05
シュバルスティン城。
つまり、魔王の城には様々な種族長の妻達が集まってきていた。だが、その隣にはしっかりと種族長もついており、結局は変わらない状況になっている。
「魔王様、どうします~? 結局は、種族長達も集まってますけど」
「やれやれ、呼んでいないというのに。まさか、来てしまうとは……さて、どうしよう?」
「どうしようって言われても……」
二人は、予想外の出来事に驚いていた。だが、魔王が種族長の妻達を集めること自体は異例のため。魔物といえど、自分の妻の身を案じてついてくることは予想できていたはずだ。
だが、二人には男の気持ちを考えてはいなかった。
「うわぁ、凄いですね。魔物の人達がいっぱいです」
「クリュウ君は、怖くない? 大丈夫?」
「全然大丈夫ですよ、だってマオさんがいますから!」
にこりと笑うクリュウを見て、頭を撫でる。
クリュウは、嬉しそうにより一層笑顔を浮かべる。
「クリュウ君……。私、頑張るから!! 私のこと……応援してくれる?」
「うん、頑張って! お姉ちゃん、ファイトだよ!!」
クリュウは、応援団のように手を振っているその姿に表には出さないが、心の中では悶絶しつつ。頬を少し赤らめて、ニヤリと笑う。
「エリン、絶対。絶対、みんなを納得させましょう!」
「魔王様、本当にクリュウ君には弱いですね~」
見えない速さで、拳を腹に一撃入れ。
エリンは、痛みで腹を抱えるが。クリュウには、拳があまりにも速かったため、何が行われたか全く分からなかった。
「それじゃ、クリュウ君。私達は、準備があるから」
「うん、頑張って! マオさん」
「あっ、やっと見つけたっ! クリュウ君……って魔王様とご一緒でしたか!」
直ぐに膝を付こうとするが、マオはそれを静止する。
「シズク、この子のこと頼んだぞ。決して誰にも触れさせないように」
「は、はいっ! も、もちろんですっ!」
そうかと言うとマオ、エリンの二人はそこから去っていった。それを察するとシズクは、大きな溜め息をついてクリュウに近づく。
「もう、クリュウ君。魔王様に会いに行くならそう言ってくれないと……。びっくりしちゃいますから」
「ごめんなさい、師匠。でも、会いたかったんです。マオさん……魔王様に」
悲しげな顔をするクリュウを抱き寄せ、頭を撫でる。少しだけ怒っていたシズクも彼のこのような顔には弱いのだ。
魔王に気に入られたまだ年端もいかない少年。
彼のそのような子供らしい一面が、少女達の母性をくすぐる。
「もしかしたら、君の方が魔王だったりしてね?」
魔王やエリンのような魔物達だけでなく、人間達にも絶世の美女とされる二人を虜にしてしまう。そして、ハーフである自分の心でさえ掴むこの少年こそが本当の魔王なのではないかと少し考えてしまう。
「僕が、魔王? えっとなら師匠より僕強い?」
「強い、強い。私じゃどうやっても敵わないよ」
「わ~い! 僕、強くなったんだ!!」
「でも満足しすぎてると、私すぐに追い越しちゃうよ」
「だ、駄目~! 僕、最強になって誰よりも強くなって。そして、みんなに認められるの!」
「そっかそっか。ならもっと頑張ろうね」
クリュウの少年らしい可愛らしさに心を蕩かされていた時、背後から咳払いの声が聞こえる。
「まさか、お前にもショタ気味なとこがあったとはな。恐れ入ったぜ、まだそんな餓鬼を」
「ちち違いますっ! こ、これはその。彼が甘えてきたから!」
「ぼ、僕甘えてないですよ!」
「おいおい自分の罪を子供に押し付けるなよ、お前がショタコンなのは分かったからさ」
「ショタコンじゃないですって!」
少し涙目になりつつあるシズクを見て、ガルバはやり過ぎたと思い。本題に入る。
「それで本題だが、どっかからか。この城を見ている奴がいる気配がするんだが。お前は、何も感じないか?」
「気配ですか? いえ、何も感じませんけど。他の方々の気配が濃すぎて、ちょっと分からないです」
「そうか……。ならいいんだ、何だか誰かに見られている気がしてな」
「ガルバさんファンの方とかじゃないですか?」
シズクは、クリュウを抱えて立ち上がる。
