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03



クリュウは、二人に連れられ。大きな中世ヨーロッパを思わせる城。

魔王の居城、シュバルスティン城。

城の周囲の草木は枯れ、その城の周囲の空は暗雲が立ち込めている。

まさに、魔王の居城といえる。

門は、巨人でも入るのかと言うほど。人間には、大きすぎる門が来客を出迎える。クリュウは、唾をゴクリと飲み込み緊張すると両側から二人は手を握ってくれる。

三人が門の前に立つと、門は自動的に開く。

「久々だ、我が家に帰ってくるのは」

「そりゃ、そうですよ。魔王様が、城を飛び出して数年。勇者を相手してたのは、私なんですからね」

二人が明るく話をしていると、城の中から数名の人物が駆け出し、その手には槍を持っている。ただ、その手のものと似つかわしくないメイド服を着ている。

その者達は、槍を一斉にクリュウに向ける。

「魔王様! 人間が混じっています! 離れてください!」

「ひっ! ぼ、僕。歓迎されてない……ですね。僕を食べても美味しくないですよ!」

クリュウは、怯えてプルプルと震える。

「止めなさい、この子は魔王の客人。いえ、我々の仲間です」

「客人? 今日の夕食にするんですか?」

「えっ!? や、やっぱり僕食べられる!? 」

「この子は、客人と言っているでしょ。それとも魔王のメイドは、客人に手を挙げる無礼者と?」

三人は、ブルッと震えあがり。頭を下げ、槍を下げた。

「エリンは、本当に怖がられてるわね。貴方の方が、魔王っぽいんじゃない?」

「そんなことないですよ、私はただの吸血鬼。魔王なんて大それた者じゃないですよ」

「エリンさんは、吸血鬼なの?」

「そうだよ~。クリュウ君の血、吸っちゃうぞ~」

エリンは、人差し指でクリュウの頭をツンと軽く押す。

「クリュウ君、この吸血ババアに本当に血を吸われたら。私に言ってね。即、戦争よ」

「もし、この裏表激しい魔王様に。変なことされたら言ってね。その心の傷、癒してあげるから」

「う、うん。分かりました」

クリュウの頭上で、激しくバチバチと睨みあう二人を見て。小さくため息をした。


城の中に入ると、二人は色鮮やかなドレスに着替え終わり。クリュウは、執事服に着替えさせられた。

「あ、あの。この格好って?」

「ごめんね、男の子の服はそれしかなくて」

マオは、闇のように漆黒なドレスに身を包んでいる。その格好を相まって、彼女が魔王だと思いださせる。

「魔王様、連れてきましたよ~。あっ、クリュウ君格好いいよ! 似合ってる!」

エリンは、吸血鬼の名前に似つかわしい血のように赤いドレスに身を包んでいる。エリンの自己主張の激しい膨らみが、強調されており。ドレスの下は、若干透けているため。下着が、ほんのりと見えてしまう。

