかり身体を癒したのち、ショートボブの髪をドライヤーで乾かして寝る準備をする。
次の日の予定を確かめてから、布団へと身体を滑り込み枕を整え、さあ寝るぞと意気込んだ所でお隣からアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアンアン!!!!!!!!(また、始まったか………って、)
さっきと違う女の声じゃねぇか!!!!!!!!!ドンドンドン!!!!!!!!!!!
このループ。
越してきてから半年、ずっとずっとこのループ。
お隣が出掛けている時もそれなりにあるにはあるが、居る時は基本これ。
同じローテーションを繰り返してくるという無駄に丁寧な行動。
狂う。
私は狂ってしまった。
殴る蹴るは芸人がしているだけで嫌な気分になっていた暴力反対派であった私は、今ではお隣の横っ面、腹部、みぞおち、女の敵の部分、その全てに拳を叩きつけたくなっていた。
いや、許されるのならばドロップキックや無意識にやり方を調べていたジャーマン、チョークスリーパーも決めてやりたい。
再起不能の一歩手前まで凝らしめて、ごめんなさいと下げる面を拝みたい!!!
私の憩いの休日を奪った罪。(イヤホン付けすぎて耳が痛くなってきたんじゃ!!)
相手を代わる代わる取っ替え引っ替えする最低な男という嫌悪。(一週間きっかりで変わるなんてどんな垂らしだ!!)
そしてなにより、なにより!!
私がなけなしの勇気を振り絞り、直接チャイムを鳴らして忠告をしに行った時の態度、発言。
裸にシャツを羽織っただけの姿で出てきた彼は眠たそうにわたしを目に止めると、気だるげにこう言ったのだ。
「なに、おばさんも交ざりたいの?」
?
??
………ナニ、オバサン(!?)モマザリタイ(!?!?)ノ?
…………!?!?!?!?!?!?
はあああああああああああ!?!?!?
私はまだ二十代のギリギリ前半でオバサンではないし堅いというか捨てきれなかった貞操観念により純潔な身体であんたと週で変わる女とモニョモニョに交じれる程のうわああああああああ!!!!!!!!!!!!!
ドンッ!!!!!!!
と、また朝から聞こえるアンアン音に私念を込めて叩きつけた。
「あんのぉ、糞ガキゃぁ………………ッ」
つい一週間前の出来事を思い出して、いつもの三割増しの力が出た。
横に貼ってあったポスターが剥がれ落ち、ハラリと足元に着地する。
お気に入りのリラックスなおクマさんというB級くさいキャラクターが描かれたポスターは宝物の一つだったが、その明るい茶色の色使いがお隣の髪の色と似ているという理由だけで破り捨てそうになった。
怒りは時に判断を狂わす。
既に同様の理由によりゴミ箱逝きとなったリラックスなおクマさんフィギュア、冷静に成りきれなかった私の心残りだ。
………お隣は、確かにモテそうな甘いマスクをした二十前後の青年だった。
長めのバンドマン風の明るい髪に、目元の黒子が目立つ色っぽい顔。
それに白くて長い手足は適度に筋肉がついていて、ジャニース系が好きな人ならばこれは確かに放っておかないと頷けた。
この顔に女を引っ掻けるテクニックが少しでもあれば、連日の女の子の替わり様も実現可能だろう。
それだけの見た目を持っている。
だが、私にはもう通じない。
目の前にお隣と真逆の男性が現れたら無条件でいい人だと決めつけられる位、お隣の頭から爪先まで何もかもが好みから外れた。
消ゴムとお隣しかこの世界に存在しない未来が襲ってきたとしても、私は全力で消ゴムへと愛をささやく。
ケシカスすら愛おしい。
あれは、無い。無い!!!