「いやいや、俺にファンなんていねぇから」
「またまた、魔物の女性にはモテモテじゃないですか。何人でしたっけ、フッた人数」
「シズク……。お前は、今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
「えっ? 今日のパンの枚数ぐらいなら言えますよ? 言いましょうか?」
「いや言わなくていい。このネタを知ってて、その返しなら言わなくていい」
ガルバは、頭をポリポリと掻くとまぁいいと言う。
「俺の気のせいだったんだろう、悪い邪魔したな。おい、坊主。そのお姉ちゃんに食われないようにな」
「えっ、師匠にた、食べられちゃうんですか!」
「あぁ、女の吸血鬼ってのは血とお前のち」
バキッと吸血鬼特有の力強いパンチを食らい、壁にめり込む。
「子供に何てこと教えようとしてるんですか!」
「わ、悪かった……」
壁にめり込んだままがくりとして、ガルバは動かなくなる。
「し、師匠。ガルバさんは、一体何のことを」
「大丈夫、クリュウ君が大人になったら教えてあげるからね」
「よ、良かったな、坊主。こいつが、手取り足取りおしえげぶぅ!!」
足を壁にめり込んだガルバに力強く押し付け、ガルバはまるで壁に取り込まれるように更に壁にめり込んでいった。
「じゃ、じゃあクリュウ君。このおじさんは、ほっといてちょっと散歩しようね」
「う、うん」
二人は、壁と一体化してしまったガルバを無視して、どこかに行ってしまった。
●
それを遠くから双眼鏡で、歯を食いしばって見ているものがいた。
「くそっ! 私の……私のクリュウに触れやがって」
「お、落ち着け。ミルト。まだ取り返すチャンスがきっと」
「チャンス? チャンスがあろうとなかろうと魔王を倒して、あそこにいる魔物達を狩ったら私の旅はそこで終了! カイみたく、私は国に忠義があるわけじゃないし!」
「それは、よく分かってるよ。だかな、倒すにもそれ相応の準備があるって」
「国にクリュウを人質に取られて、仕方なく勇者になってみれば。次は、魔王に拐われて。私は、腹の底から煮えたぎってるのよ!」
必死に走り出そうとするミルトを必死にカイは、止めようと腕を押さえていたが、ついついそのマシュマロのような柔らかい膨らみに手を出してしまう。
「ひゃぁっ!!」
「あっ、すまん!」
ブルブルと震えるミルトから、徐々に距離を取りはじめると。ミルトは、後ろを振り向きその剣を背中から抜く。
「どうやら、魔王よりも先に倒さなきゃいけない奴がいるみたいね」
「ま、待ってくれ! さっきのは、事故!不可抗力! まず話し合おうぜ、そんな物騒なのはしまって」
「オーケー!」
ブンと一直線に振られた剣は、カイの頭めがけて向かってくる。カイは、それを何とか両手で剣の腹を掴み頭部への一撃を避ける。
「あぶねぇ、雑魚キャラみてぇに一撃死だったぜ。それが飛び道具じゃなくて良かった」
「ちっ、何で押さえるの? ちょっとくすぐったいだけよ」
「あんな風に分割されてたまるか! 痛すぎるわ」
「それなら安心して。痛みは、一瞬よ」
女神のような笑顔で、剣に更に力を込めて負けないようにカイも力を込めるが。剣は、止められてもカイの体ごと地面が沈んでいく。
「ま、待て! 真面目に俺を殺ろうとしてるだろ?」
「真面目? 私はいつだって真剣よ。真剣で私に殺られなさい!」
「うぉぉっ! 待て、弟さんの方が先だろ! もし弟さんが、魔王にあんなことやこんなことをされていたらどうするっ!」
その言葉で、我に返り。弟と魔王があんなことやこんなことをしている姿を想像してしまう。
すると鼻から一筋の赤いものが垂れてしまうが、彼女はそんなことを気にせずカイの顔を見る。
「羨ましではなく、そんなこと許されるわけがない。私の弟に手を出して……無事でいさせるわけないでしょ。行くわよ、カイッ!」
カイは、助かったと安堵の息をつくと仕方ないと思いながらも先に駆けていくミルトを追いかけた。
遅くなって申し訳ありません。スピードアップの方できるように善処いたしますので。どうか温かく見守って下さい