クリュウは、そのことに気づいてしまい、視線を直ぐにそらす。

「あれあれ? クリュウ君、なんで私のことを見てくれないの?」

「エリン。お前は、その格好はわざとか?」

「えっ? あぁ、勿論ですよ~。クリュウ君が、どんな反応してくれるか楽しみだったけど。可愛い反応してくれて良かった」

クリュウは、頭を撫でられ。照れたように更に視線をそらす。

「それで、練習相手は?」

「はいはい、シズク」

パチンと指を鳴らすと、その場に黒髪の女の子が現れる。二人の前の為か、片膝をつき。頭を下げている。

「シズク、参上しました」

「この子に剣技を教えてあげて」

シズクが、顔を上げるとそこには自分よりも一回りも。もしかしたら、二回りも若い少年がいた。

「こ、この子にですか?」

「そう。この子は、人間だから。決して、無理はさせないでね」

「に、人間!?」

「私からも宜しく頼む。ほら、クリュウ君も!」

「えっ、えっ? えっと、よろしくお願いします!」

クリュウは、言われるがままお願いする。物わかり良く、礼をした彼をマオは頭を撫でる。

「その剣技って?」

「クリュウ君はね、自分で自分を守る力が足りないの。だから、この子から奪えるものは全部奪っちゃって」

「そうそう。じゃあ、シズク。よろしくね」

私達は、別の仕事があるからと二人を残してどこかに行ってしまう。

「そ、それじゃ。クリュウ……君だっけ? 行こっか」

「はい、師匠!」

「えっ、し、師匠?」

「はい! だって、僕はこれから師匠から色んなことを教わるから。師匠なんです!」

「ははっ、そうだね。じゃ、お姉ちゃんに。師匠に着いてきて」

シズクは、クリュウを連れてある場所に向かっていく。それをあの二人は、物影から見ていた。

「本当に、クリュウ君に剣なんて教えさせるの~?私は、必要ないと思うけど」

「彼。あのケンタウルスの槍の投擲を剣で叩き落としたの。剣なんて、振ったことないはずなのに」

「へぇ~。すごい、ケンタウルスは狩りの種族だから。たまたまだったとしても、それの投擲を防ぐなんて」

「その通り。クリュウ君、姉がいるって言ったけど。まさか、姉の方に鍛えられたのかも」

「クリュウ君に姉がね。どんな人なんだろ~」



「くしゅんっ!」

ミルトは、小さく女性らしいくしゃみをする。

「おいおい風邪か?」

「そんなわけ……まさか、クリュウが私の噂を! はぁ~クリュウ~!」

「ミ、ミルトさん! 今、戦闘中っ!」

「そ、そうですっ! ミルトさん、前っ!前~!」

彼女達が、今戦っているのは、黒く大きなドラゴン。ワイバーンと呼ばれる種類だ。

「うるさいわね、はいはい。ちゃちゃと倒しちゃえばいいんでしょ。ちゃちゃとね」

ミルトは、身の丈に余る大きく鋭い大きな剣をドラゴンへと向ける。

「きっと、私に早く会いたいって言ってるんだわ。だからね、一撃で終わらせる」

「グオォォォンッッ!」

「ソルバ、ミミエ。ミルトに攻撃付加呪文を!」

「はいっ!」

「まっかせてください!!」

二人は、杖を構える。二人は、どうやら魔術を使う人間らしい。

「ソルシネイトッ!」

「ネカセイトッ!」

二人が呪文を唱えると、杖からまばゆい光が放たれその光が、ミルトを包んでいく。

「ありがとっ、でもね。正直必要なかったわ」

ミルトは、ドラゴンへと向かって駆けていく。その大きな剣を持って、駆けていく。

「グオォォォンッ!」

口からマグマのような凄まじい熱線を吐き、とてつもない熱気が周囲を支配する。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ゴォォンと凄まじい音とともに、剣が振るわれる。その一撃は、強力すぎ。ドラゴンを斬るという粉塵の域にまでバラバラにしてしまった。