互いに無いと思うが、私にとってはワーストブッチギリで一位に君臨するレベルになった。
半年……経った、我慢した、もう、耐えられない。
頼みの綱である大家さんはお隣に上手くイケメン住人として懐柔されたらしく(ジャニーズ好きのミーハーめ!!!)、強く注意してくれないどころかご飯の提供や設備の相談など親しくしている様。
更にお隣は角部屋で、唯一隣接した部屋が私の部屋。
この苦難を抱えている人物は私だけであり、辛いよね、苦しいよね、と怒り悲しみ鬱憤を共有する、訴える味方が誰一人居ない(因みに一階なので下へのギシギシ被害も無し)。
ああ、イケメン故に許される世の中。
壁越しに拳でしか不満を伝えられずにいる不合理さ。
というか、あの忌まわしき発言の日から壁ドンしてもスルーされるようになってきた。
何も、聞き入れてくれない。
ここにいる限り、………何も。
そうだ、もう、引っ越そう。
そう思うのはごくごく真っ当な流れだった。
ガムシャラに働いてお金はそこそこ貯まっていた。
あの家に帰りたくないと残業もちらほら請け負ったお陰か、今が一番財布にゆとりがある。
実は前々から鬱憤ばらしで物件もこまめにチェックし、いいなと思った場所もいくつか絞り込めていた。
なるべくこのアパートと生活域のかち合わないようにと調べに調べた夢のような物件たちだ。
探していた頃は、引っ越ししたばかりで現実的ではないな、と本気ではなかった取り組みが実を結ぶときが来た。
あとは実際に足を運んで、壁の薄さや隣人の確認、仕事場への通勤状態などを見るだけ。
そうすればやっと、このループから抜け出せる。
人権を取り戻し、耳の平和が保たれ、拳の痛みからもサヨナラだ。
私の中のオーディエンス達が喜びにむせび泣いている。
空気を読んだのか知らんが、お隣も気付けばいつになく静かになっていて、感動も一頻り。
これぞ自由!!!あと一月位だけ我慢すれば自由!!!!
もうお別れだと思えばなんだって耐えて見せる!!!自由が待っているのだから!!!!!!
フリーダム!!!!!!!!!
トントンッ
………ソファーの上でガッツポーズのまま感動している私の耳に、不吉な音が飛び込んできた。
この音は紛れもなく私が最初の三ヶ月間の中で鳴らしていた音で、それがどういう訳かお隣から聞こえてきている。
幻聴かもしれない。
こんなことは今まで一度もなかったので、ついぞ興奮のあまり聞こえもしない音を認識してしまったのやも。
しばし固まっていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ついで、「すいません、お隣の梶嶋です」と声がする。
お隣の、梶嶋………?
梶嶋って、あの梶嶋?
え?え???
えっと…、…………どうすれば、いい?
私は出来ることならもう二度とお隣の梶嶋さんに会いたくないと思っていたのだ。
今さら何の用だか分からないが、この半年の因縁は深いし、あの発言は乙女の心を貫いて打ち砕いた。
干物女だが、ちっぽけなプライドくらいは持っている。
本来ならば、顔も見ないままこの家からさっさとオサラバして、心機一転入れかえ、拳のいらない幸せ溢れる生活を過ごす予定だった。
こんな突然の訪問は予想していない。
訪ねて来る理由も分からないし、前回会った印象とは違う、やけに落ち着いた口調なのも何だか怖い。
……ここに住み始めて初めて、こちらを気にせずにアンアンでもしてろよ、と心の底から願った。
今だけは自由に盛っていいから!!
私の事など頭の中から削除していいから!!!
右往左往してふと自分を見下ろすと、よれた大きめなTシャツに高校時代の紺の膝までのジャージが目に飛び込んできた。
おまけに土曜ということで油断しきった素っぴん。
あまりにも酷い装備。
ドラ○エであれば初期装備と大差無い残念さ。
こんな格好で隣の魔王に打ち勝つことなどできようか。
女を総なめしている相手にこんな服装………。
フルボッコだドン。
頭のなかの私が震えた声で囁いた。
よ、よし、居留守を使おう。
これは仕方の無いこと。
勇気ある撤退だから逃げるとは別、別だから………………と、息を止めて私という存在感をこの家から出来るだけ消そうと試みる。
私は空気。
極限まで音をたてない様にソファーにでも座ろうかとそっと腰を下ろし、固まる。
すると、目の前のテーブルに置いてあるアパートのチラシが目に入ってきた。
デカデカとした赤い花丸に囲まれたアパート、素敵な夢のアパート。
私がこれから得るであろう幸せな未来。
惰眠を貪り、イヤホンを外しご飯を食べれる、そんな未来。
輝かしい、未来!!!!
