04
シズクは、クリュウに木刀を持たせ、構えさせる。剣を構えるが、少しだけ体を小刻みに震わせ。その状態をキープする。
「では、ゆっくり。ゆっくりでいいので、木刀を持ち上げてください」
すいっと木刀を持ち上げる。
「はい、それでは先程。構えた位置まで、一気に振り下ろして」
「えいっ!」 ヒュンと木刀が音を立てて、振り下ろされる。木刀の剣筋に歪みはなく、迷いなど一切ない一振りだった。
「よしよし、上手いですよ。では、もう一回」
「はい、師匠」
彼は、また同じ動作を繰り返す。
(この子、剣筋が鋭くて。ただの普通な子とは、まったく違う。誰かから、剣を習っていた?)
「クリュウ君」
「はい、師匠?」
「クリュウ君は、こんな感じなことをするのは、初めて?」
「う~ん、お姉ちゃんから少しだけ教わりました。それからは、農業してたので毎日鍬を振るっていました」
そして、彼はシズクの指示がなくとも、また素振りをする。 その話を聞いてから、ある程度考えると
シズクは、彼の太刀筋の秘密に気づく。
(お姉さんが、彼に太刀の振り方を教え。彼は、それから毎日鍬で農作業。彼は、知らない内に努力を重ね。この太刀筋に至った)
つまり彼は、彼の知らない所で努力をしていた。姉から言われたから農作業をしていたのか。それとも、生きるために鍬を振っていたのかは分からないが。彼は、一種の才能を目覚めさせたのかもしれないとシズクは、感じた。
「クリュウ君、次は横に振って」
「はいっ、師匠っ!」
ビュンと横に木刀を左右から一回ずつ振っていく。
「お~い、シズク。ちょっと、模擬戦しようぜ」
「ガルバさん、今さっき言った通り。私、この子の指導を」
「俺達の模擬戦を見せれば、こいつの為になるだろうしな。ほら、お前も見たいだろ?」
「うんっ! どんな感じなのか見てみたいですっ!」
目を輝かせるクリュウの姿にシズクは、重くため息をつき。仕方ないですねというと、木刀を構える。
それに続いて、ガルバも構え。二人の間に緊張が走る。
ただの模擬戦では、あるが。
二人には、本気で相手を殺す程の気迫と殺気が周囲に流れていく。
彼らは、まるで本気で殺しあうかのようだ。
「はっ!」
シズクは、距離を詰めるため。一気に駆けていく。
「ふんっ!」
クォンと突きが入れられ、その鋭い突きに周りの空気が弾けとぶ。それをシズクは、上へと躱し上空から斬撃を打ち込むが、全てをガルバは打ち返す。
「くっ!」
地面に降り立ち、身を翻し。ガルバに突っ込もうとしたその時だ。彼は、既にシズクの背後へと近づき木刀を喉元に突き立てる。
「ははっ、どうやら俺の勝ちだな」
「その様ですね、降参です」
二人の戦いが終わるのを見計らって、クリュウは手を叩く。一瞬では、あったが。彼は、その全てを目から記録する。
「どうですか、クリュウく……」
彼は、先程使った技を再現していた。彼の技量で可能な限りでは、あるが。
ガルバの鋭い突き。
シズクの凄まじい剣撃。
そして、無重力であるかのような動き。
クリュウは、それを再現する。
まるで、テープに撮った映像を再生するように。
「おいおい、どうやらこいつは。とんでもない化物みたいだぜ」
「ええ……。私達、混血とは違った人の限界を越えた化物ーー天才……」
二人は、再現する彼をただ見ていることしかできなかった。
「クリュウ君、いる~?」
そこにマオがやってくる。みんな頭を下げるなか。クリュウは、動きにキレを増すように何度も繰り返すが。マオが来た瞬間、クリュウも動きを止めた。
「あっ、マオさんっ!」
木刀を地面に置き、マオに飛び付く。
マオは、それを笑顔で抱き締め、クルクルとまるでオルゴールの人形のようだ。
「どう、この子は?」
「は、はいっ! 実は、その……。クリュウ様は……その……」
「あっ、僕は呼び捨てで大丈夫ですよ? というよりは……さっきクリュウ君って」
へぇ~とマオは、頭を撫でるとシズクのことをキッと睨む。
「あっ、魔王様。こいつ、才能ありますよ! 魔王軍に入れましょうぜ」
「シズク、ちょっとクリュウ君の目と耳をふさいで」
「は、はいっ!」
「えっ、えっ。なにをするんですか?」
クリュウの耳を塞ぎ、目を自分で閉じてもらう。
それを確認すると、マオは指をパキポキと鳴らすとにっこりと笑う。
「さて、ガルバ。まずは、どこから殴られたい? 頬か顎か鼻か?」
「ちょっ、ちょっとまずは。話をしましょうね、魔王様!」
「なら、自害をするか、もしくは私に殴られてこの世から消え去るか。どれがいい?」
「どっちみち俺、死ぬじゃないですか!? どっちも拒否で」
首を横にふり、真顔になる。
「こ・と・わ・るっ!」
ブンッと殴りかかろうとするその時、後ろからクリュウが抱きつく。
クリュウが必死に抱きついてくる姿に、マオは怒りを静めて。頭を撫でる。
「マオさん、殺すなんてやめてください! その人は、何もしてないです!」
「あぁ、ごめんね……。ちょっとクリュウ君をこいつって呼んだから。ガルバにイラついちゃって」
「僕は、気にしてませんから! だから」
「うん、大丈夫。もう、しないからね。……すまなかった、ガルバ。ちょっと沸点が低すぎだった」
ぺこりと魔王が、配下に頭を下げた。