「ふぅ……クリュウ……。どこ、どこにいるの……」

ミルトは、空を見上げる。

「おいおい……。マジかよ、恋する乙女は末恐ろしいぜ」

カイは、苦笑いでミルトを見る。

「あ~、クリュウ……」

「本当に弟さんのことが心配なんですね……」

ミルトは、どこかで元気にやっているであろうことを考えて。心を落ち着かせる。

「きっと、どこかで……ね」



クリュウは、シズクに連れられて。庭に連れてこられる。庭では、何人かの衛兵が修練をしていた。

その中に一人、人目をつく者がいた。

黒髪、ロン毛の男であり。頭に小さな角が二本付いている。男は、二人に気づくと声をかける。

「あれ、シズクちゃん。男連れちゃって、しかもそんなガキなんて連れて……。まさか、ショタコンなのか?」

「ち、違いますっ! これは、エリン様に頼まれて」

「ふ~ん、まぁあの人にとっちゃ。だいたいの奴は、ショタみたいな扱いか」

「あまり、エリン様の年齢に触れることは言わない方がいいですよ?」

「エリンさんって、何歳なんですか? 師匠」

シズクは、ははっと苦笑いを浮かべると。そのことについては一切答えなかった。

「ガルバさん、木刀ってありますか?」

「あぁ、あるぜ。それで、その子は何の混血ハーフなんだ?」

「いえ、何というか人間らしいです」

「はっ? 人間の混血?」

「違います、この子は人間なんです」

「なっ、えっ、はっえっ?」

ガルバは、頭の中で。何かを考え、彼の中で一つの答えが出る。

「それは、あれだっ! お前にこの子をプレゼントだよっ! 好きにしろってこった」

「ですが、エリン様。私に剣を教えてくれって」

「だったら、これはあれだ。お前に育てろってこった。良かったな、坊主。こんな綺麗で若いお母さんが出来たぞ」

ニカッとガルバは、笑みをつくり。やったなとクリュウの頭を撫でる。

「お、お母さんなんて。わ、私には無理ですよ! それに私まだ……」

「処女なのか?」

顔を真っ赤にして、回し蹴りをシズクはガルバの右側頭部に入れる。

だが、その一撃をガルバは右手で受けとめる。

「こ、子供の前でな、ななんてこと言うんですか!ガルバさんは、もう少し場を弁えて」

「悪かったよ、まさか本当にそうだとは思わなかったんだ。清廉なイメージは、あるが。まさか、イメージ通りとは」

「あの、すみません。処女ってなんですか?」

「ク、クリュウ君にはまだ早いから。もう少し大人になってからね」

説明するわけにもいかず、シズクは笑って誤魔化そうとするが。ガルバは、うむと何かをまた考えはじめると思い付いたように言う。

「坊主つまりな、汚れを知らないってこった」

「なら、純粋ってことですね。師匠は、心の綺麗な人なんですね」

「ははっ。ありがとね。じゃ、私達は、これで。しっかり付いてきてね」

シズクに置いていかれないように、クリュウは付いていく。その姿を見ながら、ガルバは小さく呟く。

「あの少年……誰かに似てる気がすんだよな。まぁいっか……」



マオとエリンは、考えていた。魔物をまず納得させるにはどうしたらいいかを。まず、どのように伝えるかを。

「さて、どうしたものか」

「魔物の種族長を集めて、晩餐会を開くのは決めましたが……。さて、みんなを納得させるには……」

「あぁ~、もう私に支持があれば。嫌がおうでも納得させるのに!」

「そこは、嘆いても仕方ないですよ。それと人間の方の説得も……」

う~んとマオは、唸る。言ってはみたものの、実現するのは難しい。納得させるには、それ相応の理由があればいいが。

魔物は、人を食物としか考えていない。

その点から、何を伝えても歩みよることなどないと思われる。

人も同じだ。

歩みよる利点はない。むしろ、魔物を近くに置いてしまえば自分が食われるかもしれないと恐怖を感じるかもしれない。

人と魔物には、確執があった。

「簡単なことならお父様がするはずよね」

「魔王様、それはないですよ。だって先代魔王様は根っからの魔王気質で、人類滅ぼすぞ~ってのが口癖だったじゃないですか」

「そうだった、ご飯食べたら滅ぼす。寝たら滅ぼす。風呂上がりに滅ぼす。とにかく滅ぼしたがりな人だった」

二人には、なかなかいい案が見つからなかった。二人は、大きくため息をついて。机に突っ伏してしまう。


二人のやろうとしてることは、あまりにも大きすぎた。


「あ~、クリュウ君に会いたくなってきた」

「ですね~。あの子には、癒されます」

マオは、キッとエリンを睨み付ける。

「エリン、どうやらあの子のことが気になってるみたいだけど。どうしたの?」

「えっ? そ、そんなことないですよ~? 魔王様ったら可笑しい。そもそもクリュウ君は、魔王様のものじゃないですよね?」

明らかに、目線をそらしたエリンは。マオの痛いとこをつく。今のとこを保護者(自称)を名乗っているだけで。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

「私のじゃなくても。魔王のは、魔王のもの。全世界の生物のものは、私のもの」

「うわぁ、ガキ大将よりスケールデカイ上に流石、魔王って感じです。そこにシビレたり、憧れたりします」

「いや、私吸血鬼じゃないし。そもそも吸血鬼なのはそっちだし」

二人は、言い合いを終えるとまた机に突っ伏してしまう。会話で、すべての力を使ってしまったかのように。

「もう、クリュウ君に会いに行きましょう……」

「そうね……。癒してもらいましょう……」

二人は、立ち上がるとクリュウの元に向かって、全力で駆けていった。

果たして、人間と魔物の共存は可能なのか。

姉は、弟と会えるのか。

魔王は、彼のことを奪えるのか。

徐々に盛り上がっていきますの応援よろしくお願いします。

また感想やご指摘のこと、お待ちしております。

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