………そうだよ、私はもうこの地に居続ける必要がない存在になるんだ。
どんなに酷い戦いをしても、そのことを引きずっていくことのない未来がある。
誰も私を知らない土地で、新しく巻き返せる。
今空気になってどうする。
こんな理不尽に耐えてきたんだ。
最後くらい、苦しみに苦しめられた敵に一泡ふかせてやって、そしてから雲隠れするぐらい許されるだろう。
妙なテンションのあまり、考えがおかしくなっている気がしないでもないが、今の私には何でもできる気がした。
もうこうなったら、本当に拳をお綺麗な顔に叩き込んでやろうか。
一発ならば、事情を話して情にでも訴えかければ警察だって見逃してくれるかもしれない。
それが無理そうなら出会い頭に思いっきり脛にでも靴を飛ばしてシラを切ろうか。
………行こう。
勇者とて最初はただの村人だったんだ。
それなら私にも、一日限りの勇者ぐらいになら、なれるはず。
「すいません、秋原さん。いらっしゃいませんか?」
いざ行かん、戦場へ。
ゴミ捨てやコンビニへ行く際に履く薄汚れたクロックスに急いで足を捩じ込む。
視界にチラつく高校のジャージに流石にこれは女として色々ヤバイかもしれない、と着替えてきたくなったが振り返って部屋へ戻ったら最後、メンタル豆腐の私では二度と玄関に近づく事は叶わなそうだった。
何とか己を奮い立たせる。
どうせ、どうせオバサン扱いならジャージだろうと何だろうと構わないだろうしな!!!
悪かったな!!老けてて!!!!!
「あの………家に、居ます。ええっと、出るのが遅くなってスイマセンでした。ちょっとさっきまで色々と立て込んでてなかなか………………、……………………ッッッ!?!?」
「それは忙しい所にすいませんでした。今、お時間大丈夫でしょうか?」
「は、………ハイッッ!!!(!?!?)」
なんだ、どういう状況だこれは。
魔王は、既に、倒されているようだった。
玄関前に姿勢正しく立つ、銀フレームの眼鏡をかけた神経質そうな男性が、私の家のチャイムを鳴らした本人だった。
切れ長の瞳は涼しげで、ダークブラウンの整えられたオールバックが似合う美形。
お隣じゃ、ない。
頭の中の知り合いリストを端から端まで絞り出して調べたが、こんな仕事が出来そうな人種は記憶のどこにもいなかったように思う。
しかもこんなに整った顔、一度見たらそうそう忘れない。
……だが、問題はその手に掴まれている頭だ。
頭。人の頭が鷲掴みされている。
お隣だ。
血の気の引いた蒼白な顔色は今にもぶっ倒れそうで、口許の真っ赤な傷と真っ青な痣が毒々しくて痛々しい。
髪も随分と短く刈られていて、以前あったチャラさがかき消えスポーツマンみたいになっている。
伏せ気味の虚ろな目はどこを見ているのか、空虚をさ迷い、小さく動く口許は何かをしきりに呟いているようだった。
「本日は私の弟の非を詫びに伺わせて頂きました。ほら、ちゃんと謝りなさい」
「え、…………えっ?……弟さん?」
「ごめっ、ごめんなさい、……煩くしてご…ごめんな、さ…っ」
「長いこと愚弟が迷惑をかけていたようで、本当に申し訳ございません。こちらにできるお詫びはさせて頂きたく思いますので、どうか何でも仰ってください。迷惑料でも、こいつをコキ使っても構いません」
「え、いえ、そんなお金なんていりません!!あの、…………えぇ?」
あ、頭がついていっていない。
フルボッコだドンされているお隣はただゴメンなさいを繰り返す機械と化しているし、インテリな風体のお兄さんはこちらに低姿勢ながら手にはガッチリ頭掴んでるし。
異常事態が起こっていることは分かる、分かるが、衝撃が強すぎて思考がうまく回らない。
でも、これは、謝罪されている、のだろう………。
きっと謝罪、たぶん謝罪。