二人は、そのことに驚愕する。魔王は、奔放な性格だ。配下のことを少し気に入らないからと適当に消してしまった時がある。
その彼女が、頭を下げた。
この少年は、そんなことをさせる。大事な人物なのだと二人は、分かった。
「それにしても……クリュウ君には、やっぱり癒され……あぁぁぁぁぁっ! これだっ!」
「ど、どうしたの? マオさん?」
「ふふっ、ありがと。クリュウ君のおかげで、みんなを納得させられる」
その時、二つの膨らみをゆさゆさと揺らしながら息を漏らして、エリンがきた。
「エリンッ! 分かったわ! 」
「ま、魔王様? 何が分かったんですか?」
「私は、勘違いしていた。種族長を集めるんじゃない。種族長の妻を集めるんだ!」
「へっ?」
エリンは、何がなにやら全く理解できていない。
「つまり、その妻達に人間の子の良さを教えるんだ! クリュウ君と触れあってもらえばきっと人間の良さに気づくっ!」
「ぼっ、僕ですか?」
「そうっ! クリュウ君がいれば世界なんて治まるの! クリュウ君のお父様、お母様! 産んでくださってありがとうございますっ!」
両手を空に祈るに握る。
その目は、まるで何かに取りつかれているようにも感じる。
「ですけど、クリュウ君を貸していいんですか?」
「貸したくないわよっ! でも、私達がけっ…ごほん。世界平和のためには、仕方ないことよっ! ごめんね……クリュウ君、協力してくれる?」
「勿論ですっ! 僕なんかが、世界平和の為に手助けできるなら僕は、頑張りますっ!」
ありがとうとクリュウを持ち上げ、高い高いとまるで赤子のように持ち上げ、クリュウが顔を真っ赤にしてることも気にせず。
自分の膨らみに、クリュウの顔を押し付け。頭を撫でる。
「よしっ! じゃあ、私頑張るからっ! クリュウ君も剣の方。頑張ってねっ! いくわよ、エリンッ!」
「ちょ、ちょっと待って……。もう、クリュウ君、また後でね~」
ちゅっと頬にキスをクリュウはされると、これ以上ないくらいに真っ赤になる。それを見て、ふふっとエリンは笑うと追いかけていった。
残された二人は、まるで台風が過ぎ去ったようなぼうっとしていた。
●
数日後、種族長の妻達に知らせが届く。
「おいっ、お前にだ」
「えっ? 貴方にではなく?」
ケンタウロス族に届き。
「おいおい。なんだよ、これは」
「えっ? 私宛?」
ラミア族に届き。
「こ、これどうぞっ!」
「あら、私宛? 魔王様は、何がしたいのかしら」
龍人族に届き
「あぁ!? 俺宛じゃないだ!?」
「ほらほら、そんなに怒らないで。一緒に温まりしょう」
夢魔族など多数の種族にて魔王からの食事会の知らせが届く。
それは、異例なことであり。
様々な種族。魔物が騒ぎ始める。
「ちっ、魔物が何でこんなにっ!」
「ミルトッ! 先攻しすぎだっ!」
身の丈を越える剣をミルトは振るい、何百もの魔物を切り刻んでいく。
まるで、彼女を避けるように彼女の周囲の魔物が消えていくが、その大群は減ることを知らない。
「くそっ! 俺達二人でこの大群は辛いぜっ!」
そんなことを言いながらも、彼は拳を振るい。ミルトに近づいていくが。激流のような大群の流れに押し流される。
改めて、カイはミルトの凄さに気づかされる。
「ぐっ、何なんだ。この女はっ! 全く、魔王も人間の子供にうつつを抜かして」
魔物ーーゴブリンの大群の先に居た将軍が、その言葉を発した瞬間。ミルトは、その言葉に反応したかのように全てを一瞬で薙ぎ払い、そのゴブリンに一瞬に詰め寄り。剣先を向ける。
「おいっ、お前は言葉を話せるようだな。その話、詳しく聞かせろ。話せば、この大群どもよりは、後に殺してやる」
「だ、誰がにんげ……わ、分かった。話す、話す!」
ゴブリンは、睨まれる。
その睨みは、自分より上位のゴブリンより。魔王から睨まれるよりも恐怖を感じた。
「それで、その人間の子供の名前は……?」
「た、確かクリュウと言った」
「それは、間違いないか……?」
「あ、ああ。間違いない。や、約束だ。とりあえず俺は後回し」
ニヤリとミルトは、悪魔の笑みを浮かべる。
その笑みは、それほど邪悪に満ちていた。
「お前を後回しにすると言ったな。さっきのは、嘘だ」
剣を高く振り上げると一瞬にして振り下ろされ、ゴブリンはまるでチーズのように分割された。
「クリュウ生きてたんだね、大丈夫。お姉ちゃんが助けに行くから。魔王なんて、怖くないよ。私、勇者だから」
「おいっ、俺のことも助けてく」
「カイ、こんな奴等の相手をしてる暇なんてない。さっさと魔王狩りだ」
ヒュンと駆け、大群の中から。カイを助けだし、夜空を駆けるように高く舞い上がる。
「おいっ、あのゴブリンと何の話を?」
「魔王に私の弟が、捕まっている。その情報を提供してもらった」
「なるほどな。それで、そのゴブリンはどうしてやった?」
「情報提供のお礼に。誰よりも先に還ってもらった。土に」
「おいおい、なんか映画の主人公よりも酷いことしてるぞ。ミルト」
ミルトは、その言葉を無視して、魔王の元を目指す。誰よりも愛する人を取り返すために。
更新のほど、様々な要因が重なって。なかなか書ける状態ではないのですが、状況を見て。書いていきますので…どうかお待ちください( TДT)