それだけはわかった。
こってりお兄さんに絞られたらしいお隣は以前の威勢はどこへやら、潮らしくなってしまって。
恐らくその短い髪も、このお兄さんに命じられたか強引にやられたかに違いない。
私が未来へと想いをフィーバーしている時に何が。
………ちょっと、可哀想な気もしてきた。
あんなに憎い相手だったが、こうまでなってしまっていると、もう怒りの矛先を向けることが忍びない……。
骨まで折れていなければいいが……。
「あ、あのっ、私は謝罪を頂いて今後に気を付けてもらえばそれでいいですから………」
「いえ、それでは申し訳がつきません。コイツがどれ程の迷惑をかけていたのか想像がつくので、何もと言うわけには。………まぁ、確かに急に言われても思いつかないかもしれませね。配慮が欠けていてすいません、ではまた、伺わせてもらいますのでそれまでに考えておいて下さい」
はぁ、と気の抜けた返事が出る。
グイッと名刺を押し付けるように渡されて、反射的に受け取ってしまう。
「純、もう一度誠心誠意謝っておけ。お前は秋原さんの優しさによって今、生かされているんだからな」
ヒェッ、私が許さなかったらいったい………………。
「ご、ごめんなさい、……本当に…あの、あり、ありがとうございます…」
「え、いや………分かってくれたんなら……大丈夫ですから。それよりも、その、…お体……お大事に……」
「では、本日は突然失礼しました。連絡をいただければ、また伺いますので、後日」
あ、いや本当に何かもう充分です。お腹一杯です。
フルボッコな姿を見れただけで目標達成です………。
………長いのか短いのか、時が止まった様な放心からハッと解かれ、ようやっとそう御断りの文句を言おうとした時には既に視界に彼らの姿は無かった。
嵐のように現れ、嵐のように去っていった。
残ったのは、右手に握られたシンプルな白に黒い文字が書かれた一枚の名刺だけ。
それだけが実感を確かにさせてくれた。
そのままフラりと家に戻り、ボーッとしていると、お隣から恐怖政治の名残である号泣する声が煩いくらいに響いてきた。
悩まされてきた騒音だったが、今回ばかりは………。
………怖かったんだな、うん、怖かったよね。
よく分かんないけれど、私もなんか怖かったよ。
真の魔王だったよ。
あんなに憤っていた感情はもうどこにもなく、なんだか、拍子抜けしてしまった。
もう、怒りもなにも沸きそうにもなかったし、反省もしてくれている様だし、……赤子の如く泣いているお隣が、憐れになっている。
本当に、………拍子抜け。
……というか、………え、あれ?………………んん?
まって、こういう場合って………………。
「引っ越し…………結局、どうすれば……?」
………取りあえずは、保留ってこと、か?
ま、………なんかもう………いっか……。
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半年がかりの事件が解決(?)して気が緩んでいた私は、想像もしていなかった。
まさかあのインテリなお兄さんがお詫びをしますお詫びをしますと何度も家へと押し掛けてきて、その相談をあのお隣へとする未来が来ることを。
そしてそのまま流されに流され、気づけばバカ高い指輪を薬指に取り付けられて、私をこんなにした詫びください、とあの涼しげな瞳に睨まれ結婚を取り付けられることを。
お隣の名前が、私の名前の一部へと様変わりすることを。
私は知らない。
赤丸の付けられたチラシをもう読まなくなった雑誌と一緒に纏めてしまった今、逃げ道を失うことを。
続き、書くかは気分です。
要請があれば、まぁ考えます。
なくても書くかもしれません。
(追記)
続編をまた秋原視点でかきました。
お暇でしたらそちらもどうぞ!